ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年12月前編
 
 
 先月の終わりに起きた、都を揺るがすほどの大事件は、ふたつ。
 数多くの神々が解放され、天界へと昇っていったこと。
 そして、京を取り囲むように新たな迷宮が出現したこと。
 
 武士たちにとって関わりが深いことは、さらにふたつ。
 朱点童子を……いや、正確には今まで皆が朱点童子だと思い込んでいた鬼を、荒神橋一族が見事に打ち倒したこと。
 そして、武士団を率いていた男――高辻勲が討ち死にをしたこと。
 
 高辻一族当主・勲の葬儀はしめやかに行なわれた。
 そこには、都を守護するあらゆる地位の武人、文官が参列していたという。
 若いふたりの武家当主も、いた。

絹「……」
直「誰か探しているのか? 絹子」
絹「……いえ、別に」
 
 寺の中から響いてくる念仏を聞き流しながら、七条家現当主・絹は長い髪を抑えて、身を翻した。

絹「帰る。羅城門の番を交代しないと」
直「いやいや、これから出棺だよ。化野まで護衛するのも俺たちの仕事だろ」
絹「直哉くんがいればいいじゃない」
直「お、おい……ったく」
 
 頭をかいて、六波羅直哉は絹の背を見送る。
 空を見上げる。遠く火葬場では、遺骸が煙となって空に立ち上っていた。あれは、今は決して途絶えることのない火だ。

 荒神橋一族は最後まで現れなかった。
 
 
 
 
 ~~
 
 
 帰還した荒神橋一族を待っていたのは、イツ花の場違いなほどの笑顔と、豪勢な食事だった。しかし、牽と福助が背負ってきた重傷の晴海と真琴を見て、イツ花は血相を変えた。

イ「と、当主さま! 真琴さままで!」
 
 さすがに空気を読んだイツ花は、慌てて医者を手配した。牽も福助もすぐに泥のように眠り、せっかくの食事も無駄になってしまった。
 命に別状はなかったのが、不幸中の幸いだった。
 そう、被害はなかった。命には。
 命だけには。
 
 
 ~




<都にて>
 
 
絹「あら」
福「……君は」
 
 都の往来。福助は偶然、あの大江山決戦をともに戦った少女と鉢合わせした。
 彼女は薙刀士の戦衣装に身を包んでいたため、すぐにわかった。一方、福助は身軽な外着だ。絹が自分を見つけたのは偶然ではないかもしれない。
 
福「七条絹子さん……だったかな」
絹「絹です。絹子って呼んでくるのは、直哉くんだけよ。まあ、呼びたければそれでもいいけれど」
福「いや、遠慮しておくよ、七条さん」
 
 目の下にはクマが浮かんでいて、絹の白い肌はまるで幽鬼のように青白い。大江山で感じた儚げな印象は、今は悪い意味で病的だった。
 偽物の朱点童子を退治してから、二週間。きっと彼女も色々あったのだろう。色々と。

絹「それよりも、すぐにわかるわね」
福「なにがだい?」
絹「あなたたち。どんなに遠くからでも、すぐにわかるわ」

 絹は自らの髪を指でくるくると弄ぶ。言われて、福助も「ああ」と気づいた。確かに、自分たち一族の髪の色は、常識では考えられない彩色をしている。

絹「おかげでこっちも、探す手間が省けて助かるけれどね」
福「……僕たちに、なにか用だったのか?」
絹「まあ、そう。回りくどいのはあんまり好きじゃないから、さっさと本題に入るわ」
福「そうだな。こっちはあんまり時間を自由に使えない身だ。助かるよ」
 
 行く先も聞かず、絹は福助の横に並んで歩き出す。
 いつもはもっと賑わっているだろう通りは、人の姿が少なかった。昨今の凶変に、もう民は疲れ切っているのだ。
 そしてそれは、絹も同じように見えた。

絹「都の武士をまとめていた高辻勲が亡くなったことによって、武士団は分裂したわ。高辻家の跡を継ぎ、鬼を根絶やしにするつもりでいる烏丸家。それに都と民の安全を第一に掲げる六波羅家。さらには、この機会に上流貴族に取り入ろうと目論む武士たち。争いは大内裏の中だけではなく、この都にも及んでいるの」
福「……そうか。だけど、別にそれほど異常なことではないと思う」
 
 人間はそういうものだ、と思い、福助は改めて己の思想に気づく。自分だって人間だ。そのつもりだ。
 
絹「まつりごとでは、遷都の案も出ているそうだわ。この現状で可能か不可能かは別としても、海を渡って逃げるつもりの貴族もいるそうよ。混乱に陥っている京を狙って、各地の豪族たちも動きを見せたというしね。一条家は人との戦の準備をしているわ。こんな時勢なのに」
福「……」
絹「あなたたちも無関係ではないのよ。荒神橋家」
福「関わり合いがあるようには思えない。先祖さまの代では有力な武士で、大江山のときはきみたちにも世話になったけれども、それとこれとは別じゃないのかい。今の僕たちはとても政治に付き合っている暇はないよ」
絹「武士や貴族は、朱点童子を葬り去った荒神橋一族の武力を高く評価しているわ。恐れているといっても過言ではないの。あなたたちがどう転ぶかによって、都の命運が決定するのだと信じ切っている」
福「その手の話は、さすがに僕でもうんざりするな……」
絹「誰が見ても、あなたたちの力は危ういものよ。自覚はしておいてほしいのだけど」
福「悪いね。僕たちも自分のことで精一杯なんだよ」
 
 福助は苛立たしげにつぶやく。
 この通りを進めば、もう少しで荒神橋家に着く。絹はどこまでついてくるのだろうか。そう思った矢先、絹は立ち止まった。

絹「わたしたち七条家が、あなたたち荒神橋一族の監視を承ったわ」
福「……それは」
 
 福助もまた足を止め、振り返る。絹は髪を指で耳の後ろに流しながら、目を逸らす。

絹「荒神橋一族に怪しい動きがあった場合は、すぐに報告する手はずになっているの。できればわたしも、あなたたちにそんな無駄な時間を使わせたくはないわ。どうか、行動は慎重にしてちょうだい。お願いよ」
福「……それはきみが与えられた任務だろう。そんなことを僕たちに話して、なにか家柄に得があるのかい」
絹「そうね。もし荒神橋一族の異常を見逃した場合、わたしは打ち首にされるでしょうけれど、そのことを憂いたあなたたちが少しは優しくなってくれるかもしれないわね」
 
 辺りに人影はない。荒神橋一族の屋敷に好き好んで近づきたがるものなどいない。
 恐らくだが、七条絹はかなりの貧乏くじを引かされてしまったのだろう。福助は後頭部に手を当てる。

福「……僕たちは、高辻勲を救うことができなかった。きみは僕を恨んでも仕方ない。それなのに、どうしてそこまでしてくれるんだ」
絹「ふふ」
 
 そこで絹は小さく声をあげて笑った。目を細めたその顔は、妙に年頃の少女らしく見えた。

絹「心配性って言われるでしょう、あなた」
福「……いや、それは」
絹「誰が味方で誰が敵かもわからないこんな時代で、ひとりぐらいあなたたちの味方がいたって構わないでしょ。それに、早い段階で恩を売っておけば、利子は高く付くものだわ」
福「きみの本心なのかい、それは」
絹「そう思っていてくれて構わないわ。ああ、そうそう」
 
 戸惑う福助に構わず、絹はこちらに歩み寄ってくる。

絹「一条家が高名な刀鍛冶を呼び戻したそうなのだけど、彼は人を斬る刀を打つことができないそうなのよ」
福「……人を斬れない刀? そんなものがあるのか?」
絹「わからないけれどね、訪ねてみたらどうかしら。きっと、あなたがたの力になってくれると思うわ」
福「役に立つのかな」
絹「多分ね」
 
 絹はその名を告げる。

絹「鍛冶屋の名は剣福。彼が打つのは、“鬼だけ”を断つ剣……だそうよ」
 
 覚えておくよ、と応えて福助はその場から立ち去る。
 今度は絹も追いかけてはこなかった。
 彼女の好意はありがたかったが、今はまだ役立てることはできなさそうだった。
 
 荒神橋家は、まるで無人のように静まり返っていた。
 
 

 
「一ヶ月間、休養しよう」と、牽は言った。
 それは決して最良の判断とは言えなかっただろう。だが、そのときは他に選択肢はなかったのだと、福助も認めていた。

 
福「ただいま」
 
 屋敷の居間を覗くと、そこには誰もいなかった。浴室から物音がするのは、牽か真琴か。
 福助はため息をついて、その場に座り込む。漢方の店を巡ってみたものの、効果がありそうなものは見つけられなかった。ダメ元で探してみたのだが、やはりうまくいかなかった。
 
牽「帰っていたのか」
 
 そこに牽がやってきた。気の緩んだ顔だ。福助はわずかに眉を寄せる。

福「お前、どこをほっつき歩いているんだ……サボるための休養じゃないんだぞ」
牽「さ、さすがにそれは僕を見くびりすぎじゃないかな……ハハ……」
 
 福助の向かいに座り、牽は机に頬杖を突く。

牽「いやあ、晴海ちゃんの看病をしていたんだけどさあ」
福「……そうだったか。悪いな、誤解して」
牽「はは、別にいいって、いつものことだし」
福「それでどうなんだ? なにか、変わったことは」
 
 牽は肩を竦める。

牽「まあ、とりあえずは様子見、かな。晴海ちゃんがもう一度自分で立ち上がろうとしない限り、僕たちにできることはあんまりないし」
福「ずいぶん簡単に言うんだな、お前は」
牽「福助はあれこれ考えすぎ。なるようにしかならないじゃん。もちろん、可能な限り支えていくよ」
福「……僕は、一ヶ月間も、なにをすればいいのかわからない」
 
 福助はそう言って、肩を落とす。自分の無力感を歯がゆく思い、内々へと責めてしまうのが彼の悪いところだ。
 それを調整するのは、牽の役目である。

牽「新しい術書も取ってきただろー? 暇だったら稽古でもしてればいいじゃない。あ、たまには真琴の勉強を見てやってくれてもいいぞ?」
福「真琴さんか……そういえば、彼女はどうしているんだ?」
牽「さっきまで部屋にいたけどね。今はイツ花さんに付き添ってもらって、お風呂に入っているんじゃないかな。割と毎日楽しそうに過ごしているよ」
福「怪我はもういいのか?」
牽「さてね。時々両腕をさすっていることもあるけれど、本人は心配要らないって言っているよ」
福「その言葉を、そのまま信じるのか?」
牽「真琴はちゃんとものを言えるから、大丈夫大丈夫」
 
 朗らかに笑う牽。福助は言葉には出せないもやもやを胸の奥に募らせる。
 牽は伸びをしながら、立ち上がる。

牽「さってと、僕もちょっと身体を動かしてこようかな。福助も道場に行く?」
福「いや……僕は、遠慮しておく」
牽「そっかそっか。あんまり思い込むと、福助まで身体壊しちまうからね。ほどほどにしろよー?」
福「……ああ」
 
 牽を見送り、福助はため息をつく。
 これでいいのだろうか、と思う。
 牽は全てを時が解決してくれると思っている。だが、本当にそうだろうか。
 焦燥感が、福助を焦がす。
 

 しばらくひとりで考えていると、今度は焼けた肌の少女が現れた。
 両腕に包帯を巻いた、お風呂上がりの真琴だ。福助を見て、「おかえりなさい」と告げてくる。

福「あ、真琴さん。体調はもう良いのか?」
真「はい、おかげさまで。今は痛いというか、かゆいですね」
 
 まとめた髪のうなじから、拭き取りきれなかった雫が流れ落ちている。
 たった一ヶ月の間に、ずいぶんと大人びたような印象を受ける。背も伸び、体つきも先月よりもずっと女性らしくなったようだ。
 
真「で、どうなんですか」
福「え? なにがだい」
真「とぼけているつもりですか。晴海サマの容態ですよ」
福「……ああ」
 
 それに、少し落ち着いてきた気もする。
 まだわずか5ヶ月才なのに。

福「そうだね、良くはないよ。一ヶ月休んでも、また戦えるようになるかどうか……」
真「ふーん。やばそうですね」
 
 真琴は牽と同じように机に頬杖をついていた。
 こういう風に、何気ない仕草で父娘なのだと感じ取れる瞬間も増えてきた。
 きっと真琴は嫌がるだろうが。

真「呪い、解けませんでしたよねえ」
 
 真琴は窓から覗く空を眺めながら、つぶやく。

福「……そうだね」

 幼き少女が未来を奪われたとき、彼女は一体なにを思うのだろうか。
 真琴の瞳は物憂げだった。

真「まあ、種絶のほうは別にいいんですけどね。どうせ神様でもない男の人とお付き合いしても、退屈なだけでしょうし」
福「そりゃあ、人間にはできることにも限度があるからね……」
真「でも、短命の呪いは、ちょっと嫌ですよねえ」
福「……ちょっと、か?」
 
 自分ですらまだ気持ちの整理がつかないというのに。
 福助に追求されると、真琴は少しだけ困った顔をして。

真「そりゃー色々思うところはありますけどねー……でも、こうなっちゃったものは仕方ないですよ。だから、もうこだわらないことにします」
福「そうか……」
 
 牽と似ているようで、彼女の考え方はより現実的だ。直面した事態に対し、夢想を限りなく排除している。
 もちろん、表向きは、だ。
 
真「……空、綺麗ですねー」
 
 真琴はそうつぶやいた。
 彼女がなにを考えているのか、福助にはもうわからない。
 この先もきっとわからないだろう。
 なんとなく、そんな気がした。
 
 
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by RuLushi | 2012-10-30 09:02 | 三代目当主・晴海