ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年11月第2編
 
 
 荒神橋一族が進軍する道中は、武士団に守られていた。
 危険のない旅路も、それもこれも全て、荒神橋一族を万全の状態で朱点童子の元に届けるためのことだ。
 
 大江山にたどり着くまでにも何度か妖怪たちの襲来があったが、武士たちは一致団結してこれを守りきった。そのおかげもあって荒神橋一族は無傷で麓にやってくることができた。

勲「ここから先には、大江山の門がある。時の流れも変わっておろう。よって、ひとまず休憩しようではないか」
 
 勲の提案に、晴海も賛同した。
 辺りには、一生止むことなどないような小雪が降り続けている。晴海の慎重よりも高く積もった雪の壁は、夏の間もずっと溶けることなくそこにあり、荒神橋一族たちの行く手を遮っていた。
 肌を刺すような冷気の中で、晴海は失われた山道のその先にあると思われる大江山山頂を見上げた。
 しかし、厚い雲に覆われた天はどこまでも暗く、神の力を宿す晴海の目であっても、見通すことはできなかったのだった。
 
 
 ~~ 


 晴海は処女雪の中に飛び込んだ。
 
晴「くあー、つ、冷たいぜー!」
 
 頭から雪をかぶって起き上がると、晴海の下敷きになった雪がくっきりと人形を浮かび上がらせていた。鼻の頭を赤くしながら、晴海は「へへ」と笑う。
 晴海は12月に荒神橋家にやってきた。彼女は冬の子だった。手足もむき出しの拳法家の衣装をまといながら雪に抱かれたその姿は、ひどく寒々しく見えていたが、晴海自身は幸せだった。むしろ、このままいつまでも埋まっていたいと思う。
 
 遠くでは、武士たちが荒神橋一族の進軍を少しでも楽にしようと、雪かきをしてくれているのが見えた。声を掛け合いながらせっせと道を作ってくれているのだが、その音は辺りの雪に吸い込まれてほとんどここまでは届かない。
 とても静かだった。ここはまるで無音の世界だ。
 あまりにも静かすぎて、耳の奥で風の鳴る音がする。
 晴海は雪原に大の字に寝そべりながら、空を仰ぐ。
 ゆっくりと手のひらを心臓の上に当てた。鼓動は一定のリズムを刻んでいる。目を閉じる。触れた雪の冷たさが心地良い。
 
 これから死地へ赴くというのに、心はわずかに高揚している。
 一体どうしてだろう。

晴(ワクワクしているのか、晴海……?)
 
 指輪を唇に当てて、問いかける。目を開いた。
 晴海の前、雪に腰掛けてひとりの少年がいた。
 
 桃色の狩衣を着た端正な顔立ちの少年。肉体を奪われた彼は、晴海を眩しそうに見つめている。

黄「やあ、こんちわ」
晴「あ、黄川人じゃないか」
 
 漂う冷気の中にいると、その美貌がさらに際立って見えた。若い真琴や男勝りな晴海とは違う。黄川人はまるで刃物のように艶麗だ。
 
晴「そっちも見送りに来てくれたのか?」
黄「ウン、まあ、そんなとこかな」
 
 黄川人は目を逸らす。いつも悪戯げに笑っているその表情が、きょうは固かった。珍しく緊張をしているのかもしれない。

黄「悪いね。君たちにばかり、負担をかけちゃってさ」
晴「なんだよそれ。はは、気にしないでくれよ。晴海たちも自分たちのためにやっていることなんだぜ」
黄「こんな体じゃなかったら、君たちと戦えるはずなんだけどサ」
 
 肩をすくめる黄川人は、口元だけで微笑んでいた。それが今の彼には精一杯、とばかりに。
 黄川人は視線をあげる。つられて晴海もその先を見た。
 牽が勲となにか話し込んでいるのが見えた。刀を振っていることから、戦いについて助言をもらっているのかもしれない。
 さらに視線を転じれば、真琴と福助が一緒にいた。福助はいつもの仏頂面。真琴はこちらに背を向けているため、その表情はわからない。

黄「……ボクと君たちの差は、いったいなんだったんだろうね」
晴「え?」
黄「短命の呪いをかけられながらも、家族に囲まれて暖かい暮らしを送る君たち。かたや、僕は永久に死ぬこともない代わりに、ずっと独りぼっち。ないものねだりだってことはわかっているんだけど、ボクも君たちのようだったら良かったのにな、ってサ……」
晴「それは……」
 
 晴海は黄川人の背中を叩こうと手を伸ばす。しかしその手のひらは空を切る。伸ばした手を引き戻して、晴海は口元を引き締める。

晴「バカ言うなよな、黄川人。そばに誰もいないってんだったら、晴海たちが家族になってやるよ」
黄「……ええ?」
晴「朱点童子を倒せば、元の体を取り戻せるんだろ? それでもまだひとりだってんなら、うちにくればいいさ。みんな、反対なんてするわけないぜ。今さらひとり増えたってどうってこたあねえ!」
 
 晴海の力強い視線を真っ向から浴びて、黄川人はしばらく戸惑っていたようだったが。
 すぐに、笑う。

黄「アハハ、そういうこともあるのかい。君たちは面白いなァ」
晴「晴海は本気で言っているんだぜ」
黄「いや、わかるよ。気持ちだけは受け取っておくさ。いやあもっけの幸い、もっけの幸い。まさかボクにそんなことを言ってくれる人がいるなんてね、びっくりしたよ」
晴「茶化すなよ、黄川人。もし本当に困っているんだったら――」
黄「そこまでにしようね、晴海さん。甘い夢を見るのはそこまでだ」
 
 黄川人はピシャリと晴海の言葉を遮った。その瞳に浮かぶのは、鋭利な光だ。

黄「ボクにはね、生き別れの姉さんがいたらしいんだよ。もっとも、顔も覚えちゃいないんだけどね。だけど、もし呪いが解けたら探してみようと思っているんだよ」
晴「そうなのか。旅に出るってことか?」
黄「さぁてね。もしかしたら、案外近くにいるかもしれないよ? だから、君たちと暮らすことはできない。誘ってくれたことについては、素直に感謝しておくよ」
晴「わかった。晴海たちは黄川人の無事を祈っているぜ」
黄「いいのかい? そんなこと言っちゃってサ。だってボクが期待しちゃったらさ、君たちの重荷になるんじゃないのかな?」
晴「心配するなよ。絶対に勝ってくるからさ」
黄「フフ、それなら楽しみだなァ」
 
 拳を握り固める晴海に、黄川人も笑みを漏らした。
 


 ~~
 
 
真「あの」
福「……ん?」
 
 雪かきの手伝いを断られた福助が、手持ち無沙汰に携帯袋の中身を確認しているところだった。
 真琴が福助の前、俯いて立っていた。
 彼女は屋敷を出る前からずっと元気がなかったのだ。福助はなんとなく自分が避けられているのだろうと感づいていたのだが。
 
福「どうしたんだい、真琴さん」
真「……こないだは、その」
福「……?」
 
 いつのことだろう。

真「その、子供っぽいことを言って、ごめんなさい」

 ああ、と思いつく。きっと相翼院で軽く意見を対立させたときだ。福助はなんとも思わなかったが、年少者の真琴にとっては大事だったのかもしれない。福助は己の迂闊さを呪う。

福「あ、いや……もしかして、ずっと気にしていたのか?」
真「別に、そういうわけじゃありません」
 
 急に、真琴はぷいと横を向いた。その変化に、福助は置いていかれる。
 この年頃の子供は、本当に難しいと福助は思う。近づこうとすれば離れて、撫でようと思えば引っかかれる。真琴はまるで猫のようだ。晴海のなんと扱いやすかったことか。
 余計なことは言わず、黙っていよう。そんなことを考えていると、真琴が不機嫌そうに口を開く。

真「ただ、色々考えてみたんですけど、その、ごちゃごちゃしててあんまりまとまらなくてですね」
福「……」
真「父サンや福助サンの言うこと、ひとつだけ賛成します」
福「へえ」
真「ウチたちは、朱点童子を倒すために生まれたんだ、ってこと」
 
 一体どんな心境の変化か。福助は少しだけ嫌な予感を覚える。
 しかし真琴は辺りを見回す。

真「これだけの人たちが、ウチたちに期待して、朱点討伐を望んでいるわけですよね。だったら先にそれを片づけちゃわないと、おちおち暮らすことだってできません」
福「……ま、確かにね」
真「それに、気づいたこともあるんです」
福「へえ」
真「もしウチたちが無事に朱点童子を討伐したら、それって京の都の恩人ってことですよね。そうしたら、ウチたちはもっと贅沢な暮らしができるようになるんですよね。それも、これからずっとずっと」
福「うん、まあ」
 
 物事はそんな単純なことではないだろうが、福助はうなずく。否定する材料をわざわざ用意するまでもない。
 そんな心境の変化にも気づいているのだろう。真琴は福助を半眼で見つめながら、改めて持論を展開する。

真「というわけでですね、今は頑張るときだと思ったんです。ウチのモットーと少し矛盾することもありますが、いいです。生理的な嫌悪感は、今だけ封じ込めておきますから。やばい覚悟で、ウチも鬼を矢で貫いてやります」
福「まあ、いいんじゃないかな」
真「なんか気持ち悪いので、それだけ、言っておこうと思いました」

 真琴は小さく頭を下げた。
 自分の行動理由を“こう”と定めておかなければ、彼女は自分の足で立っていられないのだろう。それならば仲間に頼ればいいものを、真琴はあくまでもひとりで立とうとしているのだ。
 これがまだ4ヶ月才の少女なのだから、驚く。

福「……僕が4ヶ月のときは、どうだったかな」
真「? なんですか?」
福「いや、しっかりしているな、と思ってさ。僕がきみぐらいのときは、ただの小僧だったよ。やっぱり女の子の成長は早いのかな」
真「意味わからないですけど」

 真琴はやはり半眼のまま。

真「大体ウチ、先月ぐらいに“まだまだ子供だから”的な感じのことを言われたばかりなんですけど」
福「たった一度の戦場が、幼子を獅子に変えることもあるそうだよ」
真「実感ないですし、わけのわからないことを言わないでください」
 
 真琴は福助の胸を小突く。寒さのせいか、その頬はわずかに朱に染まっていた。
 
福「できるだけ早く帰ってきたいものだね」
真「そうなるように、がんばってくださいね、福助サン」
福「僕かい?」
真「ええ……まあ、その、頼りにしてますから」
 
 耳を赤くしながらそう言った真琴は、慌てて訂正をするように言い直す。

真「だって、他に一緒に行く人なんて、脳天気な当主サンと能無しの父サンしかいませんし」
福「その言い方はちょっとひどいな」
 
 福助は苦笑する。遠くにいる兄は、勲に刀の太刀筋を見てもらっているようだ。

福「牽はああ見えて、結構やるよ。家の仕事はなにもできないし、学はないし、配慮だって持ってないけどね。こと軍事に関しては、信用できる。これは僕が保証するよ」
真「ふーん……」
 
 真琴は面白くなさそうに牽を横目で見やっていた。
 
 
 ~~
 
 
 大江山の門の前に立ち並び、一同は改めて出陣する。
 武士たちが雪をかきわけ、迫り来る鬼たちから荒神橋一族を守るのだ。しかし、この迷宮に現れる鬼たちは誰も彼も強敵揃い。並の人間が五体満足で下山できる保証はどこにもない。それでも人たちは、荒神橋とともに戦うことを選んだのだ。
 
 さあ、
 地獄のような雪中登山の始まりだ。
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by RuLushi | 2012-07-25 22:13 | 初代当主・瑠璃