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ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1021年 5月

 佐和が亡くなった翌月、落ち込んでいた夢見も初子の元に引き取られ、
 壬生川家は、代わり映えのない平安な日々を送っていた

以「アレ、元服の儀?」
イ「はい、たった今終わりましたァ」
 寝坊した以蔵が居間を訪れたとき、後片付けをしているイツ花と出会った
以「今月誰か元服したの?」
 あれと首を傾げる
イ「何をおっしゃってるんですかァ、以蔵さまw」
 軽く笑いながら、イツ花は片付けを終えて去ってゆく
 取り残された以蔵は、腕を組んだ
 オレはまだだし、蘭姉はこの前やったしなぁ、と考え込む
 唐突に、以蔵の視界が柔らかなものによって塞がれた
○「だ~れだぁ~
以「……お前、いくらなんでも同じ家で暮らしていて、間違えねーよ」
 以蔵は顔に当てられた手を外しつつ、振り返る
以「まったく、白波河太郎の親父だろ
夢「家に居ないですぅ!w
 そこには夢見が髪を結って、藍色の儀礼服を身にまとっていた
以「何だか、テンション高いな夢姉」
夢「ふっふぅん~」
 その場でくるりと回って見せる
以「どーした」
夢「きょうのユメ、何だかオトナっぽいと思いませんかぁ?」
 以蔵は真顔になって、考え込む
以「……すまん、時間をくれ」
夢「え~」
以「来月までには考えておくから、な
夢「長すぎますぅ!
 夢見がポカリと以蔵の頭を叩く
 いつもと違ったノリの良さに、違和感を覚える以蔵
以「……何か、機嫌が良いな夢姉」
夢「そりゃぁ、元服したんですものぅ~」
以「なッ
 以蔵は絶句した後、何かに気づいたように指折り数える
以「ってことは夢姉……蘭姉と、3ヶ月しか年が変わらねーのか!」
夢「そっちにビックリするんですかぁ!w」
 現在、蘭11ヶ月、夢見8ヵ月、以蔵5ヶ月である
以「信じられねぇ……こんなにちっこいのに」
 夢見の頭に手を置く以蔵、三つの血筋で一番小さい家系の以蔵だが、現在身長160cmとすでに夢見を越えている
夢「ふふぅん、もうユメちゃん交神だってできるんですからぁ~」
以「カッパと?
夢「しませぇん!」
 ぼす!と以蔵の腹を強打する夢見
夢「もぅ、最近いっくんナマイキですぅ」
 夢見がぷんすか怒りながら部屋を出てゆく中、その場に崩れ落ちた以蔵が腹を押さえてうめき声をあげる
以「……訓練はサボりまくりのくせに……良いパンチじゃねーか」
 調子に乗ってからかいすぎた以蔵に、訪れた罰
 以蔵はその後、初子が出陣を誘うまで、床を転がり続けたという


<出陣>
 
初「それじゃぁ、出陣しましょうー♪」
 元気よく手を挙げる初子に夢見と、やる気のない以蔵
夢「あれぇ、どうしたんですかぁ、いっくん~?」
以「腹が痛いんだが……」
 つーかいっくん言うなよ、と続ける
初「痛いの痛いのとんでけー?」
以「いやそんな笑顔より、もっと実益のある<お雫>とかが……」
 こんな能天気な母親から、どうして自分のような枯れた息子が生まれたのか、未だに理解できない以蔵
夢「あれぇ、蘭さまはお出かけなさらないんですかぁ?」
 玄関に立って、土間にいる蘭と鈴鹿に首を傾げる
蘭「……今月は、俺は出陣せずに鈴鹿を訓練する」
 以蔵がぽつりと、あんなに戦大好きな蘭姉が、とつぶやく
蘭「……鈴鹿に訓練できるのは今月で終わりだからな」
初「つまり、今月を逃すともう奥義が伝承できないんですねぇ」
蘭「……初子には通用しなかった技だがな」
 蘭は拗ねたようにそっぽを向く
 鈴鹿が蘭の袖を引っ張って尋ねる
鈴「母上は、当主さまより弱いんですか?
蘭「……」
 思わず沈黙する蘭
以「でも、そんな蘭姉も、オレたちよりはずっと強いけどな」
夢「ですぅ」
 図式に表すと、初子>蘭>夢見≧以蔵という形だろう
初「ううん、いっくんも夢見ちゃんも、最近めっきり強くなっているじゃないですか♪」
 幸四郎が亡くなって以来、壬生川家最強の座を守り続けている初子が謙遜する
以「まー夢姉からは一本取れるようになったしな」
夢「ユメはぁ、武道なんて野蛮なことしませんもぉん~」
以「じゃ、どーするんだよ」
 こんな壬生川家で、とつい口走りそうになる
夢「ユメ、子供を産んで、引退しますぅ!」
 小さな握り拳を天に掲げる夢見
初「え、えーっと、あはは……」
 初子が困ったように微笑む
以「よしじゃー、旦那さんでも探しに行くか、夢姉」
夢「え、京の都ですかぁ!?」
 宝石のようなキラキラした瞳で、以蔵を見つめる、が
以「いや九重楼
夢「いやぁぁぁぁ~~、そんなところにユメの未来の旦那さまはいませぇぇぇん~~~~」
 蘭と鈴鹿のお見送りを背中に受けながら、夢見を引っ張って、初子と以蔵は出陣したのだった
 

<九重楼>
 
夢「しくしくしくしく……」
初「ほらほら、いつまで泣いているんですかぁw」
 初子が少女を宥める中、かたや以蔵はさっさと先に行ってしまう
以「お」
 何かを発見したように、振り向く
以「おーい、夢姉、未来の旦那さま発見したーぞ」
夢「ぐすっ……ど、どれですかぁ?」
以「コレ」
 紅こべ大将を夢見の前に突き出す
夢「はひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
 大慌てながらも、バスバスバス、と至近距離から矢を連射する夢見
以「あーあ、旦那さま穴だらけで昇天、ひでーな、ドメスティックバイオレンスだよ」
夢「ど、どっちがひどいんですかぁ、うわぁぁん初子さまぁぁぁぁ!」
 ビックリしたためか、当主の胸に飛び込んでわんわん泣き出してしまう
初「もぅ……いっくん、あんまり意地悪しないのー」
 相変わらず怒っているんだか怒っていないんだか分からない初子のふくれっ面に睨まれて、以蔵はむむぅとつぶやく
以「朝の仕返しのつもりだったんだけど、何かこれ以上やると、嫌われちまいそーだな……」
夢「いっくんなんてぇ~、き~らい~ですぅ~~」
 お世話にも、後ろから援護射撃が飛んでくる
以「むぅ」
初「まったくもぅ、ケンカするほど仲が良い、もほどほどにするんですよ二人とも」
 初子に撫で撫でされながらも、夢見は仲良し違いますぅ~~と首を振る
 以蔵が少し離れて、やりすぎちまったかな、と思いながら先に進む
以「……ん」
 と、先ほど以蔵の倒した鬼から、淡い光がにじみ出てきて……

以「オイ、夢姉」
夢「なんですかぁー」
以「本当に、お前の未来の旦那さまが出てきたかもしれねーぞ」
夢「ふぇ……」
 巨大な妖怪の身体の中から、神気が発せられ、神々しい御姿が浮かび上がる
 
 ○○「助かったぞ、人の子らよ……!
 
 その光は天に昇り、そして火の粉を振りまいて見えなくなった
夢「未来の、旦那さまぁ……?」
 ぽーっとした表情で夢見が、小さくつぶやいた

 その後三人は九重楼を上へ上へと登り、大量の奉納点を手土産に、壬生川家へ帰還したという
by RuLushi | 2005-08-31 02:12
1021年 4月後編

 蘭の鈴鹿箱入り計画は頭から崩れた
初「蘭さん、準備整いましたかぁ?」
蘭「……ああ」
 衣裳室から出てくる蘭
 当然というか何と言うか、今月も出陣はあるのだ


<出陣>
 
佐「それじゃ、鈴ちゃんはウチが預かった!
 後ろからがばっと鈴鹿を抱きとめる佐和
 玄関に立つのは、初子、蘭、夢見、以蔵の四人
初「頼みましたね、佐和お姉さま♪」
佐「フハハー、返して欲しくば代わりにはっちゃんを置いてけー」
 蘭が初子の首根っこを掴んで引っ張ってゆく
蘭「要らん
佐「ああっ」
 佐和が名残惜しそうな声を上げる
鈴「それでは、行ってらっしゃいませ」
 恭しく礼する鈴鹿に、以蔵や夢見が手を振る


<九重楼>

 壬生川家は、慣れた九重楼を上へ上へと登ってゆく
 七天斎八起も開放したため、道を阻む敵は居ず、順調に奉納点を稼いでゆく
初「今頃……」
 戦いの合間、初子がふっと顔から力を抜く
初「佐和お姉さまは、何を考えていらっしゃるんでしょうねぇ……」
蘭「……何故、佐和の話題が」
 蘭は不満そうな顔で尋ねる
初「鈴鹿ちゃんがいて良かったです」
蘭「……待て、何の話だ」
初「わたしだったら、大事な時間を一人で屋敷で過ごすなんて、とっても耐え切れないと思いますから……」
 初子らしくない薄い表情に、蘭は違和感を覚える
蘭「ちょっと待て、それでは……まるで」
 蘭の脳裏に、佐和の笑顔が思い浮かぶ
 佐和は今月で、1才7ヶ月になるのだ
初「わたしもお父様のように、最期は戦場で過ごしたいです」
 そう言って初子は、着物の裾を払って立ち上がった
以「母さん、なかなか拳法家の指南書出ねーよー」
夢「ユメ、もうくたくたですぅ~……」
初「えー、九重楼にあるって攻略サイトに書いてあったもんー」
 よく分からないことを言う初子
 その表情は、すっかりいつもの当主・初子のものへと戻っていた
 
 その後壬生川家は、一ヶ月九重楼で善戦を続けるも、結局目的の指南書は出ないままであった


<壬生川家>

 戻ってきた初子を迎えたのは、曇った表情のイツ花だった
イ「当主さま、あの」
初「覚悟は出来ております」
 その顔で全てを察する
イ「……命の炎が燃え尽きようとされている方がいらっしゃいます」
 目を閉じて歯を食いしばる初子
 足にしっかり力を込めないと、崩れてしまいそうな身体を支える
イ「お気を強く持ってこちらへ」
初「……はい」
 
 
<佐和の部屋>

夢「ママ!」
以「佐和姉!」
 戦場から帰ってきた家族が、佐和の部屋を訪れる
佐「オー、オカエリぃ」
 布団に横になったままニコリと笑う佐和
 隣で看病していた鈴鹿がぺこりと頭を下げて、退室してゆく
佐「イヤァ、鈴ちゃんは飲み込みが早いネ、良い術師になるヨ」
蘭「……そうか」
初「佐和お姉さま……そんな、最後まで」
 夢見が佐和にすがって、ママ大丈夫ママ大丈夫?と何度も尋ねる
佐「いや何か、もうダメみたいダワ」
夢「そんな……」
佐「ユメはあんまりワガママ言って、はっちゃん困らせるんじゃないゾ」
 そう言って、佐和は夢見の頭を撫でようとするが、腕に力が入らなくて撫でられなかった
 そんな力ない佐和を見て、蘭が目を伏せる
蘭「……いつも騒がしくて、鬱陶しい女だと思っていたのだがな」
佐「ウチ自身もこんな日が来るなんて、思ってなかったヨ」
 ハハハ……と笑う
初「こんなに若くてお綺麗なままなのに……」
蘭「……何か遺言があるなら、聞いてやるぞ」
 蘭が同じ人を好きになったよしみとばかりに、佐和に尋ねる
佐「……はっちゃんの全てが欲しイ」
蘭「他の遺言にしろ
 死にゆく人に対しても、キッパリと断る蘭
初「もう、何を言っているんですかこんなときに……」
佐「じゃあ済まナイケド、はっちゃんと二人きりにさせてチョーダイ」
 蘭を見上げて、そうつぶやく
蘭「……変なことをするなよ」
 佐和にすがって泣く夢見を立ち上がらせて、以蔵と共に部屋を出る蘭
 初子は立ち上がって、佐和の枕元に座り直す
佐「ネー……はっちゃん」
初「はい……」
 佐和が勇気を出して、初子を見つめる
佐「あの……ウチに、口付け、してもらってもイイ……?」
初「え……は、はい」
 戸惑いながらも、こくんとうなずく初子
 
 少し暗い部屋で、初子と佐和の影が一瞬だけ重なる

 部屋の前で待っているであろう蘭たちに聞こえないように、佐和はう~~、と唸る
佐「こんなに簡単だったナラ……もっと前から、頻繁におねだりしておけば良かった……すっごい後悔ダ」
初「そんなことしたら……照れて、翌日なんてまともに顔見られませんよ……」
 口元を押さえながら、初子がつぶやく
佐「……蘭ちゃんにはナイショだからネ」
初「言えませんってば……」
 うふふぅと漏らす佐和
佐「ウチホント、はっちゃんと同じ年代に生まれて……ホント感謝ダヨ」
初「佐和お姉さま……」
 初子は枕元に座って、佐和の手を握る
初「……ごめんなさい、こういう大事な時に、何て言えば良いか分からなくて……」
 生まれた時からずっと傍にいた親友との別れ
 初子は佐和の手をさすって、必死に涙をこらえていた
佐「お母さんとか、幸四郎オジサンは、死ぬ前に笑ってたんだヨネ」
 佐和はそんな初子を、ずっと見つめていた
佐「ウチも死ぬ前になれば、そんな気持ちになるのかナ……って、思ってて……でも」
 佐和の息が細くなってきた
 初子は佐和の手を、まるで引き止めるように、強く握り締める
佐「でも……全然分からないよ、ウチ」
 佐和の大きな瞳から、涙がこぼれた
佐「格好悪くて、無様だけど……分かんない、死にたくナイよぉ」
初「佐和お姉さま……そんな、格好悪くなんて無いです……」
 精一杯最後まで生を願う人を、そんな風に言える人なんているはずがない
佐「……ウチ、死にたくない……死にたくない、いきたくないよ……はっちゃん……」
 ノドを震わせて、かすれ声を上げる
佐「こわいよ……こわいよ、もっと壬生川家にいたいよ……はっちゃんたちと、あそびたい……あそびたい……」

 段々とその声が、小さくなってゆく
 佐和の手首から、力が抜けてゆく

佐「はっちゃん……だいすき……もっと、もっといっしょにいたかった……だいすき…………」
初「わたしも……佐和お姉さまのこと、大好きです……」
 初子が、佐和の手をさする
 ほとんど聞き取れないほどの声で、佐和がつぶやく
佐「はっちゃん…………」
 
 こうして佐和は、恋していた人に看取られて、この世を去った
 無念をその身に抱えて……


 佐和の手を握ったまま、初子は泣いた
 想いは言葉にならず、感情は涙となって溢れた
 

 大好きだったのに救えなかった、初子はそう言いながら泣き続けた


 
 
 壬生川 佐和 享年1才7ヶ月
 
「ウチのてをしっかりにぎってて……からだが、どこかへ……とんで、いきそうなの……」

 
 
 

 こうして初子は一家の最年長になり、
 少しだけ、大人になった
by RuLushi | 2005-08-29 01:56
1021年 4月前編


 初子が蒼白の表情で、佐和の部屋から出てくる
 その様子を目ざとく見つけた人がいた
夢「あれぇ、初子さまぁ?」
初「あ、な、何?」
 その様子にむしろ夢見が驚いてしまう 
夢「いや、ママの部屋から、どうしたんですかぁ?」
初「ううん、何でもないの……ただ、佐和お姉さまの具合を見に、ね」
 初子はいつものように微笑むと、自分より背の高い夢見の頭を撫でて去ってゆく
 少し様子がおかしかった気がする、と夢見は首をひねった
夢「謎ですぅ」
 自分の部屋に戻ると、佐和が術の勉強をしていた
夢「ただいまですぅ」
佐「オカエリー」
 どこも変わった事はないように思える
夢「ママって元気ですぅ」
佐「どうしたノイキナリ」
 夢見はたたみの上にごろりと転がる
夢「だってぁ、もう1才7ヶ月なのにぃ、寝込んだりしないで机の前で学問しているんですぅ~」
佐「ハッハッハ」
 少し誇らしげな佐和
佐「そらウチは80才まで生きるコですカラ」
夢「壬生川家でそんなことが起きたら、化け物ですぅ……w」
 夢見がたらりと汗を流す
佐「……マァ、はっちゃんには見抜かれちゃったケド」
 ぽつりとつぶやく
 佐和の前にある書物の頁は、先ほどから一枚も進んではいなかった
 

<蘭の子供> 
 
イ「三ツ星凶太さまの元より、お子様が参っております!」
蘭「来たか……」
 蘭は口をへの字に結んだままだ
イ「何で嬉しそうじゃないんですか、蘭さまw」
蘭「どうしてだろうな……」
 賭けに負けて産んだ子だから、とは言えない蘭
イ「それはそうとォ……お喜びください!」
 イツ花は笑顔でパチパチパチと拍手する
イ「膝がしらとくるぶしの形がまん丸で可愛い、もちろん女のお子様です!」
蘭「……女か」
 あまり男女の優劣がない壬生川家ではあるが、戦の面で言えば少々不満な蘭だった
 
○「初めまして、母上」
 髪を後ろにまとめた凛々しい少女が入ってくる
 
 名前は鈴鹿(スズカ)、蘭の家の伝統を受け継いだ薙刀士だ
 枯れ葉色の髪を後ろで桃色の飾り布を使ってまとめた、碧眼の凛々しい少女である
 
蘭「お前の母だ、よろしく」
鈴「よろしくお願いします、母上」
 かしこまって正座する鈴鹿
蘭「ふむ……しっかりしているな」
 蘭がうーむと見た感想を言う
鈴「はい、私はしっかりしています
 少し……違和感を感じる
蘭「……いや俺は、お前と夢見を比べて、そう思ったのだが」
鈴「そうですか」
 不思議な沈黙が訪れる
 何だろうこの間は、と思う
蘭「……俺は、あまり人の親にはふさわしくない人物だ」
 蘭がぽつりとつぶやく
 本来産む気もなかったしな、とはさすがに言わない
蘭「だから親らしいことを、俺に期待するな、そういうのは初子に頼め」
鈴「はい、一切期待しません
 鈴鹿がバカ正直にうなずく
蘭「……まぁ、屋敷の皆に紹介するか」
 蘭はダルそうに腰を上げて、鈴鹿を手招きした
 
<居間>
 
蘭「……居るか、初子」
以「母さんなら居ないぞー」
 居間でだら~っと座っていたのは、以蔵ひとりだった
以「何か、イツ花の知り合いにお医者さんがいるみたいで、良い漢方薬を貰ってくるってさ」
蘭「漢方薬……? 安いものではなかろうに、なぜだ」
以「さー、母さん長生きする気なんじゃねーの?」
蘭「ふむ……まぁ、初子は長生きしてほしいな」
 それよりさ、と以蔵が話を変える
以「その子誰よ」
 以蔵が尋ねたのはもちろん、蘭の後ろにいる鈴鹿のことだ
 まさかどこかから孤児でも拾ってきたとか、と言う以蔵に、蘭は首を振る
蘭「俺の娘だ」
以「はい!?
鈴「鈴鹿です、よろしくお願いします」
以「え、マジで蘭姉の娘さん!?」
 生真面目そうな少女を見て、愕然とする
以「蘭姉と交尾するなんて……なんて勇敢なヤツなんだ」
蘭「……」
 以蔵はぺこりと頭を下げる娘に、したり顔で話しかける
以「いやでも大変だな、鈴鹿も」
鈴「大変なんですか?」
 首をかしげる鈴鹿に、以蔵はうなずく
以「ああ、この家は短命、種絶の呪いだけじゃなくてーな、他にももうひとつ呪いを抱えているんだ」
鈴「そんな話、父上からは聞いてませんが」
以「いいや、神様たちは知らねーんだ、壬生川家の伝統みたいなものだからな」
 蘭が見守る中、以蔵は調子に乗ってどんどん続ける
以「それはな、年の差は絶対の呪い、ってーヤツだ」
鈴「年の差は絶対の呪い……」
 顔をこわばらせて恐怖する鈴鹿
以「ああ、コイツは曲者でな、自分の年上の人には何があっても逆らえない、長く生きるまで下が来るまでは、地獄のような日々だ……」
鈴「地獄のような日々……
 鈴鹿が反芻する
以「夢姉には玩具にされ、蘭姉には疎まられて、母さんには相手にされず、佐和姉には邪魔者扱いされる始末……」
 その場で泣き真似をする以蔵
 ここ数ヶ月の鬱憤を晴らすように喋る
鈴「以蔵兄上、可哀想に……」
以「しっかーし!」
 急に復活する
以「そんなオレの位置もきょうまでだ! これからはその最下層は、鈴鹿が引き継ぐんだ!」
 ビシッと指差す
鈴「そ、そんな……私にそんな奴隷なんて大役が、務まるでしょうか……」
 わなわなと震える鈴鹿
 そこで以蔵は、ん?と我にかえる
以「何かこのコおかしくねーか、蘭姉」
 ツッコミを放棄して、以蔵の読んでいた年上に好かれる魅力作り!の続きを眺めていた蘭が、顔を上げる
蘭「どうやら……」
 と前置きして、話しを続ける
蘭「鈴鹿は、人を疑うということを知らないのか覚えていないのか……バカ正直らしいな」
以「ええっw」
 あまりにも突拍子も無い話に、引く以蔵
鈴「私はただ……人を疑ってはいけない、と教わっただけです」
蘭「しかし、限度というモノがあるだろう」
鈴「誰とでも拳を交わえば分かり合える、と父上は申しておりました」
 お前は壬生川家全員と拳を交えるつもりか、と以蔵が思う
以「これは、佐和姉や夢姉には会わせないほうが良いんじゃねーか、蘭姉」
蘭「……むしろ、お前にも会わせたくなかったなと今思ったが」
 やはり鈴鹿の面倒は初子に見てもらおう、と誓う蘭であった
by RuLushi | 2005-08-28 02:53
1021年 3月

 春の兆しが見え始め、徐々に暖かくなってきた毎日
以「うわ何このツボ
 以蔵が佐和の部屋で、何か面白そうなモノを発見する
夢「わかんなぁい、ママがある日洞窟から拾ってきたのぉ~」
 以蔵は夢見の部屋によく遊びに来るようになっていた、自分の部屋(初子の部屋)に居るとどこからか佐和や蘭が来るのだ
 それに佐和の部屋には面白そうなものもいっぱいある
以「洞窟から……でも何か、良いツボだな
夢「何か、持っていると偉くなった気がしますぅ」
 以蔵と夢見は、とりあえず床の間に飾られているツボを拝む
 やっぱり、面白そうというより変なモノばっかり置いてある気がする
佐「オーイ、ふたりとも、準備準備ー」
以「あれ、佐和さん」
夢「初子さまのトコで、イチャイチャしてたんじゃないんですかぁ?」
佐「いやイチャイチャは終わったケド、ていうか明日もスルシ」
 それはいいとして、と佐和は話を戻す
佐「ホラ、今から京に行くヨ」
夢「ええっ!?」
 夢見の目がキラキラと輝く
以「京の都に……マジで!?」
 以蔵と夢見が手を取り合って喜ぶ
 夢にまで見た、花の都だ
 
 
<春の御前試合>
 
 騙された、と以蔵がつぶやいた
初「あれ、どうしたの夢見ちゃん?」
夢「なんでもありませぇん……」
 帝の前で、よよよと涙を流す夢見
蘭「(……まさか、京都観光だとでも思っていたのだろうか」
以「つーか、完全武装で京の都に行く時点で気づくべきだったよな……」
 初めての都に浮かれていた自分を恥じる以蔵
佐「壬生川一族ー、特にはっちゃんー、ガーンバーガンバー!」
イ「皆様頑張ってくださいネー!」
 応援席で手を振る、のんきな二人
夢「ママ変わってくださいですぅ~」
佐「ウチ、今忙しくテ」
夢「お団子食べているだけじゃないですかぁ!w」
 あーん美味しいと悶える佐和を見て、夢見の弓を持つ手がぷるぷると震える
初「ほらほら、佐和お姉さまが見ててくださるんですから、しっかりしないとね♪」
夢「ぅ~……」
 
 まもなくして、帝の挨拶があった
ここに集めたものはいずれもその道の達人!
 日ごろ鍛えし腕前、存分に競い合うがよかろう
 では第九回春の「朱点童子公式討伐隊 選考試合」
 開催を宣言する!!


 
 場所を変え、控え室に待機する四人
 夏の御前試合に出場した人で残っているのは、今では初子と佐和のみ
 今回の参加者は、初子、蘭、夢見に初陣の以蔵だ
蘭「以蔵も、不平は言うが訓練はサボった事がないしな」
初「いっくんなら、緊張せずにいけるいけるって♪」
 大きいのと小さいのから、肩をぽんと叩かれる
以「……何かオレ、この家に来てから、初めて人に期待された気がする
 3ヶ月の槍使いの性格は、すでにずいぶん捻じ曲がってしまっているようだ
夢「うぅ、ユメ帰りたいですぅ……」
初「終わって時間余ったら、一緒に京都の町を見て回ろ?」
夢「う……それなら、ユメ、何とか頑張りますぅ……」
 初子にしがみつく夢見
蘭「……そうだな、俺も、京都の町も視察せねばな」
 つぶやく蘭の頬が、少し赤くなっていた
 
 その後、呼びに来た使者に促され、第一回戦の準備を整える一同
 
 第一回戦の相手は、前々回に苦渋を舐めさせられた京阪傭兵組合だった
傭兵隊長「おや、アンタ……夏の試合に出てきた、お嬢さんか?」
初「はい、去年はお世話になりました」
傭「そうかいそうかい、にしても……少し見ない間に、でっかくなったもんだなァ」
 いぶかしそうに初子を見つめる
傭「それは良いとして、あの人の良さそうな剣士さんはどうしたい? 戦いたかったが、去年は当たらなくて」
初「父は……夏の戦いのすぐ後に、命を落としました」
傭「そうかァ……まァ、人生色々あるもんだよな、今回はお手柔らかに頼むぜ」
初「はい、こちらこそ」
 ぺこりと一礼する初子
 第一回戦が始まる
 その中で特に善戦したのは、前回初子に負けた鬱憤を晴らそうと気を張る蘭だった
蘭「双光――斬!
 相手の前列をまとめて薙ぎ払う奥義によって、致命傷を次々と与えてゆく
夢「うわぁ……」
以「蘭姉、こええ……」
蘭「ハ、下郎が!
 段々とテンションの上がってきた蘭
 初子と蘭が次々と相手の連携を破ってゆく中、怯えるちびっこたちは後衛から支援に徹する
初「……えい!」
 槍の一突きで、傭兵隊長が後ろに吹っ飛んでゆく
○「それまで、一本!」
 緊張の糸が途切れて、夢見と以蔵がワッと声を上げる
 こうして壬生川一族は、京阪傭兵組合を見事に打ち負かしたのであった
 
 その後、第二回戦の大原野魔術団を軽くあしらった壬生川一家は、
 続く決勝戦ぽんと自警団を、一本で制した
 
最後までよく戦ったぞよ!
 では第九回 春の「朱点童子公式討伐隊 選考試合」
 最終結果の発表じゃ!
 最後にシ烈な試合を制し、頂点を極めし者に、惜しみない拍手を!
 優勝は………………!
 壬生川一族じゃ!!
 そちたちの力で今年こそ京に平和を取り戻してくれい!!頼むぞ
「壬生川一族」筆頭公式討伐隊の任を命ず!

 
 三代目当主・初子率いる壬生川家が、京都最強の称号を手に入れた瞬間であった
 その後、一同は支度金21230両と多くの宝物を貰い受け、京都の観光を楽しんで、屋敷に帰還したのだった
by RuLushi | 2005-08-27 00:55
 1020年 10月からの武録
 初の女当主・初子が生きる1020年の日々!
 天才軍師のツッコミは、きょうも壬生川の屋敷に高く冴え渡る!
                             (右クリック「すべて選択」で死が浮かびます

 10月 交神の儀・初子×白波河太郎 訓練・佐和→夢見    =一家を見守る=

 11月 出陣・大江山(初子・巻絵・佐和・蘭)
      反魂の儀・巻絵→蘭 巻絵・落命              =前編= =後編=

 12月 出陣・九重楼(佐和・蘭・夢見)
      以蔵→槍使い・初見 訓練・初子→以蔵           =一家を見守る=

1021年
 1月 出陣・鳥居千万宮(初子・佐和・蘭・夢見) =一家を見守る=

 2月 元服→蘭 交神の儀・蘭×三ツ星凶太 =前編= =後編=

 3月 出陣・選考試合(初子、蘭、夢見、以蔵) =一家を見守る=

 4月 出陣・九重楼(初子、蘭、夢見、以蔵)
     鈴鹿→薙刀士・初見 訓練・佐和→鈴鹿 老死・佐和  =前編= =後編=

 5月 元服→夢見 出陣・九重楼(初子、夢見、以蔵) 訓練・蘭→鈴鹿 =一家を見守る=
 
 6月 交神の儀・夢見×タタラ陣内        =一家を見守る=
 
 7月 出陣・白骨城(初子、蘭、以蔵、鈴鹿)       =一家を見守る=

 8月 元服→以蔵 出陣・選考試合(初子、蘭、以蔵、鈴鹿)
     門司→初見・弓使い 訓練・夢見→門司             =一家を見守る=
 
 9月 出陣・相翼院(初子、蘭、以蔵、鈴鹿)
     訓練・夢見→門司 老死・初子                =前編= =後編=
by RuLushi | 2005-08-26 02:34
1021年 2月後編

 審判も呼ばずにひっそりと、ふたりは道場で対峙していた
 壬生川家の指針を決める戦いが、今始まる
蘭「……冷える」
 不満げにつぶやく蘭
初「冬の道場に裸足で入れば、それは……w」
蘭「……これが嫌で、俺はずっと朝の稽古を手を抜いていたのだ」
初「手を抜いていたんですか!?w
 衝撃の事実発覚だ
蘭「……術はそういえば、有りだったな」
初「ええ、たぶんそんな暇ないと思いますけど」
 初子が剛の槍だとすれば、蘭の薙刀は守りの技に秀でていた
 治癒の術と、多くの術法、さらに身のこなしに優れている蘭
蘭「……では、行くぞ」
初「はい」
 蘭が勝利すれば、壬生川家でひとつの血が絶たれ、初子が勝利すれば、壬生川家の歴史は変わらず皆は普段通りに過ごす事となる
 後世の人間にとっては、自分は酷い女に思われるだろう
 蘭は薙刀を上段に構え、初子を強襲した
蘭「……双光――斬
初「え、奥義!?」
 蘭の目が見開いて、その身体がゆらりと揺れる
 道場に激烈な打ち込みの音が、響き渡った



 
 やがて、ふたりの三本勝負に決着が付く



 
初「はぁ……はぁ……ズルイですよ、蘭さん……奥義だなんて……」
蘭「……ふざけるな、一体、健康度を……いくつ使うと思うのだ……」
 道場に横になっているふたり
 たった三本の勝負に、かかった時間は数時間
 板の間敷きの道場の壁は、四方のうち一方が非常に風通しが良くなっており、オマケに板の間や壁も何十という箇所が斬り裂かれていた
蘭「この……化け物、が……」
 蘭は毒づく
 4ヶ月前と結果は同じ、三本中一本すら取れなかった
 こちらの振りは全て叩かれ、相手の振りを弾こうとすると手に痺れが残る、技の威力の差が如実に現れた勝負だった
蘭「鬼子め……」
 寝転がっていた初子が、蘭の手を掴む
初「……約束は、約束、ですからね」
 初子が満面の笑みを見せる
 畜生、と思った
 蘭は手を振り解くと、右肩を押さえて立ち上がる
 そして、つぶやく
蘭「……交神をするなら、初子が良い」
初「え、何か言いました?」
 初子の問いかけが届くが、あえて無視をする
 道場を出て、イツ花にでも手当てをしてもらおうかと思った
 初子に打たれた場所がひどく熱を持ってもはや感覚がない上に、奥義を放った両腕は少しでも動かすと悲鳴が出そうなほど痛い
 お雫や泉源氏で治そうにも、術力は速瀬や武人・防人に使い切ってしまった
 散々な一日になった
 本当に、散々だ
初「ちょっと、何ですかー?」
 黙って出ていこうとする蘭に、初子が座ったまま尋ねた
 蘭は少しだけ振り向くと、無防備そうに首を傾げている初子に聞こえないように漏らした
蘭「……俺が男なら、今この場で襲ってやるものだが……口惜しい」
 今はそれだけが悔やまれた
 

<交神の儀>
 
 というわけで、手当ての済んだ蘭が憮然とした表情で、交神の間に座る
イ「それでは、きょうも元気に交神の儀をいたしましょうッ!」
蘭「……」
 今にも舌打ちしそうな目つきの蘭
イ「ほらほら蘭さま、どなたになさいます?」
蘭「いやまぁ……どいつでも良いのだが」
イ「それでは、お任せコースですか?」
蘭「ああ」
イ「イツ花の気まぐれコースとか、いかがですか?」
蘭「いやそれは」
 少しお茶目がすぎるイツ花に、いやいや、と首を振る
イ「当主さまに頼まれたんですから、ちゃんと蘭さまが交神なさるように、って」
蘭「よく手を回すものだ……」
 暇なんだろうかと思ってしまう
イ「ほらほら、誰になさるんですかァ」
蘭「じゃあ、コイツだ」
 自分に足りない筋力を補うため、火の神を適当に指差す
イ「は、はい、承りました」
 そのあまりのやる気の無さに、イツ花が少し引く
 もっとも蘭にしてみれば、目的の人と交神出来なければ、誰でも同じと言ったところだろう
 それにしたって、蘭の選んだ神様は……
 
 蘭の耳に、何かの獣の雄叫びのような奇声が聞こえる
 うなり声のような、数台の馬車が走り回るような……
 
蘭「……なんだ?」
 障子を突き破って、鉄の雲に乗った火の神が、蘭の前に出現する
 蘭もさすがに目を丸くした
 テメェか俺様の交神相手ってのはよ、良い女じゃねーか、との声に、思わず呆然としてしまう

 三ツ星 凶太「全開バリバリで、ぶっ飛ばすぜ!
 
 まるでチンピラのような神を前にして、
 蘭の頬に、一筋の汗が流れる
 ……やっぱり、散々な一日だったな、と蘭は思った
by RuLushi | 2005-08-25 02:43
1021年 2月前編

<蘭の部屋>

蘭「……今月で俺も、元服、か」
 鏡を見ながら思う
蘭「子供を遺す事が、出来る年になったとは言え……」
 鏡の中の緑色の髪の自分は自分のようで、誰かに操られた化身のようにも思える
蘭「……ふぅ」
 壬生川家において元服は、望めば正装して冠を被り、髪を結い直す儀式があるのだが、特に強制されてはいなかったため蘭は辞退していた
 珍しく億劫そうに、息を吐く
 と、そこへ
以「ちょ、ちょっと蘭姉、匿って!
夢「えーん」
 障子を開けて、ばばっとちびっ子ふたりが蘭の部屋の中に入ってくる
蘭「……何だ?」
 今月でようやく実戦部隊入りした以蔵はともかく、夢見はもう5ヶ月になるのだがどうにも幼さが抜けないな、と蘭は思う
 そんな幼いふたりは、蘭の部屋の押入れにどたどたと潜り込んだ
蘭「……隠れん坊、か?」
 しばらくして、部屋の前を熊のような足音が走り抜ける
蘭「……?」
 いぶかしんでいると、すぐに戻ってくる
佐「チョット! 蘭ちゃん!
蘭「……やかましいぞ」
 巨木も打ち抜けそうな大弓を担いだ佐和が、息を切らして蘭につめよる
佐「ココに、ユメが来なかった!?」
蘭「……いや、見てないが」
佐「あのコドモ! ウチの大事な大事なはっちゃんに描いてもらったウチの絵をッ」
蘭「絵を……どうかしたのか?」
佐「あろうコトか、ラクガキだと思って、矢の的に使って遊んでたノヨ!」
 蘭は無意識に押入れを見ようとしたが、自制する
蘭「初子の絵は確かに……」
佐「きぃぃぃ、お前の頭を代わりに矢の練習代にしちゃるデシュ!」 
蘭「……殺すなよ」
 蘭の制止も聞こえたのか聞こえなかったのか、佐和は再び走ってゆく
 確かに、自分もそんな真似をされたら激怒するかもしれない、と思いつつ、押入れに声をかける
蘭「……鬼は行ったぞ」
夢「ホッ……」
以「うう、痛いってば夢姉……」
 転げるように出てくる夢見と、鼻を押さえている以蔵
夢「だってぇ、暗闇にまぎれてユメにいやらしいことしようとしないでくださぁい~」
以「しねーってば、夢姉には……」
夢「なんですかぁそれ、酷いぃ蘭さまぁ~~」
 がしっと蘭に引っ付く夢見
蘭「……それより、何でお前らあんな事を」
夢「ユメは反対したんですけどぉ、いっくんが「何この汚い画、今日はこれで遊ぼうぜ」ってぇ~」
以「いっくんは止めろ……つか、それ全部まんま夢姉のセリフだろう!w」
夢「ユメは「ぜ」なんて言いませんしぃ~」
以「語尾を変えただけじゃねーか!w」
 要するに、ロクな理由があるわけではないのか、と蘭は納得する
 確かに初子の絵は言われて見なければ、ただのうねうねにしか見えまい
夢「ていうかぁ、どうしてママって初子さまのことになると、羽が取れちゃった矢みたいに飛んでっちゃうんですかぁ?」
蘭「……羽が付いていても、佐和の射る矢はそんな感じだが」
 うーむと唸る
以「オレの母さん美人だからじゃない?」
夢「え~、だって女性が女性をなんてぇ~」
 夢見には何やら理解できない部分があるらしい
夢「ていうかぁ、蘭さまもですよねぇ? どうしてですかぁ?」
 エサをねだる猫のように、蘭の裾を引っ張る
蘭「佐和は、二人の生まれた時期が近かった事もあるのだろうが……」
 あの二人に蘭の母・巻絵を加えた三人が、当時の親友同士だったとは聞いたことがある
蘭「俺の場合は……そうだな、」
 何か例えようとしたが、言葉が出てこない
 想いが宙をさまよう
蘭「……まぁ、初子は良い」
夢「それじゃぁ~分かりませぇん~」
 夢見はぶーぶーと蘭の周りをじゃれる
夢「あ~でもぉ、初子さまの笑顔は良いですよねぇ~」
 ぱっと手を離して、天井にキラキラとした目を向ける
夢「あれは確かにぃ、ユメちゃんもこう、頭がぽーっとしちゃいますぅ~」
以「夢姉は、普段からだろ」
夢「きぃぃ、そういういらないツッコミは、いりませぇん~!」
 むきーと遠慮なく怒る夢見を見て、蘭はその将来がまるで佐和になるんじゃないだろうかと不安に思えた
 夢見の怒声が響いたその瞬間、蘭の部屋の戸がバッと勢いよく開かれる
夢「はひっ!?」
以「う」
 恐る恐る振り返る夢見と以蔵だったが……
蘭「……初子?」
初「蘭さん」
 キッと初子は蘭を見る
初「交神の儀をなさらないって、どういうことですか」
 初子が当主の部屋に置いてきた直訴状を、蘭の顔の前に突きつける
 蘭は、静かにため息をついた
 

<旧・玄輝の部屋>

蘭「……鬼退治の時にしか見せない顔で乗り込んでくるものだから、夢見と以蔵が怯えていたぞ」
 場所を移して、ふたりは会議の間に対面していた
初「お話をはぐらかさないでください、どうして交神の儀をなさらないのですか」
 まるで槍のような目をする初子
蘭「……俺の勝手、ではないか?」
初「じゃないです、これは壬生川一家の問題です」
蘭「……一家の問題なら、当主の権限で介入してくるのか」
初「はい介入します、わたし当主ですもん」
 怒っているのか何なのか分からない、初子のセリフだ
初「というか、どうして交神の儀をなさらないのですか」
 というわけで、ここにお話が戻るわけで
蘭「……面倒だ」
初「嘘です」
 斬り捨てる初子
蘭「……俺のひいお婆様の遺言で」
初「ありえないじゃないですか!w
 蘭はチッと舌打ちをする
蘭「子供が戦死すると、母親は反魂の儀を行わなければいけないのだろう」
 少しだけ、無表情を崩した
蘭「そのような事は面倒だ……俺にはそこまでの覚悟はない」
初「そんな、重く考えすぎです!」
蘭「8ヵ月も生きれば、自分の性分というものは曲げられなくなるものらしい」
初「何でもかんでも、自己完結しちゃうんですからぁ」
 不満げに口を尖らす
初「大体、いっつもいっつも一人で何でも決めちゃうから、蘭さんのそういうとこ、わたし好きだけど嫌いです」
蘭「どっちなんだ……?」
 危うくコケそうになる蘭
初「でも、蘭さんはわたしが言っても、自分の意見を曲げませんよね」
蘭「……そうだな」
 実際子供を作る気は毛頭なかった
初「わたしも、絶対蘭さんには子供を作ってほしいです、それを変える気はありません」
蘭「……平行線だな」
初「ええ、ですから、こういう時は賭けです」
 初子のまっすぐな視線には、自信が宿っていた
蘭「賭け……賭けだと?」
 蘭は思う、自分は初子のこんな目に弱い、と
初「以前にお父さまがおっしゃってました、三本先取の方法です」
蘭「……ほう」
 何て真剣な目をするのだろう、壬生川家という絶望的な現状を過ごし、どうしてそんな目が出来るのか
初「わたしが先取した時は、蘭さんに交神の儀をしてもらいます」
蘭「……ならば俺が勝った時は、四代目当主の座は貰う」
初「はい、構いません」
蘭「良かろう」
 最後に戦ったのは幸四郎が死んだ翌月、去年の10月、今から4ヶ月前のことだ
 あの頃から蘭は体も大きくなり、力も技も付いた、あの頃の自分とはまったく違う
 お互いの武器は薙刀と槍、条件はもはや互角
蘭「……初子」
 5ヶ月年上の初子を、蘭は睨みつける
 お前のやり方では、甘すぎるのだ初子
 ひとつの家に三つの血では交神する神の質は下がってしまう、自分の代でひとつの家を潰し、その後濃い血筋を引き継いでいけばいいのだ
蘭「俺は勝つぞ、初子」
初「はい、でもわたしも負けません」
 二人の少女の想いが、こうしてぶつかりあう
by RuLushi | 2005-08-24 02:32
1021年 1月

 明けましておめでとうなその日、壬生川家は一面銀世界に包まれていた
初「ゆ~~き~~~~~~♪」
 喜んで庭を駆け回る……こと、三代目当主・初子
 あちこちをばたばたと走っては、真っ白な雪に足跡をつけてゆく
 その様子を居間から、コタツにもぐって眺めている佐和や蘭たち
 お茶をすすりつつ、雪の中で戯れる美少女を見物するという風流な光景だ
佐「平和デシュねぇ……」
蘭「……冷えるな」
 コタツにすっぽりと埋まる蘭
初「ねぇねぇ、雪合戦やろうよー!」
 手をメガホンにして皆を呼ぶ初子
以「おー、やってみるー!」
夢「わ~ぃ~、ユメちゃんも仲間に入れてくださぁぃ~」
 初子に飛びつく若い衆
佐「雪合戦だってヨ」
蘭「……俺は、寒いのは苦手だ」
 かたや居間でゴロゴロする、年寄りふたり(佐和1才4ヶ月、蘭7ヶ月
初「佐和お姉さまも、蘭さんも一緒に一緒にー♪」
 こちらに手を振ってくるが、曖昧に微笑む佐和
佐「ウチは、一番好きなの秋だしナァ」
蘭「……すまんな」
 つまりは、ふたりとも寒い外に出たくない、と
初「ふーん、いいですよーだ」
 それならばと背を向けて、初子は以蔵や夢見たちと雪合戦を楽しむ
 置いてけぼりにされた感のある、佐和と蘭
 しかし寒いなら障子など開けなければ良いのだが、初子の遊ぶ姿は見たいらしい
佐「あーソウダ、蘭ちゃん」
蘭「……ん」
 今にも眠りそうな蘭
佐「この前、蘭ちゃんやユメと一緒に九重楼に行ったときに、何個か術法の巻物を見つけたんダケド」
 コタツの上みかんの隣に、コトリと巻物を置く佐和
蘭「……むにゃむにゃ」
佐「起きろナサイw」
 蘭の頬を引っ張る
蘭「……起きている、少し気を失っていただけだ」
 そっちのがヤバくないか、と佐和は思う
佐「デ、コレ、<お地母>」
蘭「ふむ」
 誰もが忘れている事実だが、いまや壬生川家一の術士となった佐和が、効果を蘭に解説する
佐「治癒の術なんだケド、なんと隊全員の体力を80前後回復するのダ!」
蘭「ほう……」
 蘭が億劫そうにコタツから手を出して、巻物を広げる
蘭「母が生きていれば、大層喜んだろうにな」
佐「ウチはもう覚えたカラ、次は蘭ちゃんが読むとイイゾ」
蘭「ん……預かる」
 治癒の術には、これまでの戦況を一変させる可能性が秘められている
 臥蛇丸や巻絵がずっと大事にしていたそれらの術を、こうして蘭もまた、受け継いでゆくのだった
 
 しばらくすると、初子が夢見と以蔵を引っ張って、居間に戻ってきた
初「あー楽しかった♪」
 あははーと快活な笑みを見せる初子
初「ちょっとやりすぎちゃって、ゴメンね、夢見ちゃん、いっくん」
夢「う、うぅん、ユメちょ~楽しかったですぅ~」
 夢見にぎゅ~~っと抱きつく初子
佐「チョット、ユメ、あんまり引っ付いてはっちゃん嫌がっているジャナイ」
夢「え~、初子さまぁ、お嫌ですかぁ~?」
 胸元から初子を上目遣いに見上げる夢見
初「ううん、別に嫌じゃないよw」
夢「良かったぁ~~~、初子さま良い匂いがしますぅ~~」
初「あ、あははw」
 母よりも真っ先に初子に甘える夢見に、佐和の拳がぷるぷると震え出す
夢「何だか、お母様より柔らか~ぃ……胸元とか
佐「コラー!w
 一気に夢見を引き剥がす佐和
佐「弓使いには胸なんて邪魔ナンダ! 大きいと引くときに引っかかるんだぞ! 引っかかると痛いんダゾ! ウチは引っかかったことないケド!!
 最後の方は涙交じりだった
蘭「(必死な……」
 コタツにもぐって<お地母>の書を読みながら、横目に思う
夢「そ、それじゃぁ~、お母様は無くて良かったですねぇ~~」
佐「ホントにネー、ってこのッ!w
夢「きゃ~~、きゃ~~~~」
 夢見を追い回す佐和
 親子は居間をぐるぐるぐると回る
以「な、何か、母さんってすっごい人気者だよね」
 屋敷に来たばかりの以蔵が、異常な光景に目を奪われる
 慣れっこの初子は、あははーと笑うだけだ
蘭「そうそう初子……これなのだが」
初「え、どうしました?」
 蘭が初子の横に座り直し、新婚旅行のパンフレットを開くように<お地母>の書を広げる
蘭「俺は母と違って術が苦手でな……良ければ、初子も一緒に訳してほしいのだが」
初「うーん、わたしも術得意な方じゃないですからねぇ……」
 眉を可愛らしくしかめて、巻物の古語を拾う初子
 その横顔を見つめながら、さりげなく蘭が初子の肩に腕を回すが、巻物を読んでいる初子は気づかない
蘭「……初子」
 さりげなく抱き寄せ……ようとして、見つかった
佐「チョット、何やってんの!w」
夢「いくら蘭さまでも、それはダメですぅ!」
蘭「――!
 母子が蘭の両手を掴んで一気に持ち上げ、そのまま庭に思いっきり放り投げる
 ズボッと音を立てて頭から雪に埋まり、動かなくなる蘭
イ「皆様、三月に行われる春の選抜試合の出場要請の使者が、壬生川家にお見えになりました!」
 イツ花が居間に顔を出した時には、初子が巻物に夢中になり、佐和と夢見が取っ組み合いのケンカをしつつ、蘭が庭の雪に埋まっていた
イ「春の選抜大会は参加するだけで栄誉、運良くいい成績を残せれば、一気に名家に仲間入りです……って、何だか様子が変ですネ」
以「な、何なんだ、この人たち……」
 早くも未来に不安を抱える以蔵であった
 
 結局使者にはイツ花が対応したため、壬生川家の現状を知られることはなかったという


<出陣>
 
初「それじゃ、行って来ますねー♪」
 イツ花と以蔵に手を振るのは、先ほど<お地母>の術を習得したばかりの初子だ
夢「うぅ、ユメちゃん本当は戦いたくないんですけどぅ……初子さまと一緒なら、頑張りますぅ……」
佐「イチイチ引っ付かないノ!」
 こうして、すぐに親子喧嘩が始まる
以「えと、母さん……気をつけて」
 何やら含みをはらんだ以蔵の声に、あははと笑顔で応える初子
以「(オレの言葉の意味、本当に分かってんのかな……」
 美少女の母を持つ一人息子の心配は募る
イ「あ、そうそう蘭さま」
蘭「……ん」
 ダルマのように着膨れしている蘭が、鼻をすする
イ「投資の結果ですけど、国中から職人さんが集まって、復興も順調に進み、すっごく斬れる刀とかすっごい丈夫な鎧とか、お品が揃ったみたいですッ」
蘭「……そうか」
 嬉しい報告を聞いても、仏頂面のままの蘭
初「え、蘭さんも、投資なさってたんですか?」
蘭「……ああ、10000両ほどだがな」
夢「いちまんりょーぅ!?」
 夢見が驚いた声を上げる、それだけあれば美人画を何枚書いてもらえるか
佐「オー、蘭ちゃんも巻ちゃんの後を継ぐんダネ」
蘭「……鏡を見るたび、鬱陶しくて叶わんからな」
 反魂の儀によって、巻絵の緑色の髪を受け継いだ蘭は、性格もどこか温和になった気がする初子だった
初「それじゃあいっぱい戦って、いっぱいお金稼いできましょうね、京の皆様のためにも♪」
 おー、と掛け声が上がった

 鳥居千万宮に出陣した初子、佐和、蘭、夢見の四人は、一部(初子を巡る)トラブルがあったものの
 年が明けて復活した中ボス狐次郎を打ち砕き、無事一ヶ月を戦い抜いたのであった
by RuLushi | 2005-08-23 02:05
1020年 12月

 夢見は戸口から左右を伺っていた
夢「右よ~し、左よ~し……」
 壬生川家は豪邸だが、京の外れにあるため、人通りは滅多にない
夢「さ、ユメちゃんの大冒険が、今始まるんですぅ……」
 門から足を踏み出す
 ガコン
夢「ひ――」
 足首に縄が巻きつき、表の木に引っかかった数百キロの重石が落下すると同時に、夢見の身体が数メートルほど吊り上げられる
夢「いやあああああああぁ~~!」
 着物の裾がはだけないように、必死に押さえる夢見
夢「ちょ、これ、え、何ですかぁっ! え~~ん!」
 手の端から巾着がこぼれ、それを誰かが受け取る
蘭「……ふむ」
夢「ら、蘭さまぁっ!」
 逆さになった視線で、上空から蘭を見上げる夢見
夢「ちょっとぉ~、降ろしてくださぃぃぃ」
蘭「……佐和が、な」
夢「びくっ」
 遠い目でつぶやく蘭
蘭「自分の巾着がなくなった、って先ほど騒いでいたのだが……こんな模様だったな」
夢「お、お母様ぁから、お下がりもらっちゃったんですぅ~」
蘭「……中身も、か」
 封を開くと、子供が持つには少々多い金額が見える
蘭「……しばらく、そのままにするんだな」
夢「え~~~~~ん!」
 髪が逆さになったり、今にも裾がほどけて生足があらわになったりで、もういっぱいっぱいの夢見
夢「ユメ、もっと遊びたい~~~、京の都でお祭り行きたいのにぃ~~~!
 叫び声を後ろに浴びながら、蘭はつぶやく
蘭「……京の都を再興するなら、要所要所に罠は必須だからな……もっと改良せねば」
 何かが間違っている蘭だった


<初子の子>
 
 初子と佐和が並んでいる中、イツ花が満面の笑みでやってくる
イ「初子さま、白波河太郎さまから、新しいご家族を預かって参りました!」
初「わーぃ♪」
佐「ひぃっ!」
 反応が対照的なふたり
佐「出てきたのがまんまカッパだったら、ウチは、ウチはどうすればッ
初「いや、弓を構えないでください……w」
 だから具足姿なんですね……wとつぶやく初子
佐「良い事思いついた! 仮面だ、鉄仮面だヨ!」
 かぶって一生暮せば!と主張する佐和
初「酷いこと言わないでください!w」
佐「だって、だってぇ……」
 しくしくと泣き出す佐和
初「何で泣くんですか……w」
 自分の好きな人は、そこまで言われるほどか、と少し悩んでしまう
イ「で、あの、続けてもよろしいでしょうかァ」
 袖で待っていてくれたイツ花
初「あ、はい」
 子供にすごく会いたい初子と、会うのがすごく怖い佐和
イ「おめでとうございます、かわいい男のお子様です!」
 幸四郎以来、六人目の子供でついに男の子が産まれた
佐「可愛いってアレか! 小さなカッパみたいなコを指して、ほら可愛いデショってか!」
 やわらイツ花に掴みかかる
イ「きゃッ」
初「落ち着いてください!w」
 初子がふたりを引き剥がす
イ「ど、どちらかと言えば、母君似のようですよ!」
佐「どちらかと言えばって何だッ、違いは明らかジャナイ! イツ花の目は節穴か! あるいははっちゃんの腐った好みが乗り移ったか!
 最後に少し本音が出た
初「佐和お姉さまっ!w」
 力いっぱい引き剥がしたら、佐和が転がって、そのまま頭を障子に突っ込ませて停止する
初「まったく、もう……」
 さすがは壬生川家一の膂力を持つ女傑である
蘭「……何の騒ぎだ」
 蘭がふと部屋を覗き込む
初「ちょっと、佐和お姉さまが暴走しちゃって……」
蘭「いつもの事か」
 納得する
蘭「それより……この小僧が、部屋の前でビクビクしていたのだが」
 首根っこを掴んで引き上げると、そこには子羊のように震える男の子がいた
○「ひ、ひぃぃ……」
 蘭の仏頂面に怯えているのか、半泣きだったが、その端正な顔立ちにはどこか壬生川一家の面影があった
蘭「ん……?」
 目を細めて、少年の顔をマジマジと見つめる
 食われるんじゃないか、と思う少年
蘭「こいつは、もしや……?」
イ「は、白波河太郎さまから預かってきたお子様!」
 部屋の前で呼ばれるのを待っていたところを、蘭に捕獲されたらしい
初「ええっw」
 カッパに似ても似つかない、可愛らしい顔立ちをした男の子だ
蘭「ほれ」
 首根っこを掴んだまま、初子に息子を手渡す蘭
 ネコか何かですか、とイツ花は思った
 
 名前は以蔵(イゾウ)、初子の素質を受け継いだ槍使いの少年だ
 緑色の長い髪の毛を、藍色のリボンで後ろで縛っている
 
初「それは……もしかして、私の飾り布?」
 以蔵の後ろ髪をまとめてあるリボンを見て、初子は尋ねる
 あの交神の時に髪が乱れて、両房を縛っていたリボンがどこかに行ってしまったのだ
 父親に貰ったものでしばらく探したのだが、布団の近くからは出てこなかったため諦めていた
以「あ、うん、お父さんがお母さんの思い出だからって、とても大事にしてて……でも、これは地上の物だから、お前が身に着けていろって」
初「そっかぁ」
 初子は以蔵の髪を撫でる
初「それじゃあ、それは以蔵が持っていてね、お守りなんだから」
以「うん、大事にする!」
 話自体は良い話なのだが、蘭やイツ花の頭に浮かんでくるのはあのカッパ男のため、どうにも感情移入が出来ない
佐「あいたた……もう、はっちゃんってばカゲキ……」
 頭を振りながら起き上がる
初「あ、何か丁度良いから、みんなを紹介するね♪」
 息子に微笑みかける初子
初「こちら、一家最年長1才3ヶ月で弓の使い手、佐和お姉さま」
佐「ウン、母親になったはっちゃんも良い……じゃなくて! ヨロシク!」
 以蔵と握手を交わす佐和
以「あ、何だかすぐ友達になれそう!」
佐「それはウチの精神年齢が同じくらいだって言いたいのかgなg;あ!」
 後ろから半笑いの初子に羽交い絞めにされる佐和
初「佐和お姉さま、暴れないでください!w……こ、こちらは0才6ヶ月の蘭さん、頼りない一家を支えてくれる頼りになる人です」
蘭「ふむ……宜しく」
 差し出された手に、怯えながら握手する以蔵
以「ど、どーも」
 なまじ美人であるがためか、怖ええ、と以蔵はこっそり思う
初「それでこちらが、一家のお手伝いさんこと、イツ花さん……ずっと私たちを見守ってくださる方よ」
イ「初めまして、よろしくお願いしますッ」
以「よろしくです!」
 元気よく挨拶する以蔵
初「えーと、後は、きゃっ」
 佐和を羽交い絞めをしたままだった初子が、突然手を離して悲鳴を上げる
初「へ、ヘンなとこ触らないでくださいよ!w
佐「(;゚∀゚)=3」
初「何ですかその顔は!w
 初子が照れ隠しに佐和を突き飛ばし、転がった佐和が再び障子に頭を埋める
蘭「……障子の張替えが大変だな」
 気に食わないのか、助けない蘭
以「……お、お母さん、こええ」
 ぽつりとつぶやく
イ「あれ?」
 周囲を見回して、イツ花が怪訝そうな声を上げる
イ「そういえば、あの……夢見さまは?」
蘭「は……
 蘭が珍しく驚いた顔をした
蘭「忘れ……ていた」
 夢見が吊り上げられてから、すでに二時間が経過していた
 

夢「う、うーん……」
 夢見がくらくらした頭を押さえて、目を覚ます
蘭「……気がついたか」 
夢「ひっ」
 蘭を見て怯える夢見
 どいつもこいつも……とは思うが、実際悪いのは自分なので何も言えない蘭
夢「あ、あのぉ、ここはどこでしょぉ……?」
蘭「俺の背の上だな」
夢「はひっ!?
 夢見は蘭におぶさられていた
佐「オー、気がついたか、ユメちゃん」
夢「あ、あれ、ここどこですかぁ?」
 寝ぼけた目をこすりながら、蘭の背中で揺られる夢見
 周りはどうやら、屋敷ではないようだが……?
蘭「九重楼だ」
夢「はひっ!?
 というわけで

<九重楼>
 
夢「な、なんでユメちゃんこんなところにいるんですかぁ!?」
蘭「鎖帷子付きの夢見は、さすがに重かった」
 夢見を降ろして、首を回す蘭
佐「今月は、ウチと蘭とユメの三人で出陣なのダヨ」
 先月大怪我した初子は、以蔵の訓練のために屋敷に残っていた
夢「いやそうじゃなくてぇ」
蘭「初出陣で、緊張しているのか」
夢「違ーいーまーすぅー!
佐「ユメのために、比較的楽そうな九重楼にしたノニー」
夢「いや場所が問題じゃなくてぇ!」
 夢見の衣装は、誰が着替えさせたのか分からないが、頭からつま先まで、完全武装が整っていた
 弓の手入れも万全だ
夢「ユメ、全然こんな話聞いてませんのにぃ!」
蘭「初出陣は、誰でも緊張するものだ」
佐「きょうは気楽に頑張ろうネ」
夢「ああっ、誰か会話できる人を連れてきてくださいぃ!」
 夢見の叫び声も、壬生川家待機中の初子の元には届かない
夢「ユメ、ここで帰りますぅ……」
 意気消沈した夢見が、すごすごと後ろを向く
蘭「ふむ……しかし」
 夢見の前に幾匹もの妖怪が立ちふさがる
夢「いやぁぁぁぁぁ~~!」
蘭「俺たちとはぐれるのも、危険だと思うが」
夢「助けてぇ、お母様ぁ~~」
 佐和の胸に飛び込む夢見
蘭「……死にたくなければ、戦うんだな」
夢「うぅぅぅ~……」 
佐「サー、壬生川家、突撃ー!」
 
 こうして三人は、夢見を宥めつつ、扱いつつ、九重楼を進撃し、多数の戦利品を持って凱旋したのであった
by RuLushi | 2005-08-22 02:02
1020年 11月後編

<大江山>
 
 昨年に比べ、著しく強くなったメンバーで挑む大江山
 巻絵、佐和、初子、蘭の四人は雪山の登山口に立っていた
初「いよいよ……ですね」
 珍しく緊張した面持ちの初子だったが、彼女にとっては巻絵の存在は非常にありがたかった
初「それでは、先導お願いします、巻絵お姉さま」
巻「はい、わたしは二回目でしゅから(`・ω・´)」
佐「チョット、ウチも二回目なんだけど!」
 いや佐和お姉さまは弓使いですから、とやんわり遠慮される
蘭「……山頂は、吹雪いてそうだな」
 目を細めて見上げるが、けぶっていて見えない
佐「てか、どうして11月と12月しか門が開かないんダロウ」
 素朴な疑問を口にする
初「門を閉めて、鬼に攻め込まれないように守っているとか?」
蘭「……雪山を越えられない程度の武士では、とても朱点には太刀打ち出来ない、とかな」
 たどり着くまでに、遭難したり凍死する人も多そうだ、と誰かがつぶやいた
初「ま、行きましょうかぁ」
 初子が口火を切る
初「それでは壬生川家、第二回目大江山討伐隊……突撃!
 一同はこうして、鬼の総本山へと行軍を開始した
 
 昨年辿った道を繰り返す
 巻絵の道案内もあり、雪山を迷うことなく突き進んでゆく
巻「こっちでしゅ(`・ω・´)」
佐「巻ちゃん、動物的カンだネ……w」
 一緒に登ったはずの佐和なんて、ほとんどが記憶から抜け落ちていたのに
巻「まぁ佐和しゃんは、初陣でしゅたから……(´・ω・`)」
 矢をあちこちに笑いながらばら撒いて、道なんてすっぽり忘れているのだろう
 先導する巻絵のおかげで、一同は一合目二合目を簡単に越えてゆく
 当初の計画では、大江山の門が開いている二ヶ月間をめいいっぱい使って、登頂する予定だったのだが
 いつの間にか壬生川一族は、五合目まで到達していた
 悪羅大将のうろつくこの山道を越えれば、次は終合目だ
初「去年は、ここらに着くまでに相当消耗していたそうですよね?」
 幸四郎の日記を見た初子が、経験者に尋ねる
巻「そうでしゅた、幸四郎しゃんの顔色もずいぶん悪くなっていて……」
 対する初子、佐和は、まだ息も切れていない
蘭「……」
 さすがに出陣二回目の蘭は、疲労が蓄積しているようだ
初「終合目を越えたら、すぐ仁王の門ですよね」
巻「でしゅ」
初「そこまで着いたら、少し休憩しましょう」
 皆の体調を気遣う三代目当主
蘭「……承知した」
 そんな蘭を、さりげなく支える巻絵
 
 さまざまな場所で悪羅大将の相手をしてきた壬生川家にとって、終合目はさほど問題のある場所ではなかった
 一同は仁王の門前にたどり着く
初「去年の武録を読みました、こちらの術を封じつつ、弱体化をしてくる二匹一組の鬼みたいですよね」
 円陣を組んで立案するのは、この日のために作戦を練ってきた初子だ
初「ですから、こちらとしては……短期決戦で仕掛けます」
 地面に槍の柄で、陣形のようなものを描く
蘭「……これは、」
佐「……どれが何か、全然分からナイ」
初「わたしに絵心がないのは、放っておいてください!w
 棒人間が棒を持ってたり、棒人間が棒を持っていたりする、おそらくは薙刀と槍のつもりなのだろうか
初「そ、それでですね……時間が経てば経つほど、術を封じられるこちらは不利になるんですよね」
蘭「こちらは、神仙水の量が決まっているからな」
 携帯袋に入っている、状態異常回復の妙薬だ
初「ですです、なので、短期決戦で行くというより、短期決戦しかないんです」
 壬生川家で唯一術封じの術<光無し>を覚えていた幸四郎は、数ヶ月前に亡くなってしまった
初「ですから、巻絵お姉さまと蘭さんは、後列から生命線をお願いします」
巻「はいでしゅ」
蘭「任せろ」
 しっかりと頷く
初「わたしと佐和お姉さまで、一気に畳み掛けます」
佐「あ、アイヨー」
初「以上です、頑張りましょう」
 残り時間はあと半月、まだまだ余裕がある
初「朱点打倒、壬生川家突撃!」
 初子が槍を掲げ、門へと突き進んでゆく
 その時、不気味にくぐもった声が響いた
 
 両仁王「通さぬ……通さぬぞ!

 戦いの先手は、仁王が取った
 術を封じる<光無し>に、こちらの命中率を下げる<夢子>、敏捷率を低下させる<みどろ>を重ねてくる
 対する壬生川家は状態異常を物ともせず、前衛の痩せ仁王に攻撃を集中させる
 お雫のおかげもあるだろうが、去年に比べて壬生川家の防御力が格段に上がっているため、致命傷を貰わず攻撃に専念できていた
初「ハッ!」
 槍使いの一撃は、前衛の痩せ仁王を貫通して、後衛の太り仁王にまで届く
 名実共に壬生川家一の武人を中軸に、それを他の三人がサポートする
蘭「……く」
 ところが、仁王たちが狙いを定めたのは後列の蘭だった
 体力が未成長の蘭へと、仁王は攻撃を集中させる
巻「蘭しゃん!」
 術を封じられていた巻絵は、常盤ノ秘薬を蘭に振り掛ける
巻「ああっ、そろそろ神仙水が切れちゃうでしゅ!」
 あたふたとうろたえる
 初子の猛攻により、そろそろ痩せ仁王は仕留められそうなのだが
 その前に蘭がやられるかどうかは、賭けだった
佐「ハ、ひょっとしてコレが!」
 弓を構えた佐和が、屋敷での事を思い出す
 こんな技でも、使わないといけない場面!
 佐和の視界が狭まり、周囲の音が遠くなる
佐「奥義、連弾弓・佐和!
 一拍に打ち出された三本の矢が、痩せ仁王の胴体を貫通した
 苦悶のうめきを上げて、その場に崩れ落ちてゆく
初「佐和お姉さま、すごい!」
佐「ど、ドウダ、見たかっ」
 頭がくらくらする、これが奥義の反動だろうか
 残る太り仁王を初子が突き刺し、こうして一家は仁王の門を乗り越えたのだった
 
 佐和と蘭の体調が芳しくなかったが、それでも壬生川家は先へと進んだ
 仁王の門を抜けた先には、京の都を模したような通りが延びていた
 朱雀大路と言い、平安宮へと続く中央通りと同じ名前だ
 そこは、あちこちを天狗が飛び回っていた
巻「つ、強そう……」
 悪羅大将より、五割増しで凶悪そうに見える
 その上、狭い道に密集しているため、避けて通るのも骨が折れそうだった
初「でも、なるべく迂回して、先を急ぎましょう」
 何かが乗り移ったような、初子の真剣な表情
 平時であれば、佐和も蘭も顔を赤らめるような凛々しさだが、今はさすがにそんなことを言っている場合ではない
 朱雀大路を抜けて、呪殺の碑へと入り込む
佐「ヤな名前だ……」
 少しずつ顔色が悪くなって来ている佐和が、ぞっとしたようにつぶやく
 雪の降り積もる通りを進んでゆくと、ついに見つかってしまった
 崇奈鳥大将が、見たことのない妖怪を引き連れて、壬生川家に襲い掛かる!
 合計七匹の妖怪を相手に、一同は苦戦を余儀なくされる
 ひょっとしたら、仁王よりも強いかもしれない雑魚相手に、一戦で半壊にされる壬生川家
 荒い息をつく一家だったが、そこは密集していた大路、治癒するヒマもなく、次の天狗が襲ってきた
初「う……!」
 相手の先制攻撃の術<太刀風>により、初子と蘭が切り裂かれる
巻「蘭しゃん!」
佐「はっちゃんんん!」
 その場に倒れ込むふたりを背負って、壬生川家は敗走していった
 大江山、通算二度目の敗退だった
 

<壬生川家>

 結局、去年に比べて二歩ほど前に進んだだけだった
 大怪我を負った初子は自室の布団に横になり、少し落ち込む
 0才10ヶ月の自分には、もう大江山に行くチャンスは残されていないのだ
イ「当主さま、ご加減はいかがですか?」
初「あ、イツ花さん、ありがとう、もう良くなってきたよ~♪」
 さすが元服すぐの少女だ、傷の治りも早い
イ「それで、あの、」
 イツ花が珍しく、視線を伏せる
イ「お迎えが近づきつつある方がいらっしゃいます……お気を強く持ってこちらへ」
 初子の頭が真っ白になった
 
 布団に臥せっていたのは、蘭だった
 いまだ0才5ヶ月の蘭の、命のともし火が消えようとしている
 初子、佐和母子、イツ花が沈痛な面持ちで、苦悶の表情を浮かべる蘭を見守っていた
佐「蘭ちゃん……」
夢「蘭さまぁ……」
 一番年少の子が亡くなってしまうだなんて
 頭痛に襲われていた初子を、イツ花が廊下に呼ぶ
イ「当主さま」
初「何でしょう……」
 少し疲れた顔で、初子が微笑む
イ「反魂の儀を志願される方が、いらっしゃいます」
初「反魂の、儀……」
 反魂の儀――
 自らの魂を差し出し、相手の魂を救う呪法
 魂を与えた者に訪れるのは、死

 初子は居間に呼ばれていた
 そこに座していたのは、正装の巻絵だった
初「巻絵お姉さま……」
巻「初子しゃん」
 正座して、頭を垂れる
巻「子の蘭しゃんなら、わたしなんかの何倍もこれから先、働くと思いましゅ!(`・ω・´)」
初「でも、巻絵お姉さま……」
巻「どうか、反魂の儀……お許しくだしゃい」
 初子は胸の前で、ぎゅっと手を固める
初「でも、そうしたら、巻絵お姉さまは……」
 初子の声が震える
巻「……わたしは、もう、十分生きたんでしゅ」
初「そんなことって……」
 初子の目から涙がこぼれたが、巻絵はにっこりと微笑んでいた
初「これも、当主が決めないと、いけないんですね……」
巻「わたしは、もう……疲れちゃったんでしゅ、鬼を斬るのも、痛い思いをするのも……」
初「そんな……壬生川家の生き方を、否定するような事……おっしゃらないでください」
巻「だから、わたしは、ここで引退でしゅ」
 巻絵はもう一度、頭を下げた
巻「蘭のこと……よろしく、お願いしましゅ(´・ω・`)」
 初子の嗚咽の音だけが、屋敷に響いていた 
 
 
 
 
 翌日、蘭は目を覚ました
 蘭は初子から巻絵の想いを聞いて、一言「……そうか」とだけつぶやいた
 蘇った蘭の髪は、炎のような赤から、緑へと染まっていた
 


 壬生川 巻絵 享年1才4ヶ月
 
 巻絵「自己満足かもしれないでしゅけど……私なりに 一所懸命やったつもり……ほめて、くだしゃい……」 

 
 

 蘭の枕元で、初子は反魂の儀を行った昨夜、見た夢を蘭に話した
 鴨川のほとりで、臥蛇丸と巻絵が散歩している夢だった
 
 無言で聞いていた蘭に、初子はぽつりと誓った
「こんな想いを味わうなら、私は、もう二度と負けません」
 その日壬生川家に満ちていたのは、とても苦い煙のような空気だった
by RuLushi | 2005-08-21 23:25