人気ブログランキング |
ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
mibukawa.exblog.jp
近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
ブログパーツ
カテゴリ
=荒神橋家私書箱=
最新の記事
初めましての方へ/トップ
at 2014-12-31 17:42
1019年12月前編
at 2012-10-30 09:02
貞光とほたる
at 2012-09-09 04:59
1019年11月第9編
at 2012-09-03 07:56
1019年11月第8編
at 2012-09-01 11:49
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
1018年9月前編
 
 
瑠「ううむ……」
イ「うむむむむ……」
 
 荒神橋一家の女性ふたりは、腕を組みながらうなり続けていた。
 眉の間のシワは深く刻まれ、なにか重大なことを長考しているようだった。

 和机を挟んで向かい合うふたりの間には、一枚の紙。
 そこには墨で、数々の名前が綴られていた。
 
瑠「難しい……」
イ「選べませんねェ……」

 ふたりは今月やってくる子供のために、名前を考えていたのだ。
 
 
 障子をがらりと開いて、咲也が居間にやってくる。
 涼気を放つ、水風呂上がりの咲也だ。

咲「……風呂上がったら来いっつてたよな」

「どうせロクでもねえことだろうけど」という表情がありありと出ている。

瑠「あっ、さくちゃん、あのね、あのね!」
咲「ああ?」
瑠「もうだめ! 決められないの! 名前が!」
 
 咲也が瑠璃たちの手元を見れば、そこには数々の名前が記載されていた。
 そういえば、今月新しく瑠璃の子供がやってくるとか聞いていた気がする。
 なるほど、と咲也は納得した。
 
咲「……そりゃあ、張り切るよな」
瑠「でさ、でさ、もしよかったらさ、さくちゃんもいいの選んでみてよ!」
咲「はあ」
 
 咲也は顎に手を当てる。自分の弟か妹のためだ。
 それぐらいなら協力しても無駄な時間ではないだろう。
 それに今月の咲也は一応、重傷者だ。激しい運動もできず暇だったのだ。咲也もまた、その場に腰を下ろした。
 
咲「で、候補は? って、これか……」
 
 そこにはびっしりと男女の名前が書き綴られていた。
 数えなくても百以上はあるだろうというのがわかる。
 
瑠「あ、あとこっちにも」
イ「こちらにもォ」

咲「ん?」
 と、目を向けると、積み重なった紙の山。
 ……よもやと思って何枚かめくってみると、そこにもびっしりと男女の名前。
 
咲「……これ、何候補あるんだ?」
瑠「えーっと……いくつぐらいだっけ? イツ花さん」
イ「男女ともに、三千以上は書いたと思いますよォ。ここ数ヶ月ずっと考えてましたもんねェ」
瑠「あーそんなに書いたんだねー」
咲「ざっけんな!」
 
 ンなもん厳選してられっか! と咲也が怒鳴る。



 その結果。
瑠「命名箱【男】、命名箱【女】、完成!」
 である。
 
 書いてある名前の数だけ名前を千切り、木箱の中に詰め込んだのだ。
 発案者は咲也である。
 
瑠「さっすがさくちゃん、溢れる知性! 際立つ美形!」
咲「……あとは勝手に選びな」
イ「お疲れ様です、咲也さまァ」

 イツ花は冷たいおしぼりを用意し、製作者の労をねぎらう。

 思わぬ炎天下の作業に、のこぎりを放り投げて汗を拭く咲也。
 どうしてこの暑い中、木箱なぞ作らねばならなかったのか。それもふたつ。

瑠「これで、男の子、女の子どっちが来ても安心だね!」
 
 瑠璃はふたつの命名箱を抱えて、太陽のような笑顔を見せる。
 それを見た咲也は、「……ふん」と鼻を鳴らして顔を背けた。
 
 


 
 
<そして新たな家族>
 
 交神の間にて、正座して待つ瑠璃の前、イツ花がやってきた。

イ「おめでとうございます! いらっしゃいましたよ!」
瑠「やったー!」
 
 目を細めて笑うイツ花の前。
 瑠璃はまるで盆と正月が一緒に来たような顔で、両手を何度も高く挙げていた。
 そんな瑠璃の喜びようは、仕えているイツ花としても気持ちが良いものだった。

イ「嬉しそうですねェ、当主さま」
瑠「そりゃそうだよ! だって家族が増えるんだもん!」
イ「良かったですねェ~」
瑠「ひとり増えたら1.5倍だよ! わかる!? 1.5倍なんだからね! 毎日の賑やかさは何ものにも変えられない宝物だよ! かけがえのない財産だよ!」
イ「お洗濯の手間もお食事の支度も1.5倍ですねェ……」
 
 イツ花はつぶやき、しかし、と首を振った。

イ「しかしですね、当主さま……1.5倍にはならないのです」
瑠「……というと?」
 
 もったいぶったイツ花は、指を二本立ててみせた。

イ「二倍です」
瑠「……二倍?」
イ「はい」
 
 怪訝そうな顔をする瑠璃に、イツ花が大きくうなずく。
 それから顔を上げたイツ花は、ひまわりのような笑顔を浮かべていた。

イ「なんとォ、立派なお子様が一度にふたりも授かりました!」
 
 その言葉を、少し遅れてから繰り返す瑠璃。

瑠「ふ、双子ってこと!?」
イ「はぁい」
瑠「わ、わお……」
イ「どうですか、すごいですよねェ! ……って、と、当主さま!?」 

 額に手を当てて、まるで失神するようにそのまま後ろに倒れてゆく瑠璃。
 慌てて駆け寄るイツ花が、彼女の背を抱きとめる。

イ「ど、どうしました!? しっかりしてください!」
瑠「ご、ごめん……なんか、あまりにも嬉しすぎて……の、脳の血管が切れそう……」
イ「当主さま、当主さまってば!」
瑠「お、お願い神様……もう少し、もう少しだけ……あたしにじかんを……」
イ「しっかりしてくださいってばァ!」
 
 ぐったりと力が抜けている瑠璃の身体を何度も揺さぶるイツ花。
 正気に戻そうと、何度か頬まで張ってみせる。

瑠「うう……イツ花さん……」
イ「ほ、ホラ! しゃんとしていないと、お子様に会えませんよ!」
瑠「そ、そうだよね……あたしおかーさんなんだから、元気に、笑顔で迎えてあげなきゃ……」
イ「そーですよォ! ああ良かった、なんとか元気が出たみたいですね……せっかく、おふたりとも男のお子様なんですから……」
瑠「おとこの、こ……?」
イ「ですよォ」
瑠「……ふたりとも……?」
イ「はぁい」
 
 イツ花の腕に抱かれながら、上向く瑠璃は何度も瞬きを繰り返す。
 うん? とイツ花が小首を傾げたその瞬間。
 どくどくどくどく……、と鼻血が漏れた。

イ「う、うわァ、当主さま!」

瑠「そんな、かわいいかわいい男の子だなんて……」
イ「そ、そこまでは言ってませんけどォ!」
瑠「もう、だめだあたしは……嬉死(うれし)する……」
イ「いやですってば、もう! な、なにか布を詰めないと……!」
瑠「今までありがとうね、イツ花さん……これからは、さくちゃんをよろしくね……」
イ「新しい子たちに会えなくなっちゃいますよう!」
瑠「うん……うふふ……それだけが心残り、かな……」
イ「そんな素敵なお顔で微笑まないでくださいよ! もうお外に待っているんですからァ!」
瑠「……ああ、いいじんせいでした……」

イ「当主さま、当主さま! いっちゃだめですってばあ!」


 瑠璃は脱力してイツ花の背に身を任せながら、ゆっくりと目を閉じてゆく。
 鼻血を流して着物を汚しながらも、瑠璃は満面の笑みだった

 
瑠「みんな……あたしの屍を、越えていってね……」


イ「死因『嬉死』とかありませんから! ありませんからーッ!」
 
 慌てて突っ込むイツ花。

 

 荒神橋瑠璃、享年1才3ヶ月……
 
 ……というわけには、さすがに、ならないようだった。
 
 
by RuLushi | 2011-12-09 06:59 | 初代当主・瑠璃