ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年7月前編
 
 
晴「……あづい…………」
 
 身を焦がすような炎天が、いよいよもって冗談では済まなくなってきた頃。
 木陰で晴海が涼気という涼気をかき集め、なんとかかんとか真昼の暑さをしのいでいた頃。 
 
晴「…………とけるぅ……」

 交神の間には、ひとりの子供がやってきていた。



 ~~



<交神の間>


 牽と咲也が待つ部屋に、イツ花がわらべを連れてくる。 
 赤髪、赤目、色濃い肌。とても強く火の性質を帯びている。
 水色の髪をした牽とは似ても似つかず、咲也の子だと言われたほうが納得もできそうであった。

イ「女のお子様です」
 
 屈んだイツ花が少女の肩を抱きながら、嬉しそうに告げてくる。

イ「耳の穴の形が、父君にとてもよく似ていらっしゃいますよ」
牽「いや、あはは……面と向かってそう言われると、なんかちょっと恥ずかしいな……はは」
 
 牽は照れて頬をかく。
 かたや少女は、ふてくされているような顔で牽を睨み続けていた。
 
咲「名は、どうする」
牽「えっ、と……せっかくだから、アレで決めようかな」
 
 牽が指すのは、いわば瑠璃の忘れ形見。
 命名箱。

 引いたくじには、少年のような響きを持つ凛々しき名。
 
牽「じゃあきょうから、君は『真琴(まこと)』だよ」
 
 真琴。荒神橋真琴。
 春野鈴女を母に持つ、一族初の“弓使い”の少女である。
 
真「はい、です」
 

 
 ~~


 
 牽は一族を紹介すると言い、真琴を連れ出して居間にやってきた。
 じりじりと照りつける太陽も、火の属性に恵まれた少女には何の効力も発していないようだった。

牽「この家にはもうひとり、女の子がいるんだよ。あ、イツ花さんを除いてね。だから、真琴ちゃんにも仲良くしてほしいなー」
真「はあ、まあ」
 
 真琴は言葉少なげであった。恐らく初めてやってきた家で、緊張しているのだろうと牽は勝手に解釈する。
 
牽「色々、最初のうちは慣れないことだらけだろうけどさ、そこらへんはもちろん、僕たち家族が一生懸命サポートするから。だから、わからないことがあったら遠慮しないでさ、なんでも聞いてよね」
真「はあ……えと、じゃあ」
 
 気だるそうに、真琴は庭を指す。

真「あそこで伸びているやばい人は、いったいなんなんですか」
牽「……えと」
 
 牽は言葉に詰まった。
 無論、次期当主である咲也の娘、荒神橋晴海その人である。
 
 

晴「キミが新しく来た牽のお子さんだな! こっちは晴海だ、よろしくだぜ!」
 
 濡れ手ぬぐいを頭に乗せた晴海が、眩しい笑顔を見せている。

真「はい。春野鈴女の娘、真琴と言います。よろしくお願いします」
 
 一方真琴は、やはりどこか不機嫌に見えるような顔で会釈をした。
 だが、しっかりと挨拶を返すことができただけで、牽は満足だったらしく「いやーうちの子は人間ができているなあ……」と目を細めていた。

真「あの、なんでも聞いていいよ、って言われたので、聞きますけど」
晴「おう、どうしたんだぜ?」
 
 晴海もやはり年下の家族ができて、どことなく嬉しそうだ。
 真琴は晴海を指す。

真「どうして女の方なのに、『だぜ』とか言っているんですか。それって可愛くないです」
牽「ま、真琴ちゃん!?」
真「ゼンゼン似合ってませんし。やばいですよ」
牽「ちょ、ちょっといきなり何を言い出すの!」
 
 牽が慌てて真琴の肩を掴む。
 
真「いや、なんでも聞けっていうからなんですけど」
牽「そういうことじゃなくてね!」

 晴海はごまかそうとしながらも、その笑顔がどことなく頼りない。

晴「は、はは、素直な子なんだな……そ、そっか? 晴海、似合ってないかな?」
真「はい。やばいです」
牽「素直にうなずきすぎでしょ君!」
晴「ま、まあでも、晴海は心は武士だからな……そ、それに、可愛くないのは十分自分でわかっているから、へ、へっちゃらだぜ……」
 
 ちっとも大丈夫そうには見えなかった。
 そこで突然大声をあげたのは、牽。
 
牽「は、晴海ちゃんは、かわいいよっ!」

 シーン、とした。

 牽はハッと気づき、少女たちを見やる。

牽「あ、いや、これはその、真琴ちゃんがいきなり変なことを言う、か、ら……」
 
 てっきり晴海のことだから、豪快に笑い飛ばすか、あるいはピンとしてないような顔でこちらを見返しているか、そのどちらかだと思っていたのに。
 
晴「……ぅ……」
 
 晴海は声にもならない声をあげながら、俯いて、指を絡ませていたのだ。
 水色の髪の毛の隙間から覗く耳が真っ赤に染まっていて、今にも濡れた手ぬぐいの上から湯気を出しそうな顔をして。
 
 うっわー、と牽は思った。
 そうして牽もまた、硬直してなにも言えなくなってしまう。
 
 やがて、普段の晴海からは考えられないようなか細い声で。

晴「……あ、ありがとう、な……牽……」
 
 と、そんなお礼を言われてしまって。
 ますます、うっわーうっわー、と思ってしまう牽である。
 
 

 一方、そのやりとりを間近で眺めていた真琴。
 
真(……なんですか、これ)
 
 思わざるをえない。
 さすがにこれは口に出さないが、アホらし、とも。
 
真「ウチ、ちょっと屋敷を見て回ってきますね」
 
 とっとっと、と早足で去る。
 後ろから「ちょっと待って」と声が追いかけてくるものの、案の定、本気で制止しようとする気はないようで。
 どうぞごゆっくり、とでも言いたくなる。

真(母サンも言ってましたね。父サンはどうも、子供っぽいところを残した子だ、って)
 
 会ったことがなかったのにも関わらず、真琴は自分が母親似だろうと確信していた。
 春野鈴女は神の中でも、『若い神』と呼ばれていた。それはときに嘲りが込められていたことも、幼心に感じ取っていた。
 だが真琴に言わせてみれば、鈴女はとても人間らしく合理的で、自らの欲望すらもコントロールしてみせるかのようなしたたかも持ち合わせていたのだ。『古い神』はただ、彼女の世慣れた態度に嫉妬をしていただけである。
 
真(だから、多分、こうなると思っていたんです)
 
 鈴女に教わった様々な人生観は、真琴の中にも確かに息づいている。もっとも、そのほとんどが当時の真琴には難しすぎたのだが。
 
真(はあ、母サンのとこに帰りたい……)
 
 自分の家はここではない、という気さえしてくる。
 だからロクに前も見ずに歩いていた。

真「わぷ」
 
 大きな壁に鼻をぶつけてしまう。
 慌てて身を引けば、それはゆっくりと振り返ってきた。

福「……君は、そうか、やってきたのか」
真「お、同じ顔……!? いや、え、違う人……?」
 
 鼻を抑えたまま後退りする。顔は同じであるはずなのに、なぜか彼のほうが父よりもずっと大人に思えた。

福「僕は福助。牽の……いや、君の父親の、双子の弟だよ。よろしく」
真「あ、えっと……真琴、です」
 
 差し出された大きな手に釣られて、真琴も慌てて右手を突き出す。
 福助はそんな真琴を見て、うっすらと微笑む。

福「僕の、二人目の姪子さんか。まあ、僕にできることは少ないかもしれないけれども、仲良くしてやってくれ」
真「は、はい……」
 
 牽とは真逆のことを言う福助に、真琴の胸は高鳴った。

真(この人、やばい……謙虚ですよ、母サン……!)

 徐々に徐々に顔が火照ってゆくのを抑え切れない。

福「それじゃあ僕は稽古の途中だったから、これで」
真「あ、案内してください」
福「え?」
真「今、屋敷の中を見て回ろうとしていたんですけど、意外と広くて困っていたんです」
福「そう、なのかい? ……まったく、牽のやつも自分の娘を放っておいて、なにをしているんだか」

 苦み走った表情がまた似合う。
 悪くない。全然悪くない。
 
福「……わかったよ、それならまずはどこから案内しようか」 
真「全部です」
福「……どこだって?」
真「全部、全部っ」
 
 真琴は福助の裾を掴んで、弾んだ声をあげる。
 恐らくは福助が「子供の相手だなんて面倒だな」と思っているであろうことも見越している。
 
 荒神橋真琴。地上に降りてきてまだ初日、0才0ヶ月才ながら、実にしたたかな少女であった。
 
 
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# by RuLushi | 2012-02-04 06:30 | 二代目当主・咲也
1019年6月
 
牽「『お友だちから始めましょ』ってね! そりゃもう可愛いもんだったよ、春野鈴女ちゃん! 母さんが言っていたけど、あの感情を『萌え』っていうんだろうねー」
福「ああ、そう……」
 
 ジメジメと鬱陶しい梅雨が続く6月のある日。
 牽と福助は自室でそれぞれ、術の巻物を開いていた。
 
牽「はー、もう来月には、僕の子供が来るのかー」
福「早いね」
牽「本当に、なんだか不思議だよね」
福「そうだね」

 しばらく牽の語る他愛のない内容を聞き流している辺りだった。
 彼が突然言い出した。

牽「……そういえばさ、福助は最近、ずいぶんと晴海ちゃんと仲が良いよね」
福「……なんのことかな」
 
 微妙な空気が流れる。

牽「……」
福「……」
牽「……いつもふたりで、お喋りしているみたいだけど」
福「……気のせいだよ」
牽「……僕が行くと、さっさと離れたりさ」
福「……気のせいだよ」
 
 牽の問いに視線を合わせようとしない福助。
 
牽「あのさ、ずばり聞くけどさ」
福「……」
牽「……晴海ちゃんのこと、好きなんでしょ」
 
 福助は鼻で笑う。

福「……なんだよそれ、誤解だよ。牽じゃあるまいし」
牽「ふ、福助」
福「彼女が生まれたときから僕は一緒にいるんだよ。いくらなんでも、そんな感情を持つはずがないよ。バカじゃないの。ありえないってば」
牽「お、お前……!」
福「ああ、これは僕の持論だから、牽には関係ないよ。気にしたならごめんね」
牽「べ、別に僕は鈴女ちゃん一筋だし!」
福「そっか、じゃあいいじゃない」
牽「でも兄として気になるんだよ!」
 
 やたらと噛みついてくる兄に、福助もまた苛立ちを隠そうとしない。
 
福「あのね、僕は晴海さんのことを心配してるんだよ。牽みたいな野獣と一緒に暮らしているわけだし」
牽「誰が野獣だよ! すっごく大人しいって近所でも評判だよ!」
福「晴海さんの裸を見て、鼻血出しそうにしてたくせに」
牽「い、いいいいつの話だよそれ! って、っていうかそんなことしてないし!」
福「いや、動揺しすぎじゃないかな……」
 
 引くわー……、と小さくつぶやく。
 牽がキッと睨んできた。

牽「いーや、双子だからわかるね! 福助は適当なことを言うのばっかり巧いから、すっかり騙されそうになったけど、君だって晴海ちゃんのことが好きなはずだよ!」
福「はずだよ、って言われてもな……」
牽「どうせいつもみたいに、自分で自分の心にウソついているだけなんだろ! 僕にはわかるんだぞ!」
福「それはだから、牽の勝手な想像で……」
牽「どうして目を逸らすんだよ!」
福「……暑苦しいから、だよ」
 
 ガラッ、と戸が開かれる。
 牽と福助は互いの頬をつねり合っている状態で、横を向いた。

晴「おーい、福助ー! きょうも暑いなー! 出陣の時間だぜー!」
 
 きょとんとした晴海の表情。彼女は小さく首をひねる。
 
晴「どうした? ケンカかー?」
牽「い、いや……」
福「これは……」
 
 慌てて離れるも、晴海は訝しげにこちらを眺めてくる。
 すると牽が、がじがじと頭をかきながら叫び出す。

牽「あーもう! 僕やっぱりこういうのイライラして耐え切れない!」
晴「お、おう?」
福「ちょ、ちょっと、牽……」

 嫌な予感を覚えた福助が思わず手を伸ばすも、牽は気にせず。

牽「ねえ、晴海ちゃん。僕と福助と、どっちが好き!?」
福「はぁ!?」
 
 福助は思わず牽を殴った。ガツン、と。
 牽の首が曲がって明後日の方向を向く。
 
福「そういう繊細なことをあっさりと口にするんじゃないよ!」
牽「だって気になるじゃん!」
福「心に閉まっておけよ!」
牽「だから気になるんだってば!」
福「君ってやつは!」
 
 牽と福助はもう9ヶ月才だ。身体も大きい上に筋肉質なので、本気でケンカするとそれなりに部屋も壊れてしまう。
 近寄るとやはり危険なのだが、晴海は迷わずふたりの間に飛び込んだ。

晴「やめなさい!」
 
 少女の小さな手が牽と福助の手首を鉄輪のような握力で掴む。
 
牽「は、晴海ちゃん……!」
福「あ、危ないな……さすが拳法家……」
 
 と言いかけたふたりの言葉が途中で途切れた。
 晴海がふたりの手首を掴んだままひねる。それだけでふたりの身体は宙を舞った。
 どすん、とわずかに屋敷が揺れる。

牽&福『~~~~~~~~~~~~~~~~~!』

 牽と福助は頭を抱えながら、声にならない叫び声をあげている。
 その前に立って、晴海は腰に手を当てている。

晴「牽! 福! 正座!」
牽「……え?」
福「……う、うん……?」
晴「早く!」
 
 涙目のままで牽と福助は即座に正座する。
 
福「……なんで僕まで……」
晴「いいか、ふたりとも! 晴海たちはこれから、鬼退治に行くんだぜ!」
牽「はい……」
晴「それなのに、どうして兄弟でケンカするんだ! 晴海だって怒るぞ!」
福「……もう怒っているじゃないか……」
晴「もっともっと、ってことだ!」
牽「それは怖い……ていうか痛い……」

 まるで鷹のように目を光らせながら、晴海は双子を見やる。

晴「で、なんだって?」
牽「え?」
晴「晴海は、牽と福でどっちが好き、だっけ?」
福「あ、いや、それはもう……」
牽「うん、そう!」
 
 テメエ……、と福助が睨むが、牽は気づかない。
 
晴「晴海としては、どっちが好き、っていうのもないんだけど……」
福「だ、だよね……」
牽「でもあえて選ぶとしたらどっち!?」
福「お前もう黙ってろよ……」
晴「あえて、かあ……」
 
 考え出す晴海を、牽はワクワクと、福助は嫌そうに見つめている。
 
晴「うーん……」
 
 腕組みをしつつ、晴海は真剣な調子だ。なんにだって手を抜いたりはしない。そんな彼女は、本当に純粋で良い子だと福助は思う。
 
福(でも、どうせ僕が選ばれるわけがないんだから、牽のやつ……)
 
 またもイライラが募る。
 ちらちらと視線を動かしていた晴海が、小さくうなずいた。晴海の唇がゆっくりと開く。
 きっと、牽の名を告げようとして――
 
咲「おい、お前らおせえ。なにやってんだ」
 
 いつの間にか晴海の後ろに立っていた咲也は、顎をさすりながら当惑した顔のまま言った。

咲「……なにやってんだ?」
 
 彼の前には、正座をした牽と福助、それに腕組みをしている晴海がいた。
 
牽&福&晴『……えーっと……』
 
 三人の声が、見事に重なった。
 
 

 ~~
  
 
 
<白骨城>
 
咲「今月は時間がねえからな。ちゃっちゃと行くぞ」
 
 咲也は早速、速風の御守を使用する。
 
晴「おう!」
 
 戦場に出るのが初めての晴海は、両拳を握り締めて意気揚々としている。その衣装がまた、なかなかに凄い。
 
福「過激な格好だね、晴海さん……」
牽「足、露出しているぞ、あれ……」

 二の腕から先が出ているのはともかく、下半身は股を布が覆っているぐらいだ。嫁入り前の女性としては、あられもない。
 見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
 
福「晴海さんに、次は身だしなみに関しても勉強させなきゃな……」
牽「え、なんだよそれ」
福「……いや、なんでもない」
牽「むむむ……」
 
 牽の視線から逃れるように福助は先に行く。
 

 
 かくして、再び四人揃った荒神橋一族は、夢残ヶ原を走り出す。
 

 
 今月の咲也の目的はひとつの術書。

咲「<速瀬>だ」
 
 咲也は息を切らせながらついてくる娘に語る。

咲「俺たちに与えられた一ヶ月は短い。だからこそ時を縮めるための手段は、かけがえのないものだ。わかるな、晴海」
晴「……ああ」
咲「代用手段として今は速風の御守を用いているが、この道具は携帯袋を圧迫すっからな。常に持ち歩くのは金もかかってしょうがねえ。その上、6つでもまだ足りないと来た」
晴「だから、その、移動速度をあげる術なんだな」
咲「そういうことよ」
 
 親子が並ぶと、頭ひとつ分ほども背丈が違う。咲也を見上げながら、晴海も力強くうなずいた。

晴「父ちゃん、もっともっと晴海に色んなことを教えてくれよな」
咲「……ああ、もちろんだ」
 
 四人の前には、禍々しくそびえ立つ白骨城。
 
咲「行こう」
 
 白骨城に足を踏み入れるのは、一年ぶりだ。
 右も左もわからなかったあの頃とはなにもかも違う。
 咲也は胸を張って、進軍を開始した。
 
 
 
 ~~
 
 
 
 本当ならば、咲也に出陣する意思はなかった。
 咲也の年齢はすでに1才5ヶ月。

咲(誰にも弱音を吐くことができないってのは、なかなかどうして、面白くねえもんだぜ……)
 
 奇跡でも起こらなければ、大江山に昇ることはかなわない。それはすでに瑠璃に言われたことであったため、自身の中に失望は少なかった。
 だから、これ以上経験点を稼ぐつもりもなく。
 
咲(だけど……今月は、どうしても<速瀬>を取得しておきたいもんな)
 
 経験点と討伐速度。そのふたつを天秤にかけた上で、咲也は<速瀬>を選んだ。
 こういうことを捨取選択することこそが、当主の役割だと思えたのだ。
 
咲(それに、ま、俺がなにか教えられることもあるかもしれねえ、か)
 
 初陣の晴海は拳と蹴りを武器に、果敢に鬼に挑んでゆく。
 しかし、彼女の本分は攻撃の技ではない。晴海に求められているのは、一族の命を繋ぎとめる回復の術だ。それはある意味で、もっとも困難な役割だ。
 
咲(誰かが凶刃に倒れれば、晴海はそれを悔やむだろう……もし命を落とせば、一生後悔するに違いない……) 

 誰かを守るということは、なによりも難しい。
 だからこそ、咲也は晴海にその役目を託そうと思う。誰よりも心優しい晴海に。

咲「これから進む先には、色んな敵が待つけどよ」
晴「おう」
 
 初めての実戦に気分が高ぶっているらしき晴海の頭を、咲也が撫でる。
 
咲「負けんなよ、晴海」

 晴海が咲也の表情を仰ぎ見たのは、その声があまりにも優しかったからであって。
 
晴「……あ、ああ、父ちゃん」
 
 今はまだ、戸惑うだけだとしても。


 
 アシゲの祭壇で襲いかかってくる恨み足を、荒神橋一族は2月、瑠璃と最期に出陣した鳥居千万宮で入手した<花連火>の併せ、六倍撃で火葬に付す。
  
 
 
 ~~
 
 
 
 たどり着いたのは、白骨城の十二ノ丸。
 残る火は5つ。
 一同は燃え髪大将を狩りに狩る。 
 
 悪鬼もかくやあらんという勢いの咲也に、牽も福助も口を挟む余裕がない。
 技もさることながら、大岩を叩き割るような勢いで振り回される薙刀に、血と肉とがばらまかれてゆく。
 
 だが、<速瀬>は出ない。
 落とさない。
 焦燥感だけが募る。

晴「父ちゃん、時計の火は残りあとひとつだぜ……」
咲「ハァ、ハァ……」
 
 蒸し返すような暑さの中、気が遠くなりそうになりながらも挑みかかることを止められない。
 牽も福助も意識が朦朧としているのか、まるで亡者のように斬りかかる。

咲「だが……術書がまだ……!」
晴「父ちゃん……」
咲「……晴海、もしかしたら、今月は<速瀬>を入手できなかったとしても、だ」
晴「……ああ」
咲「ただ、最後の一瞬まで諦めるなよ。常に人事を尽くすのだ。ひたむきであれ。その気持が、崩れかかった時に、力をくれるはずだ。覚えていてくれよ、晴海」

 咲也が最後の燃え髪大将を、脳天から真っ二つに両断する。
 それで、おしまいだった。

 
 ついに、術書は出なかった。
 その場に薙刀をついてあえぐ福助。大の字に寝転がる牽。壁にもたれかかっている晴海。彼らを見回して、咲也は天を仰ぐ。

咲(たとえ、知識があったとしても成功させることができない……これが俺の、天運……つまりは、“分”ってところなんだろうな……)
 
 あまりの疲労感に、全身から力が失われてゆくようだった。

咲(瑠璃……)
 
 指輪をなぞりながら、先代と自身の名を呼ぶ。

咲(俺は、お前のように、彼らに何を残すことができるのか……)
 
 顎を伝い滑り落ちる汗を拭うこともせず、咲也は目を瞑る。
 
咲(俺は……)
 
 これから歩むであろう、晴海たちの苦難の道程を。
 できることなら、ほんのわずかにでも照らせられれば。
 
 
 あまりにも長く、しかし一瞬のようだった一ヶ月は過ぎ去る。
 翌月は7月だ。
 夏と、新たな家族がやってくる月だった。
 
 
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# by RuLushi | 2012-02-01 02:11 | 二代目当主・咲也
1019年5月
 
咲「牽助」
 
 居間。咲也の前には双子が正座をして並んでいる。
 牽は庭の木陰に寝そべっている晴海が気になるのか、ちらちらと視線を動かしている。一方福助は俯いたままだ。
 
咲「とりあえずは、元服おめでとう、だ」
牽「あ、うん」
福「……はい」
咲「8ヶ月才になったからには、交神ができる、ということだな」
 
 双子に視線を走らせると、ふたりの様子には変わったところがなかった。本当に話を理解しているのだろうかと、疑問になる。

咲「……まあいい。わかっているだろうが、お前たちの遺伝子はまったく同じだ。表面に現れている数値がわずかに異なっているだけでな。つまり、これがどういう意味かわかるな?」
牽「え、えっと~、う、うん、もちろんですよ! あれですよね、あれ! わかっているんですよ! な、福助、ほら」
福「……交神をするのは、どちらかひとりでいい、ということですね」
牽「そ、そう、僕が言いたかったのはそれ! って、えええええ!?」
咲「その通りだ、福助」
牽「えええええ!?」
 
 驚いているのは牽ひとりだ。彼はひとしきり驚いたあと、咲也と弟の顔色を伺う。
 
牽「で、でもそれ」
咲「俺はどちらでも良いと思っているがな」
牽「それって……」
福「なら、牽でいいと思います」
牽「福助!?」
 
 驚いてばかりだ。牽は福助の肩を掴む。
 
牽「お、お前それで良いのか! 一生に一度の問題だろ!」
福「僕はいいよ」
牽「いいのかよ!」
福「どっちが交神の儀に挑んでもいいのなら、僕にとっては好都合だよ。絶対に牽のほうがいい。……ていうか、ぶっちゃけ面倒だし」
牽「そんな理由かよ!」
福「まあ、そういうことなんで」
咲「……わかった」
 
 あっさりと身を引いた福助のおかげで、話はすぐにまとまったようだ。
 牽はしばらく納得できずにいたようだが、すぐに大きなため息をついた。牽と福助の意見が対立したときに先に折れるのは、いつだって兄である牽の役目だった。
 
福「……なら、僕はこれで」
牽「あ、福助っ」
 
 早々に席を立つ福助に、牽は不服そうに眉根を寄せる。

牽「なんだよ、もう……」
咲「じゃあな、早速交神をしてもらうぞ」
牽「え、えええ! は、早くないですか!?」
 
 立ち上がる咲也におののく牽。当主は腰の引けた彼の腕を強引に掴む。

牽「ちょ、ちょっとその、い、今から!? 心の準備とかないんですか!?」
咲「別にいらねえだろ」
牽「え、え、えーーっ!」
咲「死ぬわけじゃねえし、ピーピー文句言ってんなよ」
牽「いや、でも、こういうのってその、デリケートなー!」

 こうして、喚き散らしつつも引きずられてゆく牽であった。
 
 
 
 ~~
 


<交神の間>
 
 平然とした咲也、緊張しているらしい牽、ニコニコと笑うイツ花。三者三様の、交神の間である。
 口火を切ったのは、咲也。

咲「ただし、言っておくことがあるぞ、牽」
牽「ひ、ひゃい」
咲「相手はもう決まっている。お前は選ぶことができねえからな」
 
 そうはっきりと告げて――
 咲也は薄目で牽の様子を伺う。相当な反発を予想していたからだ。
 だが牽は。

牽「あ、うん、わかりました」
咲「……も、物分り良いな」
牽「え?」
咲「いや、別に文句がねえなら、いいんだが……」
 
 咲也が瑠璃に押し付けられたときは、あれほど言い争ったというのに。

牽「いや、だって、女神様だったらみんなすっごく可愛くて、素敵な女性ばっかりでしょ……そんな、選ぶだなんて、僕困っちゃうし……」
咲「……」
 
 でへへ、と笑う牽にどうしても視線が冷ややかにならざるをえない。
 前向きすぎる。
 イツ花は「まあ男の子ですからねェ」と微笑ましげだ。
 
咲「お前には自立心はねえのか……」
牽「いや、ちょっとなんで怒られそうになっているのかわかんないんだけど」
 
 気まずさを覚えて、牽は少しだけ真面目さを取り繕って、頬をかく。

牽「ほら、そ、それに、福助ができないのに、僕だけ『この女神様は嫌だから』って理由で断るのは、なんかちょっと違う気もするし……」
咲「……ふむ」
 
 それも恐らく、彼の本心のひとつであるのだろう。
 交神の話を進めることにした。

咲「お前の相手は『春野 鈴女』という女神だ」

 幻燈絵を開いて見せると、牽は息を呑んだようだ。
 鮮やかな緑色の髪を後ろでくくったうら若い女神だ。
 どうやらそのいたずらっぽい笑みが、牽の心を捉えたようで。

牽「い、いいじゃないですか……咲也兄さん……」
咲「……そうか。ちなみに、その女神を選んだ理由もいくつかあるンだが」
牽「ぼ、僕が今からこの人と……な、なんてこった……緊張しすぎる……」
 
 聞いちゃいない。
 嘆息する。

咲「まあいいか……じゃあ、イツ花さん、あとはお願いするよ」
イ「はァーい」
咲「じゃあまあ、頑張れよ、牽」
牽「えっ、あっ、は、はい!」
 
 その表情のなんて良い笑顔か。まるで五月晴れのようだ。
 
 
 
 ~~
 
 
 
 福助は縁側に座っていた。最近ではこの場所が定位置になりつつある。
 だがきょうはその手に術書はなく、先月取得してきたばかりの<白波>もまだ放置したままだ。
 ぼんやりとしていた。
 
福(僕と牽は、なにが違うんだろう……)
 
 薙刀士と剣士。経験の差はわずかに福助が上回っている。だが、牽には福助にないものを、確かに持っている。それがなにか、福助にはわからない。
 
福(僕には、なにが足りないんだ……?)
 
 人の親になるのなら、牽のほうが絶対に良いと思ったのだ。その判断は間違っていないと思う。
 だが、どうして自分がそう思ってしまったのだろう。その答えを福助は探せずにいた。
 
晴「なーんか、難しい顔してるなー」
 
 いつの間にか、目の前に晴海がやってきていた。先々月の怪我もようやく完治したばかりで、うーんと伸びをする彼女の髪には、葉っぱがついている。
 福助はあぐらの上に頬杖をかく。

福「……そう見える?」
晴「おう」
福「意外と鋭いんだね、晴海さんは」
晴「へへへ、悩んでいるなら、晴海が相談に乗ってもいいぜ?」
 
 笑顔で横に座ってくる晴海。片膝を立てたその姿はあまり少女らしくはないものの、妙に愛嬌があった。

福「……でも、僕にもよくわからないんだよね」
晴「おう?」
福「だから、相談することもできないんだよ」
晴「思い悩んでいるなー」
福「どうなんだろうねー……」
 
 心が沈み込んで、浮上してくる気配もない。こんな気持ちは初めてだった。
 晴海は勢い良く立ち上がる。

晴「よっし、そんなときにはいい手があるんだぜ!」
福「へえ」

 あまり信じていたわけではないが、福助は相槌を打つ。
 
晴「気分転換には、やっぱり風呂が一番だな!」
福「え?」
 
 
 
 ~~
 
 
 
福「……」
晴「おう? どうしたんだ、気持ちいいぜ?」
福「いや、あの……えっと……」
晴「早く入って来いよ」
福「どうしてこうなるんだ……?」
 
 晴海に誘われて、福助は浴室にまでやってきた。
 彼女はとっくに服を脱ぎ、もう肩までどっぷり浴槽に浸かっていたりする。
 
福「いや、あのね、晴海さん」
晴「おうー?」
福「晴海さんは僕と一緒に入るの、嫌じゃないの、かな」
晴「なんでだ?」
福「なんで、って……」
晴「いいだろ、たまには裸の付き合いってやつをさ」
 
 手招きする晴海から、福助は親愛の情を感じ取る。
 きっと彼女なりに、元気のない福助を励まそうとしてくれているのだろう。そんな好意を蹴り飛ばすのは、福助にはできなかった。
 立場的には、叔父と姪なのだ。なにもおかしなところは、ない。

福「わ、わかった、よ……」
 
 緊張しながらも、福助は浴槽に入る。
 もちろん晴海とは背中合わせだ。

晴「へへへ、いい湯加減だろ」
福「う、うん、まあ……」
晴「ふー、生き返るぜー」
福「……晴海さんは、お風呂が大好きだもんね」
晴「おう。暑いのは苦手なのに、湯はいい気分になるんだよなー」
 
 じゃぶじゃぶと顔をこする晴海。
 その触れ合う背中の滑らかさが、福助の血圧をあげてゆく。

福(さすがに、これは……危険かもしれない……)
晴「そういえば、牽は今ごろ、交神の儀をやっているんだよなー」
福「う、うん、そうだね」
晴「晴海もそのうちやるんだよな。一体どんなことするんだろ?」
福「ぶっ」
 
 思わず吹き出した。晴海が肩越しに振り返ってくる。

晴「おう?」
福「晴海さんはちょっと、その辺り子供すぎると思う……」
晴「な、なに言っているんだぜ、晴海はもう5ヶ月才だから――」
福「だ、だから振り向いてきちゃだめだって」
 
 逃げるように縮こまる福助の背中に、晴海は後ろから抱きついてくる。むにゅっとした感触を楽しむ余裕などまったくない。
 
福「む、胸が当たっているから……」
晴「? それがどうかしたか?」
福「大問題なんだよね……」
 
 咲也の教育は完全に間違っていると、福助は確信する。
 
福(兄さん、おたくの娘さん無防備すぎますよ……!)

 今ここで福助にあらぬ気が起きたら、晴海はかなり危ないことになってしまうだろう。
 もちろん、今危ないのは、福助のほうであるが。
 内心はかなりドキドキだ。牽ではないが、このままでは好きになってしまうやもしれぬ。

福「今度、晴海さんには男女の役割などの違いを、詳しく教えないといけないよね……」
晴「お、おう?」

 戸惑いの声を返してくる晴海に、人知れずうなずく福助。

福(少なくとも、牽がなにかやらかす前に……)
 
 その心配も、どこか明後日の方向を向いているようであった。
 
 
 
 ~~
 
 
 
晴「ふー、さっぱりしたぜー」

 開いた戸をくぐり風に当たる晴海。
 彼女に続いて浴室から出る福助は、もう顔が真っ赤だ。

福「僕はのぼせる寸前だよ……」

 だがそのおかげで、先ほどの悩みなどというのは、どこかに吹っ飛んでしまったようだ。
 目を瞑れば、晴海の美しい裸体が生々しく浮かんでしまって……

福「……うっわ、これは、危険かも……」
咲「そうか」
福「……」
咲「……」
 
 浴室へと続く戸の横に、咲也が立っていた。
 肩を掴まれる。
 
咲「……福助」
 
 その声色に、思わず死を覚悟してしまう。

福「……はい……」
 
 たったった、と晴海は咲也に気づかずに走り去っていってしまう。
 その後ろ姿を見送ってから、二代目当主がつぶやく。

咲「ずいぶんと、俺の娘と仲が良いようだな」
福「……いえ、そんな……めっそうも、ない……」
咲「どれ、牽が交神をしていて、お前も暇だろう。俺が久しぶりに稽古をつけてやろうじゃねえか」
福「……いや、でも、汗を流したばかりなので……」
咲「あァ?」
福「……お相手します……」
 
 首根っこを掴まれて、福助もまた引きずられてゆく。
 
福(……ああ、きっと今度はこれで、僕の記憶が上書きされちゃうんだろうな……)
 
 幸せの代償だ。悲しみに暮れながら、そんなことを思う。


 実際、その通りにもなった。
 
 
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# by RuLushi | 2012-01-29 00:09 | 二代目当主・咲也
1018年9月-1019年3月 SS集
 

荒神橋一族SS集2
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# by RuLushi | 2012-01-27 10:35 | 荒神橋一族SS集
1019年4月後編
  
 瑠璃の死の前後で、大きく変わったことがふたつあった。

 夕食時、二代目当主として瑠璃の名を引き継いだ咲也は、言った。

咲「そうだ、先に言っておくぞ野郎ども」
牽「野郎ども、って……過激な……」
咲「明日出陣すっからな、準備しておけよ」
 
 おかしなことに、瑠璃が亡くなって以来、咲也の口調が砕けたものになっていた。どんな心境の変化かはわからないが、男臭さが増したように思える。
 それに加えて、頼りがいも。

 晴海が「やりぃ」と声をあげた。もちろん着物は正しく着ている。

晴「よっし、どんなやつでも晴海が蹴散らしてやるぜ!」
 
 牽と福助が同時に「いやいや」とつぶやく。

牽「だめでしょ、晴海ちゃん……大怪我しているんだから……」
福「まだ健康度が全然戻ってないよ」
晴「おう? そんなの関係あるか?」
牽&福『ないわけないから』
晴「ぬぇ……」
 
 箸をくわえて言葉を失う晴海。
 
咲「野郎ども、っつったろ。晴海は留守番だ」
晴「で、でも……」
咲「あンな。先月、春の選考試合にお前を出したのは、特別だからな」
晴「トクベツ?」
咲「あんなに無茶なことは、そうそうさせねえよ。命がもったいねえゼ」
 
 その言葉に、なぜだか牽と福助がだらだらと汗を流し出す。

 先月に行われた春の選考試合。荒神橋一族の戦果は、なんと“優勝”であった。それ自体は瑠璃の目論見通りであったものの、晴海は案の定、初戦で戦闘不能状態に追い込まれてしまったのだ。
 その後はずっと後衛で防御を続けていた晴海。戦嫌いになっても仕方ないような展開だったが、次期当主は心も丈夫であるようだ。

 むしろ気にしているのは、少女を守りきれなかった牽と福助のほうである。
 
咲「お前は当初の計画通り、6ヶ月才になるまで戦場には行かせねえからな」
晴「な、長いぜ!」
 
 晴海が悲鳴じみた声をあげる。
 晴海はまだ、4ヶ月才。現在7ヶ月才の福助など、6ヶ月才になるまで五度も出陣している。

晴「……晴海だって、もう戦えるのに……」
咲「……」

 晴海はやはり不服そうに口を尖らせる。物分りの良い彼女が不満を表に出すのは、滅多にないことだったが、咲也は意に介さない。
 瑠璃の死をきっかけに、晴海も変わった。
 やはり、“自分もなにかをしなければ”という焦りがあるのだろう。
 
咲「無用だ」
晴「……っ」
 
 切って捨てる咲也に、晴海は目を見張る。
 だが今度は咲也が睨み返す番だった。なにかを言いたそうにする晴海の上目遣いを、当主は視線で押し返す。

咲「お前の全盛期は、今年の11月だ。だから心配すんな。それまでには、必ず仕上げてみせっからな。それが俺と初代瑠璃の役目なんだ」
晴「……父ちゃん」
咲「暇なんだったら、呪いが解けたときのためにでも、イツ花さんに家事のひとつでも習ってろ」
イ「あーらあら」
 
 イツ花が口元に手を当てて笑うと晴海は顔を赤くした。

晴「は、晴海だって、やろうと思えばそんなの簡単に……」
咲「だってよ、イツ花さん。ちょいと揉んでやってくれてもいいゼ」
イ「あはは、楽しみですねェ」
晴「ぬぇぇ……」
 
 笑い合う親子。
 羨ましそうな顔をしてないだろうか、と心配になった福助は自分の頬をこすってみる。
 と、福助は気づいた。
 
福(もしかしたら晴海さんが暑さが苦手なのも、十分に寒くなる大江山登頂の時期に万全の調子で挑めるように……だなんて……?)

 まさか、そこまで考えているわけではないだろう。


 かくして、咲也は告げる。

咲「牽、福助。明日は相翼院だ。決して出遅れることのないようにな」
牽「う、うん」
福「……はい」
 
 二代目当主咲也。
 さすがは、1才4ヶ月才の貫禄である。
 
 
 
 ~~



<相翼院>
 
 稲荷ノ狐次郎を撃破して以来、三人の男たちはひとつの壁を越えたようだった。

 炎ふたつ分を使い、ようやくたどり着いた天女の小宮。
 咲也は愛用の薙刀についた血を拭いながら、毒づく。

咲「もう燃え髪大将どもじゃ、歯ごたえがねえな」
牽「そうだね!」
福「……い、いや、でも、それくらいの相手と戦ったほうが、安心なんじゃないかな」

 二対一、福助の意見は聞き入れられない。
 咲也が左腕を振ると、中指の指輪がぼんやりと赤く光る。

咲「……ふむ」
 
 双子が鬼たちから戦利品を奪い取っている間に、咲也は目途を定めたらしい。
 
咲「んじゃあ、奥に行くか」
牽「そうこなくっちゃ!」
福「えぇー……」
 
 最近、牽がめっきり腕をあげてきたため、以前よりも怖じ気づかなくなってきたのだ。
 きっと本人はもう己を、『咲也の右腕!』とでも思っているのだろう。それが福助には、いつかトンデモない失態をやらかすのではないか、と気が気でない。

 一同は天女の小宮の先、奥の院へと足を踏み入れる。
 薄暗い中に、ろうそくの明かりが揺れている通路だ。
 
福「不気味だ……」
牽「ば、ばっかだな福助はハハハ。ぜっ、ぜんぜんこんなの、へ、へっちゃらだよ!」
福「……あ、敵影」
牽「ヒッ」
福「と思ったら、僕の影が壁に写っているだけだったね……どうしたの、うずくまっちゃって、牽」
牽「いやあちょっとなんか一瞬お腹が痛くなるような気がしたんだよね」
福「そのカンは異常だろ」
咲「まあ、あっちからは襲ってこねえよ」
牽&福『え?』
 
 咲也は小さな金属を手のひらの上に乗せて、差し出してきた。
 文様の描かれた銅印である。赤く揺らめきながら発光をしている。

咲「『結界印』さ。こいつを使っている最中は、鬼どもは俺たちから逃げ回っているんだよ」
牽「なんて便利な……」
福「……で、そこを後ろからズブリ、ですか」
牽「なんて姑息な!」
咲「わかってんじゃねえか、福助」
牽「ええっ」
 
 咲也は口の端を釣り上げて、銅印を握り締める。

咲「戦いにおいて大切なことは、何よりも先手を取ることだ。覚えておけよ。どんな手を使ってでも、先手を取れ。それが値千金だ」

 彼が後ろ指で差した先には、惑う巨鬼――悪羅大将。
 一同は強敵に挑みかかる。



 
 その後、三人は一ヶ月間を奥の院で過ごす。
 彼らは4000の奉納点を稼ぐほどに戦い抜き、傷だらけになりながらも大怪我を負うことなく、無事に帰還したのであった。
 
 
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# by RuLushi | 2012-01-26 23:14 | 二代目当主・咲也