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ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年2月中編
 
 客間に通された直垂姿の男性の風貌は、まるで熊のようだった。右腕を袖の中にしまっており、しかし見えている左腕は瑠璃の胴回りほどの太さがある。
 向かいに座る瑠璃は、自分の家だというのに、肩身が狭そうだ。
 
瑠「あ、どうも……現当主の、る、瑠璃、でしゅ……」
 
 髪に白いものの交じる男性は、口を開く。

○「……そなたが、荒神橋源太の一人娘か」
瑠「え、ええ、まあ……その……」

 なるほど、聞いていた通りだ……と、彼は驚きに目を見張っていた。
 もじもじと顔を赤らめるのは瑠璃。
 頭が白くなって、なかなか言葉が出てこないのだ。
 
○「なるほど、面影が残っているわ」
 
 髭を撫でる老いた男は名乗る。
 彼は、高辻勲。
 荒神橋源太と肩を並べていた、戦友であると言う。



 
勲「あれからもう二年か……月日の経つのは、風のようだ」
瑠「え、えっと……」
 
 瑠璃は大人の顔色を伺いながら、尋ねる。

瑠「お父さんのこと、知っているんですか……?」
勲「……うむ。あやつとは、子供の頃からの仲でな」
瑠「……」
 
 瑠璃は視線をさまよわせる。
 思えば、自分が一族の息子娘たちに語るべき両親の話を、荒神橋一族の歴史をなにも知らなかったのだと気づく。
 高名な武士だと聞いたことがある。だが、それだけだ。
 一族の当主として、知っておかなければならないことなのではないだろうか。
 
 瑠璃は勇気を振り絞り、自分の胸元を握りながら、勲に問う。

瑠「あの、聞かせてもらっても、いいですか。お父さんのこと……あたし、なにも知らなくて」
 
 勲は、まるでコケの生えた大岩のような表情の筋肉を緩めて、子供に昔話を聞かせるように語り出す。
 


 血気盛んで、武功を立てることに逸っていた若い頃の話。
 目が覚めるような美しい女をどこからか連れてくるなり、娶ったこと。
 大江山京に巣食う逆賊征伐から、朱点童子との決戦まで。
 
 情熱家で短絡的。融通が利かないほどの正義漢であるが、その誠実な人柄は誰からも好かれていたという。宴席が大好きだったのにも関わらず、薄めた酒のたった一杯で顔を真っ赤にしてあっという間に潰れていたなど、失敗談にも事欠かない。
 

勲「無論、剣の腕は都随一であった」
 
 雪の降り積もる大江山。
 共に出陣した精鋭の武士、総数三十六名。
 勲もまた、荒神橋源太を隊長とした朱点童子討伐隊の一員であった。
 
勲「大江山の門を守る仁王を引き受け、俺は源太を見送った。やつこそが悪鬼を打ち倒してくれると信じて……だが、それがあいつとの今生の別れになるとはな……」
 
 もはや日は暮れていた。
 屋敷は静まり返り、わずかな物音も辺りの残雪に吸い込まれているようだった。
 
勲「……ここまでが、俺の知っている限りだ」
瑠「……」
勲「本来ならば、もう少し早く来たかったのだが……俺もしばらく動けずにな」
 
 勲は右腕をさする。そこでようやく瑠璃は彼が隻腕であることに気づく。
 老年に見えていたのも、戦傷による後遺症かもしれない。

瑠「……お父さんの話、ありがとうございます」
勲「いや……こちらこそ」
 
 胸のつかえが取れたように、勲は顔の筋肉を緩めた。
 
勲「しかし、『短命の呪い』、『種絶の呪い』、か。朱点童子はむごいことをする」
瑠「……知ってらっしゃったんですか?」
勲「ああ。都の武士の間ではまことしやかに囁かれておる。鬼め、源太の意気によほど肝を冷やしたのだろうな……」
瑠「……」
勲「瑠璃殿よ。俺たち都の武士は、一刻も早く呪いを解くために尽力をするつもりだ。きょうはそれを言いに来たのだ」
瑠「……えっ」
 
 瑠璃は驚いて顔をあげた。
 勲の目は本気である。

勲「いつまでも亀のように都を陰陽の力で守り抜いているだけでは、戦は終わらぬ。しからば、我ら武士こそが今一度立ち上がり、民を不安から守るため……源太やお輪殿の仇を討たねばならんのだ」
瑠「……」
 
 熱を内に秘めて語る高辻勲は、気骨のある武士であった。
 だが、その瞳の中を覗きながら、瑠璃はふと思う。
 彼は無くしたものをもう一度取り戻そうとしているのではないか、と。
 朱点童子に挑み続けなければならない宿命を背負った――そう、自分たちのように。 

 止めなければならない。
 彼をみすみす死なせるなんて。

瑠「でも、あの……」
 
 瑠璃は身を乗り出す。その赤い目に、勲の顔を映し出す。
 しかし、言ったところで彼が納得するだろうか。まだ年端もゆかぬ子供の言葉など、聞き入れるだろうか。片腕を失ってなお、それでも鬼に挑もうとする父親の友が。
 できるはずもない。彼を支えているのは、意地なのだろうから。
 
瑠「……」
 
 瑠璃はなにも言えず、俯いた。
 

 
 ~~ 


 
勲「見送り、感謝する」
 
 頭を下げる高辻勲に、瑠璃は「いえ」と首を振る。
 門の前、まぶたに焼きつけようとするかのように、こちらをじっと見つめる勲の視線に、瑠璃は居心地の悪さを感じる。
 
瑠「……あの、お父さんのお話、色々と、ありがとうございます」
勲「なに、あれくらいのことしかできぬからな……今は」
瑠「できれば、今度は……もっとゆっくり、お話したいです。その、うちの子たちも、混ぜて」
勲「そういえば、他にも若子の姿があったが」
瑠「あ、はい。子供です、あたしの」
勲「……なんと」
 
 勲はさすがに言葉に詰まっていたようだ。
 そこに、ひとりの少女が駆け寄ってくる。晴海だ。

晴「瑠璃ちゃん。あんまり遅いから、様子を見てこいって、父ちゃんが」
 
 玄関には寒そうに身を縮めながらも、顔は仏頂面の咲也。その後ろに都から帰ってきたのだろう、織物を抱えた牽と福助の姿もあった。
 驚く勲がおかしくて、瑠璃は思わず、くすっと笑みをこぼしてしまった。
 妙な話である。
 二年も悔やんでいた武士を前に、瑠璃は自分の父親の顔すら知らず家族を作っていたのだから。
 
瑠「勲さん、この子は、あたしの孫なんです」
勲「……もう孫まで、いるのか」
瑠「今年、この子が大江山に登ります」
 
 晴海を抱き寄せながら、瑠璃が勲を見つめ返す。
 家族の中にいるからこそ、瑠璃は自分を持つことができるのだ。
 
勲「……だが、そんなに小さな子が」
瑠「晴海ちゃんの武勇は、来月の選考試合で証明してみせます。だから――」
 
 寒風が瑠璃の髪を揺らす。
 事情のよくわかっていない晴海の肩に手を置いて、瑠璃は告げる。

瑠「だから、大丈夫です」

 瑠璃は微笑む。
 初対面の男を前に、ようやく笑むことができた。
 
瑠「あたしたちは、大丈夫なんです」

 高辻勲がなにも言わずに立ち去ったのは、きっと瑠璃が荒神橋源太の血を濃く受け継いだ武人であると認めてくれたからだと、瑠璃はそう思うことにした。



 ~~



 勲が帰った後、瑠璃たちは家族でささやかな宴を開いた。
 牽と福助が譲り受けてきた桃色の衣は、それはそれは美しい四季折々の花が刺繍されているものだった。

 そして翌日、瑠璃たちは戦場へと向かう。
 たったの一日で、華やかさも脱ぎ捨てて。
 
 

 ~~



 太陽が真上に昇る晩冬のある日、少し遅目の出陣である
 見送りは、晴海とイツ花。
 
晴「気をつけてな」
イ「がんばってください!」
 
 ふたりに力をもらい、背中を押されて、瑠璃は歩きながら手を振る。
 
瑠「じゃあねー、行ってくるよー!」
 
 すぐに転んで、したたかに顔を打ちつけていた。

牽「お、おかあさん!?」
福「だ、大丈夫……?」
咲「……ちゃんと前を向いて歩かないからだ」
 
 晴海は心配そうに眉を潜め、イツ花は苦笑する。

瑠「あ、あはは……こ、転んじゃった……」

 苦笑するより他ない。
 
 
by RuLushi | 2012-01-10 18:51 | 初代当主・瑠璃