ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年11月第9編
 
 
 牽と福助が武器を構えて前に出たのは、ほとんど無意識の行動だった。傷だらけにも関わらず彼らは、もう満足に動くことのできない少女たちをかばおうと思ったのだろう。
 朱点童子は水車のように笑い続けている。
 
 
 クククククククククククククククククク、ククククククククククククククククククハハハハハ、
 ハハハアハハハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 
 
  「あーあァ……ったく、余計なことをしちまってよォ……」
 
 笑い声が途切れて、その瞬間、朱点童子が立ち上がる――
 
 
 
 ――かと思えば、鬼は奇妙な踊りを始めた。
 身体を揺らしながら、前後左右に足を動かす。まるで千鳥足のようだ。
 一体何の真似か。
 
福「な、なんだ……?」
牽「僕にわかるかよ……!」
 
 すると、
 ずるりと、朱点童子の皮が剥けた。
 まるで脱皮したように見えた。朱点童子だったものは脱ぎ捨てられて厚みを失い、代わりにそこにはひとりの人間が現れる。
 こちらに背を向けた裸体。それは、少年のものだった。
 一族は皆、事態についていけない。
 少年は振り返ってくる。
 紅顔の美少年。赤髪で白い肌。細身ながら筋肉のついたしなやかな肉体。彼の顔を、一同は知っていた。
 
 少年は、あの浮遊霊――黄川人だった。
 
晴「……なんで?」
 
 立ち上がれずにいたまま、晴海は呆けた声を漏らす。
 黄川人は柔和な笑顔を浮かべていた。

黄「ンー……っと、こんちわ」
 
 大きく伸びをした後で、まるで道ですれ違った時のように、黄川人は気軽に片手を挙げた。
 そのいつも通りの仕草こそが、不気味だった。牽が問いただす。
 
牽「お前、どうして」
黄「アハハハ」
 
 その言葉に、黄川人はまるで冗談を笑い飛ばすように哄笑した。
 
黄「なにを言っているんだい。君たちがこいつの中から、ボクを助け出してくれたんじゃないか」
晴「……あ……あ、ああぁ……」
 
 唐突に、晴海は頭を抑えた。
 そのまま地面に膝をついて、うめく。
 
福「ど、どうした、晴海さん、どうした!」
晴「ああああああ……」
 
 肩を揺さぶられながらも、晴海の顔色は蒼白だった。
 頭が痛い。こめかみを刀でえぐられているようだ。
 そんなことが。
 まさかそんなことが、あるなんて。
 なにかが、魂が封じ込めていたはずの大事ななにかが決壊してしまう。
 
 それはまさに、終焉だった。
 ドブ川のような臭いがする。
“真実”は、大江山の頂上で腐っていたのだ。

 晴海はまぶたの裏でヴィジョンを見ていた――


 ――同時にいくつもの光景が流れてゆく。
 ――燃え盛る都、炎上する家々。逃げ惑う住民、追いかける武士。飛び交う悲鳴、血が辺りを染めてゆく。
 ――ヴィジョンのひとつは滅びゆく町を描いていた。見覚えがある。ここは大江山京だ。戦渦に巻き込まれた都だった。
 ――やがて視界は収束し、ひとりの赤子が映る。泣き叫ぶ母親の手から奪われて、赤髪の子供は刺殺される。その“下手人の男”の顔まで、はっきりと見えた。
 ――黄川人はその赤子だ。徐々に冷たくなりつつある亡骸だった。
 
 かつて大江山京を襲った惨劇に、吐き気がこみ上げる。
 まさかこれが人の仕業とは思えなかった。
 
 ――他にも、ヴィジョンは様々な場景を映す。
 ――赤黒く脈動する“地獄”のような塔の中。少年・黄川人の前で倒れている女性。折れた刃を地面に突き立てて、憎悪の目で黄川人を見つめている男。満身創痍で黄川人と斬り結びながら、雄叫びをあげる少年。泣きながら仲間の死体にすがりつく少女。その背を踏みにじる黄川人。黄川人。黄川人。黄川人。
 ――死。死。死。死。数えきれないほどの、一族の
 
 
 立ち向かう一族の記憶と感情の津波が、晴海の心を飲み込んだ。
 それはたったひとりの少女では決して受け止め切れないほどの、激流だった。
 一個の人格など、たやすく流される――
 
牽「ど、どうしたんだよ、晴海ちゃん!」
福「しっかりするんだ!」
 
 双子の声など、到底届かず。

晴「あ、ああ……ああ……」
 
 忘我の淵で、晴海はいつの間にか涙を流していた。
 その表情こそが名付けるのならば、まさに“絶望”そのものだ。
 
 彼女は理解してしまったのだ。
“本当の朱点童子”が誰なのかを。
 

 露知らず。

黄「さぁて、久しぶりのボクの身体だ。使い心地をまずは思い出さなきゃねぇ」
 
 黄川人は無邪気に笑い、役者のような芝居がかった所作で手を掲げた。
 滑らかで艶やかな細長い指を、ゆっくりと握り込む。
 遥か上空で、なにかが炸裂する音が響いたような気がした。
 すると、その途端だ。
 まるで目を覚ますかのように、朱点閣が震動を始めた。
 
 誰よりも早く動いたのは、福助。彼は事態の把握よりもその収拾を図る。
 黄川人に薙刀を突きつけ、詰問する。

福「……何をした」
黄「アハハ、そんなに怖い顔をしないでよ。ちょっとした“準備運動”だってば」
 
 首筋に刃を押し当てられながらも、黄川人は涼しげに福助を見やる。黄川人はいつの間にか、桃色の狩衣をまとっていた。
 気絶している真琴と錯乱状態の晴海は、きっと牽が守ってくれている。だからこそ、福助は踏み込んだ。薙刀を振るう。しかし手応えはなく、刃は空を切った。
 黄川人は空中に浮かび上がっていた。袖を羽ばたかせながら、優雅にこちらを見下ろしてくる。

福「貴様……!」
黄「実を言うとね、君たちには感謝しているんだ。なんせ、あんな図体がデカいだけの鬼の中にいつまでも閉じ込められたまんまじゃ、なにひとつできないからねェ」
 
 もう薙刀は届かない。その間にも、朱点閣の揺れはますます強くなってきた。埃が落ちてくる。いずれこのままでは、建物が崩壊してしまうだろう。
 
黄「ククク、アハハ! ボクは都の人間たちを絶対に許さない。これから始まるのは、人類の終焉だ。これからが復讐の本番さ! アハハハ!」
 
 そこにいるのはもう、大江山の麓で言葉を交わした少年ではない。

 鬼たちの総大将にして、百鬼夜行を率いる者。
 十万の人間の殺意と怨恨と憎悪をひとつの身体に押し込めた化け物。
 都を呪い、天の神々をも震え上がらせる死の皇子。
 
 ――朱点童子・黄川人――

 
黄「一人残らず、皆殺しにしてやる! 一人残らずだよ! アハハハ、アハハハハハ!」

 黄川人の笑い声とともに、朱点閣を支えていた柱のひとつが崩れ落ちた。
 新たな朱点童子は浮かび上がり、虚空に描かれた魔法陣の中に吸い込まれるようにして消えてゆく。
 天井は今にも落ちてきそうだ。黄川人を追っていた福助は諦めて転進する。
 
福「くそう! 手詰まりだ! 今は早くここを出よう!」
牽「ああ、僕は真琴を連れていく!」
 
 双子は得物も放り出して、それぞれ走り出す。精魂尽き果てて今にも倒れそうだとしても、彼女たちだけは守らなければならない。
 だが、足を進めた直後だ。福助の行く手を崩れた柱が阻んだ。反射的に手を伸ばすが、晴海に届くはずもない。
 
福「しまった、晴海さ――」
 
 叫ぶが、呼号は届かず。粉塵が辺りに立ち込めて、前も見えない。
 福助は顔を覆いながら倒れた柱をよじ登る。もはや飛び越えるだけの体力もなかった。
 柱の上に立つ。晴海がいるはずの場所に、天井の一部が落下してゆくのが見えた。
 
福「晴海いいい――!」
 
 
 
 
 天井が落ちてくる光景も、晴海にとってはヴィジョンのひとつでしかなかった。だから、それが現実だと気づくのが、少し遅れてしまった。
 瞳の奥で見た光景と同じように、自分もまた、死んでいった一族のひとりと同じようになるのだと思った。
 全てがゆっくりと流れてゆく。
 死は無価値だ。死はありふれていた。
 誰もが朱点童子・黄川人に挑み、死んでいった。何百人、何千人もの同胞が短命の呪いによって命を落としていったのだ。今さら、自分の死など――
 
 誰かに強く押されて、晴海はその場から弾き出された。落下した天井は先ほどまで晴海が座り込んでいた場所を、轟音とともに押し潰す。
 受け身も取れず、無様に転がった晴海は、力なく身を起こす。霞んだ視界で、見やる。
 武士だ。
 その男の名を、晴海は知っている。
 覚えている。
 
晴「……いさお……?」 

 高辻勲だ。 
 少しずつ、思い出す。
 彼は城の外で待っていたはずの勲だ。それなのに、どうしてここにいるのか。
 どうして、自分を助けたのか。
 
勲「朱点閣が崩れるのを目にしてな……なにがあったのかと加勢に来たが、このざまだ……」
晴「……」
 
 記憶が混濁する。
 
晴「どうして、あんなことを……」
勲「……晴海?」

 胃の奥がぎゅるりとねじれた気がした。
 晴海は這い、伏せたままの勲に迫る。

晴「なんで、人をあんなに殺していったんだ……あんな小さな、赤ん坊まで……!」
 
 晴海は泣いていた。
 初めはそれが何のことがわからず、突然の言葉に勲は面食らったようだ。
 だがすぐに、苦虫を噛み潰したような顔をする。

勲「……あれは、戦だったのだ。俺たちは武士だ。ならば、やらなければならないことがあった……」
晴「だからって、やりすぎだ……あんなの、あんなの……!」

 晴海は見たのだ。
 勲がかつて凶状に手を染めたその瞬間を。
 大江山京で行なわれていたのは、戦とも呼べないただの虐殺だった。
 
勲「わかっておる。源太も、捨丸も死んだ。もう皆、死んでしまったのだ。あの朱点童子を生み出したのは、まさしく俺達だ……俺も、償いをする」
晴「……勲、って、お前……」
 
 濃い塵埃が、次第に晴れてゆく。
 そして気づく。勲は瓦礫の下敷きになっていたのだ。晴海は呆然とした。勲の腰から下は、完全に埋まっていた。潰れているのだろう。
 
晴「今、助けて――」
勲「……いい、俺は助からん……」
晴「諦めるなよ! だって、晴海たちだって!」
勲「お前たちは、生きてくれ……この先も、ずっと……」
 
 勲は嘘のように穏やかな顔をしている。
 どうして。
 
勲「源太とお輪の仇を討ってくれて……かたじけない……」
晴「やめろよ、なに勝手に、納得して……」
 
 晴海は大粒の涙をこぼす。
 あまりにも多くの人々の死を目撃したため、もうなにがなんだかわからない。それでも知人を失うのはまっぴらだった。
 しゃくりあげながら、勲の手を掴む。
 引っ張ろうと力を込めるが、力が入らない。指が血で滑る。

晴「まだなにも、なにも終わってないんだ……これからなんだよ、勲……! 今、始まったばかりなんだ……! いやだ、そんな……」
勲「……れの……を……」
 
 勲の言葉は、そこで途切れる。
 彼はもう、なにも言わなかった。
 握り締めた手は力を失い、晴海は呼吸を止める。

 
 そこに福助がやってくる。

福「晴海さん! 無事か!」
晴「……」
福「今すぐに脱出を――」
 
 晴海の横顔は、まるでたった一晩でなにもかもを失った戦争孤児のようだった。
 遅れて、福助が気づく。勲が倒れている。
 その様子を見て、福助もまた、言葉を失ってしまった。
 晴海の声は、震えていた。

晴「勲が、晴海をかばって……だから、勲が……」
福「……今は置いていこう」
晴「そんな、どうして……福、一緒に……」
福「晴海さん、少しじっとしていてくれ」
 
 福助は強引に晴海を担ぎ上げる。晴海は抵抗しなかった。
 彼女の体温は暖かい。そうだ。晴海は生きている。今ここで、生きているのだ。

福(こんなことで、満足していられないんだけどさ……!)

 泣いてしまいそうだった。福助は強く目元をこする。強く。
 真琴を背負った牽が、大声で福助たちを招いていた。
 脱出した直後、朱点閣は凄まじい音を立てて崩れ落ちる。それはまるで、一匹の鬼の断末魔のようだった。

 
 
 その後、武士たちと合流してから、荒神橋一族は大江山を下った。
 彼らの足取りは、鉛の手足を引きずるようだった。
 
 決意し、合流し、山を登り、戦い、斬り。
 託されて、説得し、戦い、果たし、そして失った。
 
 本当に、色々のことがあった一ヶ月だった。
 本当に。
 
 
 本当に――
 
 
 
 
 
 ~
 
 
 
 
 
 荒神橋家にて、縁側に座って大江山の方角を見守っていたイツ花は、七色の輝きが天高く昇っていくのを見た。

イ「まぁ……あれは……」
 
 歓喜の声を漏らす。
 きっと、出陣した荒神橋一族は成功したのだ。
 彼らは勝ったのだ。
 遠い地にいる家族の無事を祝い、イツ花は手を叩いて喜ぶ。
 
イ「エヘヘ……これは、うーんとごちそうを用意して、待ってないといけませんね」
 
 顔をほころばせながら、イツ花は屋敷の中へと引っ込んでゆく。
 鼻歌を口ずさみながら、幸せそうな顔。
 踊るような足取りで――
 
 
 
 
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by RuLushi | 2012-09-03 07:56 | 三代目当主・晴海