ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年9月中編
 
 34。足りない。
 
 夜更け。出陣前夜の自室である。
 晴海の“目”に見えているものは、螺旋状に絡まり合う四色の糸だ。
 赤青緑黄。
 鏡の中から睨み返してくる勝ち気そうな顔をした少女の背に、四光が陽炎のように浮かび上がっている。晴海はその正体を知っていた。
 それは晴海という人間の全てだ。筋力。知能。才能。そして、限界。あがこうとも、決して越えることのできない定めを表すものだ。
 当主の指輪を身に着けた晴海は、“数値化された己自身”というものを見ることができるようになっていた。なってしまっていたのだ。
 
晴「……父ちゃん、こんなことは一言も教えてくれなかったのにな……」
 
 今思えば、父や祖母には全てが見えていたのだと気づくこともあった。だが、それを尋ねられるべき人は、ここにはもういない。
 
晴「どうりで、うまくいかないはずだぜ……」
 
 晴海は胸の前に持ち上げた拳を何度も開き、繰り返し握り締める。

晴「“技の水”……それが、34足りないから、か……」
 
 努力ではどうにもならなかったのだ。

 
 古い神が作り人間に与えたものはふたつある、とされている。
 ひとつは『火』であり、それは人を人たらしめるためのものだ。人は火なくしては生きていくことができず、心の灯火が消え果てたものはいずれ鬼と化す。
 そしてもうひとつが『術』だ。

 術は什であり、呪であり、恤である。あるものは「人と獣をわけるための力が術だ」と言う。また誰かは「神が己に似せて人を作ったがために、そこに呪が生まれてしまった」と語る。「あまりにも弱く、脆い人間をあわれんだがため、『術/恤』を授けたのだ」と述べる男もいた。
 どれが真相かはわからない。だが少なくとも、人は生まれ持った才能により、術を扱うことのできる人間と、できない人間によって分けられていた。今の晴海には、その理由がはっきりとわかった。
 全ては血脈だったのだ。
 生まれながらに、人は定められていた。凡人。才人。天才。木偶。それらを隔てるものこそが、晴海の目に映る四色の螺旋形だ。
 
晴「能力の足りないものには、絶対に理解できない……踏み越えることのできない、最後の一線……そういうことだったんだ……」
 
 能力値――技。
 それは今の晴海の技量を数値化したものだった。洞察力。理解力。表現力。実行力。知性。加護。術に関するあらゆる素質を束ねて表したものだ。
 
晴「それが足りないってことは、つまり……今の晴海には、どうあがいても<円子>は使えないってことじゃないか……」
 
 あまりにも残酷だが、それが事実だ。
 悔しい。父や祖母が自分をそのときのために育ててくれたというのに、自分は期待に応えることができないでいるのだ。
 その“報い”は、二ヶ月後にやってくるのかもしれない。
 
 部屋でひとり。ひとりになった部屋で、晴海は思い煩っていた。

晴「……多分、あと三回か四回、成長することができたら、34は埋まると思う……その、多分だけど……」

 鏡の中の自分は、苦い顔をしていた。目を背けて、右手にはめた指輪を口元に添える。
 
晴「今月と来月、二ヶ月相翼院にこもって、悪羅大将を倒し続けたら……」
 
 しかし、晴海はもう9ヶ月才だ。もし来年のための布石とするのであれば、今のうちに交神の儀を執り行ったほうが良い。
 今月交神の儀を行ない、来月に出陣して真琴の修練とする。それならばどうだ。たった一ヶ月で<円子>を覚えるのは、至難の業だろうが。
 
晴「……どうすりゃいいんだろうな……」
 
 晴海は布団の上に座り直す。あぐらをかいて目を瞑る。尋ねたところで、答えてくれる人はどこにもいない。もういない。
 どちらも最善手のようで、どちらも大きな過ちである。そんな気がした。
 
 しばらくの間、晴海は瞑目し続けた。
 そして――目を開く。

晴「……最後の一瞬まで、ひたむきに。結局、そうするっきゃないんだよな、父ちゃん。短い人生なんだからさ」
 
 晴海の腹は決まった。
 






<出陣>


真「いたらないところも多々あると思いますが、どうぞよろしくお願いしまーす」
福「……真琴さん、ちゃんとした挨拶とか、できるんだな」
真「なんですかそれ。あんまりウチを見くびらないでくださいよ、福助サン。どれだけ、どれだけ当主サンにしごかれたと、し、しごかれたと思うんですかぁ……!」
福「わ、わかったわかった、僕が悪かったから……泣くな、泣かないでくれ……」

 そういうわけで、幼き真琴の初陣である。
 屋敷の前に立ち、真新しい小袖を着た真琴は、自分の身の丈ほどもある弓を提げていた。その出で立ちはまるで、熊狩りの武士に同行する道楽者の娘のようだ。

牽「弓使いかあ。肩を並べて戦うのは初めてだなあ」
福「相手の爪の届かないところから、一方的に攻撃ができるんだ。間違いなく戦の要となるだろうね」
牽「ははは、なんで僕たち、近接武器なんてやっているんだろうね」
福「今月牽の身になにかあったら、ついでに瑠璃さんに聞いてきてくれ」
牽「ははは、それ僕に死ねってことかな、死ねってことかな」
 
 睨み合う牽と福助。後頭部に手を当ててそのやり取りを暇そうに眺める真琴。
 少し遅れて、晴海が屋敷の中から追いついてくる。
 
晴「ごめんごめん、道具袋の選別に時間かかっちまってさ」
福「だから、僕が手伝うって」
 
 晴海は片手を挙げて、福助の言葉を制した。

晴「ありがとうな、でも当主になってから初めての出陣だから、自分でやりたくて、さ」
福「……それなら、まあ」

 福助は釈然としない顔のままで、うなずく。
 牽はあっけらかんと「晴海ちゃんは偉いなー」などと笑っていたりする。
 爪を見ていた真琴が、上目遣いにつぶやく。

真「当主サンも来たことですし、ホラホラ、行きましょう。帰りが遅くなっちゃいます」
牽「しっかし、真琴お前、初めての出陣だってのに緊張とかビビってたりしないのか? どれだけ肝据わってるんだよ」
真「えー、別にそういうわけじゃないですけど」
 
 真琴は討伐部隊の面々を順番に観察する。
 晴海は思いつめたような顔をしており、そばに立つ福助もそのせいでいつもより眉の間にしわを作っていた。牽も平静を装っているが、やはり自分のことが心配のようだ。
 アホらし、と。口には出さないがそう思う。

真「練習通り、普段通りやりますよ。練習以上のことはできませんし、それでいいじゃないですか?」
牽「最初からそれができるなら、苦労はしないんだけどな」

 真琴は苦笑いする父の言葉を聞き流し、小さく伸びをする。

 真琴が母――春野鈴女から教わったこと、そのいち。
『分相応であれ』
 できることはする。できないことはできない。それだけがわかっていればいいのだ。
 


イ「荒神橋一族の皆様、いってらっしゃいませェ~!」
 
 イツ花の見送りの声が、大きく響いた。
 
 



<相翼院>

 
 そつがない。
 初陣の真琴の評価を下すとしたら、その一言だ。
 機会を待ち、矢は外さず、瞳は淡々とし、肩から力が抜けている。
 
<速瀬>にて敵陣に突入した後、一同は矢継ぎ早に鬼と切り結んでいた。
 一ヶ月という期間を一瞬たりとも無駄にはしない。そういった覚悟が三代目当主からは伝わってきていた。
 
 晴海と牽、それに福助は次から次へと悪羅大将を葬り続けている。
 三人の息のあったコンビネーションはさすがであり、白骨城の黒スズ大将を狩り尽くした腕前はさらに切れ味を増していた。
 
真(これ、ウチ来なくても良かったんじゃないですか?)

 そんなことすら思ってしまう。
 思いとは裏腹に、真琴はみるみるうちにその実力を伸ばしてゆく。第三世代。彼女は晴海をも越える素質の持ち主である。本人の望む望まないに関わらず。
 
 真琴が戦場に来てから、その印象が変わったのは晴海だった。
 屋敷見ていた彼女は、暇があれば生真面目に鍛錬か勉学か、あるいは木陰や縁側で眠っているといういささか頼りないものだった。父や叔父の想われ人ということもあり、どうせきゃーきゃーと喚いてかばわれるのがオチだろうと真琴は思っていた。
 ところが戦いを始めた晴海は獰猛で、水を得た魚のように鬼たちを殴り倒してゆくのだ。
 そこに女らしさは微塵も感じられない。

真(やばいですねー、あの姿……あんなに裾をめくりあげて、あーあー、はしたないです……どっちが鬼かわかったもんじゃないですよ)
 
 正直、同性としては引いてしまう。さすがはあの咲也の娘、といったところか。

 
 
 一方、その晴海。
 彼女は焦っていた。
 
晴「くっ、まだまだ足りないのかよ……」
 
 白骨城に二ヶ月篭って戦い抜いてきたのだ。一ヶ月そこらで簡単に何度も成長できるはずもない。
 晴海には成長限界が近づいていたのだ。それはかつて瑠璃が体験したものと同じである。瑠璃の名を受け継いだ少女がまた、こうして苦しんでいる。血とは残酷なものだ。

 戦そのものは順調であった。牽と福助は盛りの1才。瑠璃は9ヶ月才。さすが瑠璃が計画を立てて、11月にピークを持ってきただけのことはある。2ヶ月才の真琴を除き、心身ともに充実している。

 いかずちの術を使い、悪羅大将とその配下を倒し続けること、数刻。
 
 ようやく、一度目の成長が訪れる。
 が――
 
 たったの1。
 技の水はそれしかあがらなかった。

晴(ふざけ――)
 
 視界が真っ赤に染まる。怒りか悔しさか憤りか、誰に向けることもできない感情が胸のうちで爆発しそうになる。
 大江山征伐に二ヶ月かけるために、11月までに必ず晴海は<円子>を覚えなければいけないというのに。
 そしてできることならこの一ヶ月で算段をつけ、来月は九重楼に行き、<くらら>と<お地母>を奪取したいのだ。
 何よりも、時間こそが足りない。
 相翼院、奥の院を晴海は更に奥へと向かう。
 
牽「晴海ちゃん?」
 
 牽の疑問に、晴海は振り返らずに告げた。
 
晴「……この迷宮の主を、討伐する」

 その声ににじむ焦燥感を、双子は感じ取っていた。だからか、なにも言わずに晴海の後を付き従う。


真「えっ?」
 
 そんな話は聞いてないですけど! と真琴が聞きとがめた。
 
 
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# by RuLushi | 2012-07-18 07:01 | 三代目当主・晴海
1019年9月前編
 
 暦は秋に変わりつつも、残暑の厳しい道場である。
 身軽な戦着をまとう晴海は、胸の前に手を合わせ、術技を唱えていた。
 
晴「……~~……」
 
 小さな口から紡がれる朗々とした旋律は、道場の中を巡る。
 青い光の粒は、彼女の肌や髪からこぼれ落ち、晴海の姿を深海の水霊のように浮かび上がらせる。
 眉間にしわを寄せる晴海。彼女がこめかみから汗を流した直後である。すぐに微光はかき消えた。
 
晴「……ぷふぁ」
 
 水面に顔を出したかのように空気を求めてあえぐ。息苦しさと不快感から、晴海は額の汗を拭う。

晴「まだ、足りないか……」
 
 顔の前まで右手を掲げる。その人差し指には、当主の名の形。遺襲した指輪。三代目の証明。各種属性の技の力を強化する秘宝。
 だが、指輪あってもまだ届かない。

晴「……暑い、暑いぜ……」

 
 晴海は熱気の篭る道場の戸を開く。
 射しこむ陽光眩しい晴天。
 太陽は頂点に達しており、晴海は日差しを手のひらで遮る。
 
晴「ぬえー……きょうも、いい天気だなあ」
 
 こんな日は木陰で居眠りをするのが、気持ちいいに違いないのに。
 皮肉げにつぶやけば、どこからか声がする。
 
福「おーい! ……あ、晴海さん!」
晴「福? どうしたんだ、血相変えて」
福「牽のやつを見なかったか?」
晴「いいや、きょうはずっと道場に篭っていたからな、見てないぜ」
福「そうか……ったく、あいつまたふらふらとどこかに消えやがって、大体こっちにだって予定があるんだから、なにも言わずに出かけるなってあれほど……」
 
 腕組みをして愚痴る福助に、晴海が笑いかける。

晴「そうしていると、父ちゃんみたいだな、福」
福「やめてくれ……」
晴「なんでだよ、かっこいいぜ?」
福「荷が重い」
 
 風に当たって笑う晴海に、福助は大きなため息。
 
福「とにかく、牽が見つかったら教えてくれよな。きょうこそ叱ってやらないと……まったく、僕にだけ真琴さんを預けて……」
真「まあまあ、いいじゃないですかあ。福助サン、教え方も上手ですし」
福「うお」
 
 突如として脇から現れた真琴に、驚いて身を引く福助。
 晴海が見たことのないような笑顔をしている。
 真琴は猫のように軽やかな所作で、福助の腕を取る。
 
真「それに、当主サンに比べたら、やばいですよ。なんて優しいこと優しいこと……」
福「そうか、咲也兄さんはもっと厳しかったのか。それはいいことを聞いた」
真「な、なーんちゃってー!」
福「よし、それなら思う存分叩きこむことにしようか」
真「は、晴海サン、ちょっとなんか言ってくれませんか!」
晴「は、はは、がんばってくれよな、真琴ちゃん……」
真「あの悪夢を繰り返す日々は嫌ですからー!」
 
 叫びながら引っ張られてゆく真琴。
 晴海は彼女に乾いた笑みで手を振る。


 咲也が亡くなったものの、福助も真琴も変わりがない。
 不思議なものだ。心の臓にぽっかりと穴の空いたような気持ちすら、数日で消え去ってしまったのだから。
 晴海はひとりになり、胸に手を当てた。自分はどうだろう。以前となにか違いが出ただろうか。
 少しは責任感が生まれた、と思う。それ以外は、特に思いつかない。

晴「……それにしても、牽はどこに行ったのかな」
 
 その場にぼんやりと立ち止まりながら塀を眺めていると、ガサガサと木の葉が降ってきた。目を凝らす。人影だ。それも顔馴染みの。

牽「お、晴海ちゃん、どしたのこんなところで」
晴「……お、おう」
 
 頭に猫を乗せた牽が、塀の上にしゃがんでこちらに首をひねっていた。
 
 

 ~~



<夕食事時>
 
牽「というわけでね、迷い猫探しを手伝ってきたんだよね」
 
 からからと笑いながらご飯を頬張る牽に、冷たい視線が突き刺さる。

牽「これって意外と僕の特技かもしれないんだよねー。パッと見つけられるんだよ僕、すごくない? でさ、迷い猫なんてお腹が減ったら帰ってくるでしょ、って思ってたけどそうでもないらしくてさ、しかも今って京の都が結構物騒になっているから、心配してたらしくって」
福「……それは誰の話だよ」
牽「近所の家の人だよ。ねえ、イツ花さん」
イ「ええ、とっても助かっていたみたいですねェ」
 
 牽の付き出した茶碗を受け取って、米びつからご飯をよそうイツ花。
 ふたりのニコニコとしたやり取りに、苛立ちを募らせるのは福助だ。
 
福「そんなことをして何になるというんだ……」
牽「だって生皮剥がされちゃったり、下手したら食べられちゃうかもしれないんだよ。それってかわいそうじゃない?」
福「僕らが負けたら、猫どころか都の人間がそうなる」
牽「それはまあ、なんとかなるでしょ。今はとりあえず、生きている人たちの幸せを願ってさ」

 牽が笑い、福助が顔をしかめてご飯をかきこむ。
 そのふたりを諌めるのが、新当主たる晴海。

晴「まあまあほらほら、ふたりとも間違っているわけじゃないんだからな、そこまでそこまで」
福「……」
牽「ははは」
 
 福助は不満そうに黙りこみ、牽はまるで気にせず頭をかく。
 これも見慣れた光景であったが、きょうはそこに真琴が首を突っ込んだ。

真「いいや、父サンは間違ってます」
牽「ええっ?」

 一同が見れば、真琴はしたり顔で箸を動かしながらうなずいている。

真「人とけもの、どちらが大事かなどは火を見るより明らかです。それだというのに、ぶらぶらと外を歩き回って良い気になるなんて、器が知れてますね。やばいですよ」
晴「真琴ちゃんは、辛辣だな……」
 
 晴海が唸るも、真琴の口撃は止まない。

真「大体、迷い猫を見つけたところで、またすぐパッといなくなっちゃうに違いないですよ。そのたびに探しに行くんですか? 無駄ですよ、ねえ福助サン」
福「……そう、だな」
真「ですよ父サン! わかってるんですか!」
 
 と、勢いづいたところで、なにかが鳴いた。
 にゃー、と。
 
真「……?」
牽「あれ、庭からかな? なんで来ちゃったんだろ」
 
 牽が立ち上がり庭を向く。晴海も彼についてゆく。

晴「さっきの猫ちゃんか?」
牽「みたいだね。お礼でも言いに来てくれたのかな」
真「あ、晴海サン、父サン、お食事中ですよ……」
 
 その後に続いて、真琴が牽たちを追いかけてゆく。
 戸を開けて、庭を見たその時だった。


 「キャー!」

 
 黄色い歓声があがった。晴海と牽は同時に振り向く。
 なんてことのない、すまし顔で真琴が立っている。しかしその頬はわずかに赤い。
 
牽「今、真琴……」
真「え、なんですか? 何のことですか、何の話ですか」
晴「……叫んだ、よな?」
真「ふたりとも何を言っているんですか? ウチわかりません。やばいですよ、年ですか?」
 
 小さな三毛猫は、手持ち無沙汰のように前足を嘗めている。
 牽が抱き上げようとすると、逃げる素振りもなくそれに従った。

牽「ほら、真琴」
真「う、うっわー! なにこれやばい! まじやばいわ! かわいすぎ! なんなのこれ、やばいんだけど! やばーい! ちょーやばい! やばすぎってかんじ! かわいー!」
牽「ま、真琴……?」
真「ハッ」
 
 我に返った真琴は、瞬きを繰り返す。牽と晴海と真琴がそれぞれまったく同じ、面食らったような表情をしていた。
 
晴「猫……好き、なんだな。可愛いところもあるじゃないか」
真「え、いや、違いますし?」
牽「ほら」
真「……」
 
 牽が猫を近づけると、真琴はふらふらと指を伸ばしてくる。
 柔らかいその毛に触れた瞬間、まるで電撃を浴びたように真琴が震える。

真「ひょわああああああ!」
晴「な、なに!?」
真「柔らかくないですか!? やばい!」
牽「そ、そりゃまだ小さい猫だからね」
真「た、たまりませんですねえ!」
 
 息を荒らげた真琴が、猫を撫でくりまわす。嫌そうに顔を背けながらも居心地が良いのか、猫は牽の腕の中から跳び出そうとはしない。
 真琴はもう恍惚の表情だ。

真「やばいですねこれ、やばいですね、いやあやばいですね、すごいやばいです、くー、やばいです!」
牽「キミ、語彙少ないなー……」
晴「これがいまどきの若い子か……」
福「……元気でいいことじゃないか」

 やばいやばいと連呼する真琴はもう、他の人の目も気にしていないようだ。
 牽は真琴に猫を預けて、屋敷の中に戻る。晴海もそれに続いた。

イ「ふたりとも、ちゃんとまた手を洗ってくるんですよォ」
牽&晴「はーい」

 後ろから真琴の奇声が響いてくるのを聞きながら、牽と晴海は若者との間に言いようのない溝のようなものを感じてしまっていたのだった。
  
 
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# by RuLushi | 2012-02-24 00:23 | 三代目当主・晴海
1019年8月後編
<荒神橋家> 
 
 
真「……あ、の、当主サン……」

 荒神橋一族の屋敷には、板張りの道場がある。
 渡り廊下で繋がれた道場は、五十名以上の武士が乱取りをしてもまだ足りるであろう広さを誇っていた。かつての当主・源太が私財の全てを投げ売って建てたものだと言う。
 その道場で、真琴が壁にもたれかかり、荒い息をついていた。
 少女の前には、黙々と弓の弦の張りを調整している咲也がいる。

咲「どうかしたか?」
真「あ、いや……」
 
 ぎろりと睨まれたような気がして、真琴は思わず口をつぐんだ。
 
真(……チョット、厳しすぎや、しませんか?)
 
 なんといっても、朝昼晩と問わずに付きっきりだ。食事中ですら見張られているような気さえして、自由になれるのは眠るときと湯船に浸かっているときのみ。
 この屋敷ではこれが普通なのだろうか、と真琴は唸らざるをえない。
 
真(やばいです……ストレスで死んでしまいます……)
 
 咲也が良いとか悪いとかではない。このままでは、真琴の精神力がもたない。
 
真(違うんです、ウチは……もっと、こう、自由にやらせてもらったほうが、結果的にいい感じになると思うんですよね……)
 
 射法、姿勢、視線に心構えまで、なにからなにまで叩きこまれている最中だ。
 自分という存在が明らかに作り替えられてゆくのを感じて、辟易。
 
真「当主サンは、もうちょっとウチを信じてくれてもいいですよ……やるときはやりますから……」
咲「かもしれねえな」
 
 咲也が作った巻藁の的には、十数本の矢が刺さっている。そのどれもが、中心線を貫いていた。
 
咲「この二ヶ月で、かなり上達したな」
真「で、ですよねー? やばくないですか? ウチ、やばくないですか?」
咲「そいつはな、認めてやってもいいゼ」
真「わ、わーい」
 
 真琴は疲労感を顔ににじませながらバンザイをする。その彼女に、咲也は弓を差し出す。

咲「だからって、やることに微塵も変わりはねえけどな。ほれ、あと二百本だ」
真「え、ええええ……」
 
 力の抜けた腕を伸ばして、和弓を受け取る。
 
真「ひどいです……鬼です、鬼……当主サン、ぬか喜びさせるだけさせておいて突き落とすなんて、とてもじゃないけどやばいです、人面獣心です……」
咲「口が悪ぃな、お前は……」
真「そ、それは当主サンだって一緒です! も、もっともっとウチに優しくしてくれてもいいと思いませんか! こんなんじゃウチの頭がやばくなります!」

 腰に手を当ててため息をつく咲也。
 不満の爆発した真琴を見て、それでもなぜか、嬉しそうである。

咲「ギャーギャーわめくガキだなおい」
真「当たり前です! ウチはウチの権利を主張します! 断固戦います!」

 手足をじたばたとさせる真琴に、咲也はにやりと笑う。

咲「フン、いいじゃねえか。最近ずっと、歯向かってくるやつがいなくて退屈していたんだ。どうしても嫌なら、家出したっていいゼ。絶対に捕まえてみせるからな」
真「う、うぇえぇぇぇ」
 
 それがどうやら本気だと見て、真琴は心の底から嫌そうな顔をした。どうせ真琴に逃げ出す気がないことも知っているのだろう。
 だが、逃亡したとして、それはそれで嬉しそうに追い詰めてくる姿も容易に想像できて……

真「うううう、こ、この! 鬼! 悪魔! ドS! 極悪当主サン! うう、鬼畜! 鬼畜! 鬼畜ー!」
咲「そんだけ元気があればまだまだ射れるな。ほら、続きやっぞ」
真「うわーん!」

 まだまだ達者な咲也に手玉に取られ、真琴の泣き声が夏の屋敷に響き渡るのであった。



 ~~
 
 
 
<白骨城>


 生き物の骨で作られた迷宮は、先に進めば進むほど複雑な作りをしていた。いくつもの枝分かれした道を迷い、時には宝物庫へと足を踏み入れながらも、三人はついにたどり着く。

 英霊の間。

 蒸す熱気の中で寒気に襲われるのは、とても奇妙な感覚だった。それは非常に似ているが、正確には“邪気”と呼ばれる気配だったのだ。
 近づくことがためらわれて、三人は立ち止まった。

牽「足、手と来たから、次は頭だろうと思っていたけど……」
福「……人、か?」
 
 晴海がぎゅっと自分の身体を抱く。

 三人の前には、坊主の袈裟をまとった骸骨が座していた。
 あれこそが大江ノ捨丸。白骨城の最奥に潜む亡者の成れの果て。
 
 大江ノ捨丸はケタケタと口蓋骨を鳴らす。
 
大江「おまえたちは、まだ痛みを、感じるんだろ? ケケケっ……うらやましいな」
 
 この世のあらゆる邪悪を内包したような声に、思わず耳を塞ぎたくなってしまいたくなる。晴海は腹に力を込めた。

晴(父ちゃんは、鬼たちはわけのわからないことを囁いてくるから、一切耳を傾けるなって言っていた。……つまり、こういうことかよ)
 
大江「これから俺たちの分まで、たっぷり味合わせてやるから、痛い、痛いって、のたうちまわって、見せてくれ」

 大江ノ捨丸は穴ぼこのような目で、こちらをねっとりと見回す。
 肌にまとわりつく焦熱が勢いを増したように思えた。
 
大江「忘れちまったんだ、生きている頃の感じを……俺たちにも 思い出させてくれよォ!」
 
 その叫びを合図に、大江ノ捨丸は正体を現してゆく。
 山のように巨大な鬼の頭骨と、その左右に生えた人骨疽とでもいうような面。計三匹の化物、それこそが鬼人の本性である。

牽「負けるかよ……」
福「……絶対に、帰るんだからな」
 
 牽が前、福助と晴海が後列。それぞれ構えを取る。

晴「父ちゃん……晴海は、やるぜ……!」

 胸の前で手甲を打ちつけると、耳心地良い金属音が広間に響く。
 1019年で最も暑い夏の日の、一戦が今始まる。
 


 三つの頭はそれぞれがまったく違う行動を取る。
 左の頭骨が呪力を溜めたと思いきや、中央の一番大きな骸骨が口を開き、そこから骨の嵐を見舞ってきたのだ。
 
牽「げげ!」
 
 最前列、どんな打撃にも耐えてみせると気を張っていた牽は、顔面をかばう。

牽「くっそう、逃げ場もない全体攻撃をしてくるんだったら、意味ないじゃないか!」
 
 叫びながら、素早く印を結ぶ。

牽「まずはものの試しだ……! <白波>の一倍撃、受けてみろ!」
 
 抜き放った刀とともに、まるで衝撃波のように水流が吹き出す。牽の<白波>は40のダメージを与えていた。
 
福「六倍でも240だったら、どうしても威力不足だね……というわけで」
 
 福助は一枚の呪符を掲げた。手の中で、符は泡となって溶けて消えてゆく。、
 
福「どうせ長期戦になるんだろう? 辛いことは長く続く。わかっているんだよ……だから、鬼毒!」
 
 三匹のうち二匹でも毒にかかってくれれば儲けものだったが、さすがに抵抗値も高いようだ。鬼毒の符は、中央の大江ノ捨丸のみを害した。
 続く晴海。むき出しになった手足は、先ほどの骨の嵐で傷だらけだ。それでも牽に習う。

晴「じゃあ晴海も……いくぜ、<怒槌丸>!」
 
 青い閃光が瞬く間に大江ノ捨丸を包み込んだ。その威力は全員に50弱。<白波>をわずかに上回った。
 
牽「これなら!」
 
 拳を握り締める牽。彼に、先ほど力を貯めていた左の頭骨が体当たりを仕掛けてきた。

福「牽!」
 
 思わず叫ぶ福助。
 だが牽は地面をしっかりと踏み締め、その一撃を刀で受け止めていた。

牽「心配性なのはわかるけど、甘く見ないでよ、福助」
 
 にやりとしたその顔が、直後にこわばる。
 大江ノ捨丸中が、やはり骨の嵐を放ってきたのだ。鋭利な短刀のように尖った骨に包まれて、一瞬視界が失われてしまう。全身が灼かれたように熱い。

牽「うっぇ……これ、キツ……」
 
 牽はゆっくりと骨まみれの地面に膝をつこうとして……
 その身体を晴海が抱き留めた。

晴「牽、まだ始まったばかりだ。寝るには早いぜ」
 
 晴海の手から注がれる甘い香りが、牽の意識を覚醒へと導いてゆく。<お雫>だ。

牽「わ、わかっているよ、晴海ちゃん……あ、ありがとう」
晴「どうってことないぜ」
 
 こんな死闘の最中にあっても、晴海は気丈に笑う。
 なによりもそれが薬だ、と牽は思う。

福「それで、どうする……」
 
 いつの間にか福助もそばにやってきていた。
 固まる三人を「ケタケタ」と笑いながら見据えているのは、大江ノ捨丸の余裕の現れか。
 
晴「……なあ、牽、福。晴海に任せてくれるか?」
牽「え?」
福「なにか、するのか?」

 双子が聞き返すと、晴海は額に汗を浮かべたまま口の端をあげる。

晴「骨の嵐は痛いけれど、力を溜めた攻撃は大したことがない。放っておいても大丈夫なはずだ。だから、ふたりは戦いが長引く前に、蹴りをつけてほしいんだ」
 
 そういった戦術は、本来は牽や福助が提案しなければならないことであったろうが。
 晴海は下唇を噛みながら、告げる。

晴「……その間は、晴海がふたりを守る、だから……」
 
 すなわち、それは――

福「――対大江山決戦での、布陣か」

 ふたりが仕掛け、その間の時間を晴海が稼ぐ。
 まだ<円子>もなく、真琴が加わってはいないものの、それは紛れもなく大江山を見据えた陣形であった。
 
晴「やってみたいんだ! だから、その、だめ、か?」
 
 晴海の瞳に不安の色が浮かぶ。

晴「まだ<円子>も覚えていない晴海だから、心配かもしれないけれど……その、ふたりの命、晴海に預けてはくれないか?」
 
 己の限界に挑もうとする娘に、福助は思わず言葉が出ず。
 代わりに牽が、晴海の頭を撫でていた。

牽「いいね、晴海ちゃん。なんだか今、すごく生きているって感じがするよ」
晴「牽……」
 
 牽もまた、笑みをこぼす。

牽「でも守ってもらうような暇もないほどに、僕たちがあっという間にあいつを倒しちゃうかもね。なあ、福助!」
 
 牽が強く福助の背中を叩いた。

福「あ、ああ……そう、だな……好きにしてくれ、晴海さん」
 
 福助がこっそりと牽のふくらはぎを蹴る。

牽「な、なんだよ、福助」
福「……お前はいつも、いいところを持っていきすぎなんだよ」
牽「はあ?」
 
 こんなときにでも言い合いを始める双子に、晴海は小さく頭を下げた。

晴「ありがとな……ふたりとも……」
 
 晴海は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。彼女の周りに、水滴のような青い神気が集まってゆく。

晴「荒神橋晴海……この命にかけても、ふたりを守り切る、ぜ」
 
 彼女の目は、真夏の空よりも深く透き通るような濃い青に染まっていた。
 
 
 牽と福助は同時に術を紡ぐ。
 それは荒神橋一族で彼らだけが使える、火の攻撃術<花連火>。単体相手のその威力は<白波>の二倍に近い。
 その四倍撃ならば、一度で体力の大半を奪えるだろう。
 
牽「一匹ずつなんてちまちましたのは、もうやめだ。一気に畳みかけるよ、福助」
福「わかっているよ……真ん中のやつを倒せば、終わりなんだろう」
 
 一度術を唱え出せば、双子は誰よりも息の合った動きを見せる。
 
 かたや大江ノ捨丸はその詠唱を阻止しようと、何度も何度も骨を吐き、頭を叩きつけてきた。
 牽も福助も、容赦なく傷ついてゆく。
 それを守るのは、晴海。

晴「……花の為、一粒こぼして、蝶の為……みつるその雨嬉しかし……!」
 
 たったひとりで三匹の攻撃のダメージを癒し続けてゆく。
 自分の傷など後回しに、だ。
 
 討伐隊の三人がそれぞれ棒立ちで術を唱え続けるという異様な戦いは、ふたりの叫びで打ち破られる。
 
牽&福『<花連火>ッ!』
 
 爆炎が白骨を襲う。
 広間が真っ赤に染め上げられて、ただでさえ暑い空間が灼熱の地獄に変わる
 真冬の乾燥した枯れ木のように大炎上した大江ノ捨丸は、この一撃で崩れ落ちるだろうと誰もが思っていた。
 
 だが、そうはならなかった。

福「……なんだ、って……」
 
 大江ノ捨丸が唱えたのは、なんと<円子>。
 晴海がまだ使うことができない大回復術である。
 大江ノ捨丸は先ほど与えられたばかりのダメージを、一瞬で治したのであった。


 愕然とする福助。
 彼に、檄が飛ぶ。

晴「諦めるな!」

 それは<花連火>の爆音よりも威力を持っているようだった。

福「……晴海、さん」
晴「最後の一瞬まで、ひたむきに、挑み続けるんだ! 伏して指先すらも動かなくなるまで、戦うんだ!」

 これが、つい最近まで戦いを知らなかった少女の叫びだと、誰が思うだろうか。
 血を吐きながらも癒しの術を唱え続ける晴海の言葉だからこそ、重いのだ。
 彼女が諦めていないのに、守られている自分たちが諦めることなど、罪悪だ。
  
牽「参ったね、ほんとに……」
 
 感心を通り越し、牽は苦笑をしていた。

牽「このまま咲也兄さんそっくりになっちゃったら、どうしようね晴海ちゃん」
福「……そう、だな」
 
 もう術力はほとんど残っていない。次の<花連火>が最後の一髪になるかもしれない。ただでさえ二ヶ月の連戦後の戦いなのだ。疲労困憊で、指先が動かなくなるのも遠くない未来だろう。
 それでも福助は笑った。笑うことにした。

福「晴海さんひとりに重荷を背負わせてしまえば、そうなるかもしれない」
牽「それは、嫌だね」
福「だから、僕たちが踏ん張らないとな」
牽「ああ」
 
 もう体力も術力も限界近く、それでも諦めることは許されず。
 命の心配をするも、それすらも晴海に止められていて。
 
 笑う以外になにかできるだろうか。できやしない。
 

 
 二度目の<花連火>の併せは、今度こそ大江ノ捨丸を完全に爆砕した。
 蓄積した毒のダメージがその勝利の一端を担っていたことは、揺るがない事実であった。
  

 こうして、荒神橋一族討伐隊は、凱旋する――

 



 
 ~~



 
 
 
<荒神橋家>
 
 
イ「やっぱり似合います!」
 
 イツ花は手を叩いて喜ぶ。
 
晴「うぅ……」
 
 裾を引きずって居間にやってきたのは、華美な衣装に身を包んだ晴海。遅ればせながら、彼女の元服の儀を執り行っていた最中である。
 居間には、荒神橋家の全員が集合していた。

晴「身体中傷だらけだってのに、こういうときは休んでろって言わないのかよ……」
 
 晴海は顔を真っ赤にしていた。相変わらず、着飾るのは苦手である。
 二ヶ月間咲也にしごかれ続けて少しだけ成長した顔つきの真琴が、まるで成長していない感想を漏らす。
 
真「……『馬子にも衣装』を体現していますね、やばいですね」
 
 父に頭を小突かれて、やはり不満気に口を尖らせる。

牽「お前は余計なことしか言えないのか」
真「思っちゃったんですから、仕方ないじゃないですか。ねえ、福助サン」
福「え? いや、僕は……」
真「ほら、言葉に詰まってます」
 
 奇異の視線に晒された晴海は、衣の襟に手をかける。
 
晴「こ、こんなものォ……!」
イ「わーだめですってば晴海さま! それ、それ瑠璃さまの形見なんですからー!」
晴「う、え、あ、うう~~」
 
 泡を食って止めに入るイツ花。
 晴海もさすがにそれはまずいと思ったのか、自制する。
 
晴「そ、そっか……晴海はもう、瑠璃ちゃんと同じくらいの背になったんだな……」
イ「そうですよォ……大きくなるなんて、ホンットにあっという間ですよねェ……」
 
 頬に手を当てて、しみじみとつぶやくイツ花。

咲「……うむ」

 それまでずっと黙っていた咲也が、低くつぶやいた。
 その一言だけで、皆の視線が咲也に集まる。
 二代目当主は、頬を赤らめた晴海をじっと見つめる。
 
晴「な、なんだよ、父ちゃん……」
 
 咲也は顎をさすりながら、小さくうなずく。

咲「やはり、良いな」
 
 晴海が「だ、だから何が」と問う。
 咲也が男臭く笑う。

咲「この家は、良い家だ」
 
 牽と真琴が顔を見合わせて、戸惑う。福助はただ黙していた。晴海が小首を傾げて、ただひとりイツ花だけがなにかの予兆を感じ取っていた。
 





 ~~



 今になって、ようやく知れたことがあった。
“彼女”には、恐怖に怯えている暇など、きっとなかったのだ。

 彼らの人生に、後少し、後少しだけと、なにかを残そうと思ったのなら。
 それはいつだって、“希望”だったから。
 
 

 ~~






晴「ったく、きょうは大変な目にあったぜ……」

 夜分、布団の中で晴海は愚痴る。
 隣には目を閉じた父親。遠くで蝉の声がする。

晴「でも、どうだよ父ちゃん。晴海たち、強くなっただろ? へへ」

 湯浴みをした後の身体は涼やかで、眠りやすい夜だった。

晴「……なんだよ、父ちゃん寝るの早いなあ。二ヶ月ぶりに帰ってきたんだから、もうちょっと話そうぜ」
 
 大人に変わりつつある晴海の声色は、しかしきょうはわずかに甘い。

晴「もう~、父ちゃん、久々なんだから、ちょっとぐらい……なあ、父ちゃんってばあ……」

 戦果をあげた喜びからか、目が冴えて眠れなかったのだ。

晴「晴海な、あと技の水が34成長すれば、<円子>覚えられそうなんだぜ? へへへ……頑張るからさ、晴海。あとたった三ヶ月だけど、きっと朱点童子を倒してみせるからさ」

 自分がどこまでも強くなれるような、そんな夢を見ている気分だった。
 静かな興奮が、そこにはあった。

晴「見ててくれよな、父ちゃん……なあ、父ちゃん」

 晴海は首を傾ける。

晴「……父ちゃん? ……寝てる、んだよな?」

 急に胸が痛くなった。
 晴海は飛び起きる。

晴「父ちゃん!」
 
 晴海はハッとして隣の布団を覗き込む。
 障子から月明かりが差し込む中。
 咲也は薄目を開けて、こちらを見やっていた。

晴「と、父ちゃん……?」
咲「明日も早いぞ。寝ろ」
晴「……お、おう」
 
 厳格な声を聞いて、晴海は急に恥ずかしくなってくる。
 
晴「べ、別に、甘えてたとか、そういうわけじゃないんだからな……ただ、その、ちょっと久々だったから、それで……」

 晴海は頭まで布団をかぶって、それから枕に顔を埋める。

晴「……も、もう……父ちゃんと一緒だと……もう、眠れやしないぜ……」
 
 ぽつりと言ったその照れ隠しの言葉に、咲也は笑っていた。







 
咲「けっこうなことじゃねえか。俺のいびきも、寝言も、歯ぎしりも、今夜からは聞かずにすむゼ」


 その言葉は、その時はただの皮肉だと思っていたのに。
















 翌朝、咲也は目覚めることはなかった。













 寝息もなく眠り続ける咲也に、晴海は呆然とつぶやく。

晴「……とう、ちゃん……?」

 異変に気づいたイツ花がやってきて、それから間もなく家族が当主の元に集う。
 









 荒神橋咲也、享年1才8ヶ月
 
 
 最期の一日まで老いの欠片をも感じさせぬような、力強い男であった。
 もしかしてそれは、ずっとなにかを隠し、耐え忍び続けていたのだろうかと、晴海は思う。

 葬儀の後、父親の幻灯絵は瑠璃の横に並べられることとなった。
 祖母と父親があの世でも仲良く暮らせますようにと、晴海は願いながら線香を立てる。







 
 荒神橋一族の成長をそばで見守り続けてきた偉大な人物の逝去によって、これからの歴史は新たな時代へと移る。



 



 三代目当主は、晴海。

 かつて少女であった娘が、自らの足で立つときが、ついに。
 来たのだ。
 
 
 
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# by RuLushi | 2012-02-16 07:59 | 二代目当主・咲也
1019年8月前編
 
 
 真琴の遺伝子図は非常に偏っていた。
 火と風は高く、水と土が低い。
 特に水の能力値の中でも、体の水は壊滅的であった。
 
 咲也は書机に向かい、真琴の育て方に関する覚書を作っていた。
 いつかは、使う日も来るだろう。自分ではない誰かが。

咲(春野鈴女を母としたのは、なによりも“風”の属性値を欲していたからだ……)
 
 筆を滑らせる。
 
 晴海に求められていたのは、<円子>を使うことができる素質。
 ならば、真琴はというと。

咲(“連弾弓”……)
 
 攻撃手段というものは、守護の力に比べて、いくつもの選択肢がある。術の併せ、強化術、札……つまり、最終的に鬼の体力を失わせればいいのだ。
 その中でも咲也は、“奥義”に着目した。
 人智を超えた荒神橋一族にだけ伝わる力。肉体の限界を振り絞り、精神をも燃やし尽くす秘技。それこそが“奥義”である。
 
 弓使いの技のひとつに、連弾弓、というものがある。魂を込めた三本の矢を同時に射出する奥義である。
 それを取得するために必要な素質は、心技体の風。
 風の能力値は風神である母神から十分に遺伝された。
 さらに春野鈴女から遺伝する素質で二番目に高いのは、攻撃力に直接関わる火の能力なのである。
 
 こうして真琴の遺伝子は、通常ではありえないほどに偏向した。
 体力の低さは予想外だったものの。

咲(すなわち……晴海が守りの要だとすれば、真琴は攻めの要……)
 
 来月から真琴が戦場に出られるようになっても、経験を積む時間はもう、9月、10月の二ヶ月間のみ。たったそれだけの期間では、確実に奥義を覚えられるとは言い難いが……
 
咲(それでも、牽と福助が型に囚われず、ふたりを補助してやれば……)
 
 大丈夫だ。
 絶対に、大丈夫だ。

咲(……勝てる、勝てるだろ……? なあ、瑠璃、きっと……いや、勝てるはずだ……)
 
 大江山の朱点童子を倒さなければ、荒神橋一族に未来はない。
 牽も福助も晴海も真琴も、みんな助けてやりたいから。

咲(……畜生め)
 
 そこに自分が出陣できないのが、やはりなによりも心残りで。
 手の中で、筆がみしりみしりと悲鳴をあげる。


真「うう、当主サーン、次なにをしますかー……って、顔怖っ!」

 特訓を受けている最中の真琴がやってきて、戸の辺りで固まっていたことに咲也はしばらく気づかなかった。
  
  
 
 ~~
 
 
 
<白骨城>
 
 テウチの祭壇に火花がほとばしる。
 
 襲い来る右カイナを、福助が薙刀で必死に受け止めていた。気を抜けば、指の一本一本に腕を潰されてしまいそうだ。

福「は、はやく……もう、持たない……!」
晴「牽、合わせてくれよ!」

 左カイナに追いかけ回されているのは、晴海。巨大な拳骨を右へ左へとステップで避ける。その後ろからさらに左カイナを牽が追いかけていた。
 晴海が急転換し、カイナがその姿を見失った直後の一瞬。牽の振るった刀が骨をわずかに削り取った。
 
牽「げっ、なんだこれ……!」
 
 だが、悲鳴。
 カイナはまるで虫でも払うような仕草で牽を吹き飛ばす。床を転がった後、受身を取っていた牽は膝を立てて起き上がる。
 

 右カイナ、左カイナ。
 上腕骨から指骨の先が浮遊した、奇怪な姿を持つ鬼である。

 
牽「だめだ、堅い!」
福「おい牽……! まじめにやってくれ……!」
牽「じゃあ僕と変われってんだ!」
 
 怒号が飛び交う。
 その間に晴海が右カイナを蹴り飛ばすと、わずかに拘束が緩んだ。福助はカイナを振りほどき、なんとか脱出する。

 再び一箇所に集まり、討伐隊は作戦の練り直しだ。

福「ハァ、ハァ……く、くそう、なら術で……」
牽「<白波>の併せだね、それしかない」
福「晴海さんも、一緒に」
晴「おう!」
 
 カイナはゆらゆらと揺れながら、目もないくせにこちらを睥睨しているかのようだ。
 直後、風が巻き起こる。
 術技特有の気の流れは、自然界には起こりえない気流を生み出した。
 
晴「戦原……逆白波のたつまでに……」
牽&福『矢も血も骨も、すすげ河太郎……!』

 晴海を中心とした青い光に、牽と福助の神気が絡みつく。
 印を結んだ晴海のまなこが輝いた。

晴「<白波>!」 
 
 直後、虚空から出現した真っ白な水流は、瞬く間に祭壇を飲み込むほどに広がった。
 龍を彷彿とさせるような大津波に、左右のカイナは逃げ場もなく、ただ蹂躙されてゆく。
 六倍の威力を持つ水術が過ぎ去ったあとには、骨の一欠片すらも残ってはいなかった。
 
 
 三人の併せは、物の見事に鬼たちを葬り去ったのであった。
 


 ~~

 
 
 ひたすらに、ひたすらに討伐隊の三人は鬼の群れを蹴散らし続けた。
 その最中<黒鏡>の術も入手し、これで『白骨城で取ってくるべし』と咲也が言っていた宝はもうあらかた取得が済んでいた。
 
 そんな時だった。晴海が言ったのだ。

晴「今月の終わりだ。大物を退治にしに、行こうぜ」
 
 迷宮の奥地には、必ず一体の番人が存在している。晴海は父親からそう教わっていた。彼らはその迷宮でもっとも強く、高価な宝を隠し持っている、と。
 
福「……いや、それは……」

 鬼胎を抱くのは、やはり福助。万全の調子でも断りたがるものを、今は皆、一ヶ月の討伐を終えて疲労が滲んでいる。
 対する牽は晴海にうなずく。

牽「いいじゃないか、僕たちだってだいぶ強くなったしさ」
福「やめろ、牽」
牽「なんだよ、福助」
福「根拠のない自信は、やめてくれ。そんな楽観的な一言で僕たち全員、死地にさらされたらたまったもんじゃない。第一、相手の顔だって知らないんだ」
牽「……」
 
 切迫した福助の声に、牽もさすがに黙りこむ。
 が、晴海は普段通りの中庸さで間に入った。

晴「いや、勝ち目はある、と思う。父ちゃんから色々、聞いてきたんだ」
福「……咲也兄さんから?」
晴「ああ。なぜだかさ、父ちゃんはここの相手のことを知っているみたいで……確か名前は、“大江ノ捨丸(おおえのすてまる)”」
牽「おー、聞かせてもらおうじゃないか、なあ福助」
福「……ああ」
 
 ふたりに、晴海は父から聞いたことをそのまま伝達する。

晴「――って感じで、といっても、そんなに詳しく教わったわけじゃないけど……でも、今の晴海たちなら、大丈夫だと思うんだ」
福「……」

 福助は熟考する。
 彼は今になってようやく、どうして咲也が自分を討伐隊の隊長に指名したのか、わかったような気がしていた。
 判断を誤れば、一家全員を危険に晒す。
 だがもちろん、見返りだってあるだろう。
 それは経験点や宝といった目に見えるものだけではない。大江山に向けて、三人での連携を鍛えるためにもここはうってつけの舞台だ。自分たちはそろそろ、そういったことを考えなければならない段階に来ているはずだ。

牽「こんなところで逃げていたら、大江山だって乗り越えられないだろ」
 
 牽の言葉に、福助は静かに首を振る。
 
福「それとこれとは、違う……ここはここ、大江山は大江山だ。僕はそういう、精神論のような言葉を信じない」
牽「だからさ、咲也兄さんが僕たち三人に出陣させた意味を、よく考えろって! ホントは福助だってわかってんだろ!」
福「……それは」
 
 薄々気づいてはいたのだ。
 晴海を見やる。彼女もそっとうなずいていた。

牽「何のために、僕たち三人で来たんだよ。もちろん<速瀬>だとか経験を積むためだけどさ、それ以上に大事なものがあるだろ。僕らはどうしたって、凱旋しなくっちゃいけないんだ。『あいつらやるじゃねえか』って、兄さんに思われたいだろ? いつもと同じじゃだめなんだよ!」
 
 牽は熱く福助に訴える。その言葉は、福助に重くのしかかる。

牽「母さんの仇を討つんだろ、僕たちの腕で。そうして、生き残るんだよ、この先もずっとずっと、みんなでさ!」

 わかっていたことだ。
 咲也はもう戦場には出ないだろう。後のことを全て自分たちに任せて、引退するつもりなのだ。
 そんな当主に、牽は“土産”を持ち帰りたいと言っている。
 
晴「福、行こう」

 晴海が手を差し出してきて。
 
福「……」
 
 福助は血と汗で汚れたその手を握り返した。
 
 

 三人の歩んできた道には、黒スズ大将の骸が点々と転がっていた。
 
 
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# by RuLushi | 2012-02-11 00:57 | 二代目当主・咲也
1019年7月後編
 
 討伐隊の隊長に任命されたのは、やはり福助であった。
 咲也は言っていた。

咲『薙刀士ってのは、便利なもんだゼ? 鎧は硬えし、後衛にいながらも敵陣に刃が届く。一番死ににくいんだよ。隊長ってのは絶対にやられちゃならねえ。だからこそ今はお前が適任なのさ』
 
 買いかぶられている、とは何度も言った。
 だが咲也は聞く耳を持たなかった。
 
 
福(まあ、誰も死なせるつもりはありませんけど……)
 
 帯を結び、鎧をまとい、鉢金を巻きながら思う。

福(……それでも、不慮の事故はいつだって起きる。今回は母さんも咲也兄さんもいない、本当の戦場だ。選考試合とはまったく違う……)
 
 どんなことがあっても対処できるように、備えだけは万全を期す。
 底知らぬ不安がつきまとい、昨夜は眠れなかった。
 
福(それでも、僕がやらなきゃ……僕が……)
 

 いつだったか、牽は福助にこう言った。
『お前って、“両替屋”みたいだよな』と。
 牽は詩的でロマンチストな部分がある。それはどちらも福助にはないものだ。
 
『大きな不安が積み立てられて、悲劇へと変わる。それが当たり前のことなんだけど……だけど福助はその逆で、悲劇を不安に、不安を小さな心配に“分割”することが得意なんじゃないかって、思うんだよね』
 
 それはあくまでも、ひとつひとつの不安の種を少しずつ潰してゆく行ないに過ぎない。
 ひたすらに地味で暗い、面白みのない作業だ。
 だが、牽の目にはそれこそが職人の技のように思えるらしい。不思議なものだ。

『まるで僕には、福助がそろばんを弾いて、不幸の貨幣をなんでもないものに両替しているように思えるよ』

 牽にしては上手いことを言うと、その場は感心したものだ。
 だから、改めて思う。

福(僕ができることなんて、たかが知れている……だけどそれは、きっとみんながやりたがらないことだから、丁度いいんだ……)
 
 咲也や晴海のように、一族を導く光とはなれない。
 きっと、咲也の期待にも応えられないだろう。
 だから自分には、“両替屋”がお似合いだ。
 
 
 
 ~~
 
 
 
 出陣先は、再び白骨城。
 先頭に立つのは隊長、福助。

咲「二ヶ月間だ。途中で帰ってくるんじゃねえぞ。必ず、目当ての術を取ってこい」
 
 咲也はそう言って発破をかけてきた。
 牽は「もちろんだよ!」と拳を握っていた。戦場では彼の明るさはかけがえのないものだ。
 猛暑に辟易しながらも、晴海もなんとか笑顔を作っていた。この時点で晴海の術力は、一族の誰よりも高い。

 あとなぜだか留守を守る真琴は、咲也のそばでは緊張しているようだった。

真「……当主サンはちょっとなんだか、やばいんです」
 
 またいつものように堂々と「当主サンはなんで男なのに髪を結んでいるんですか?」とかなんとか聞いてしまったらしい。
 それに対する咲也の返答が――彼は邪気がなかったものの――「あァ?」という、子供にはいささか当たりの強いものだったようで。
 それ以来、怯えた真琴は咲也を苦手としているようだった。

真「……そこもまあ、カッコイイような気がしますけど……その、やばいです」
 
 ただの惚れっぽい女なのではないだろうか、という気もしてくる。
 さすがは牽の娘、という言葉を告げるのはあまりにも酷だったため、黙っていた。
 


 いつまでも、こうしてはいられない。

福「……じゃあ、行こっか」
 
 気は進まないが、福助は白骨城に進路を取る。

牽「ああ、絶対に<速瀬>を持って帰らないとね!」
福「まあ、それもあるけどさ」
 
 福助の戦う理由は、“そういったもの”ではない。
 そばでは、涼しげな格好の晴海がいつものように笑っていた。

晴「『またこの家に帰ってこれるように』だろ?」
 
 どんぴしゃり。
 その笑顔に、福助はまるで撃ち抜かれたような錯覚を起こす。
 思わずその頭を、撫でていた。

晴「お、おい、福……」
福「そうだよね、晴海さん」
 
 晴海は口の中で、なんだよ急に……、と小さくつぶやいていた。
 
 並ぶ彼らに続く牽がなぜか悔しそうにしていたのは、ふたりのあずかり知らぬところである。



 ~~


 
 先月の苦労がウソのようだった。

牽「で、出ちゃったんだけど」
 
 牽の手には、血塗られた巻物があった。間違いない。<速瀬>の術書である。
 
晴「おう、やったな! これで任務達成だぜ!」
福「……むしろ咲也兄さん、どれだけ運がないんだ」
牽「運がないかなあ?」
福「少なくともあの年まで生きていたんだ、悪運はあるんだろうね」
晴「なあに言ってんだよ、それは父ちゃんの実力だろ?」

 腰に手を当てて胸を張る晴海。来月に元服を控えているはずのその体つきは、いまだ少年のように細い。

福「うん、まあ」
牽「なんだかんだで、僕たちずっと兄さんに頼りっぱなしだもんねえ」
福「……そうだよ、牽は反省したほうがいいよ」
牽「お、お前、なんで僕ばっかり」
福「晴海さんはしっかりわかっているから」
牽「僕だってわかってるし!」
 
 晴海が眉を曇らせる。

晴「まーたケンカかー?」

 慌てて牽が福助と肩を組む。
 
牽「いやいやそんな滅相も!」
福「け、ケンカじゃなくて、意見の交換だよ」
晴「おう、そうなのか。ならいいんだぜ、ドンドンやってくれよな」
 
 晴海はにっこりと笑う。双子はホッと息をついた。
 
福「えと、じゃあ、これからどうしよっか」
牽「隊長はお前だろ、福助」
福「まあそうなんだけどね……」
晴「だったら戦おうぜ! 少しでも経験を積むことが、今の晴海たちには必要だろ?」
福「う、うん」
 
 真っ直ぐな晴海の声に、福助は一も二もなくうなずく。これではどちらが討伐隊隊長なのかわからない。
 まあでも、それでもいいか、と福助は思う。
 
福(無茶を言って引っ張っていくなんて、僕のキャラじゃないからね……)
 
 福助は自分の分際をよくわかっていた。

晴「じゃあ、行こうぜ!」
 
 晴海は拳を何度か振るい、気炎万丈といった調子で宣言した。
 
晴「二ヶ月間の修行だ。もっともっとずっと強くなって、父ちゃんを驚かせてやろうぜ!」
 
 若き英気に誘われて、牽と福助も士気を高めてゆくのだった。
 
 
 その後、三人は13ノ丸で延々と経験値を稼ぎ続け、この月の最後を“討伐延長”で終えたのであった。
 
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# by RuLushi | 2012-02-08 00:45 | 二代目当主・咲也