ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年11月第7編
 

 朱点童子

 
 その鬼は元々、体が丈夫なだけの平凡な鬼だった。
 森に棲み、時折迷い込んでくる人間を食らうだけの生き方をしていた。

 だというのに、運命が鬼をねじ曲げる。鬼が××××により妖力を手にした結果、岩が転げ落ちるように鬼たちの頭領――大江山の主に収まったのだ。
 捻転した定めの中で鬼は、自らがいずれ確実に殺されるであろうことを、知っていた。なぜならその命を狙うのは、人間だけではなかったからだ。
 鬼は恐怖していただろうか。否、それでも鬼は逃げ出さず、人々をあざ笑うかのように大江山に棲み、都を見下していた。
 半ば、幽閉されているような身だが、胡蝶の夢のように一時の力に溺れていたのだ。
 鬼は嗤っていた。虚無的な笑顔が、そこには張り付いていた――



 
 ――ずきりと晴海のこめかみが痛む。
 実際の視界と、幻影が入り交じって、遠近感を見失ってしまいそうになる。

晴(なんだ、これ……くそっ、こんな大事なときにも……!)

 朱点童子の内情など、今はどうでもいいことだ。
 柱の間を潜り抜けるように、晴海は朱点閣の広間を駆け抜けていた。時折、後ろから強烈な風が吹きつけてくる。大敵の拳圧だ。
 一拍遅れて、朱点童子が追いかけてきている。腕を振り回し、柱を砕きながら、だ。その大きく広げた手のひらは、晴海の全長ほどもある。
 
晴(こりゃあ、捕まったらおしまいだな……!)

 腕力比べをする気は、毛頭なかった。
 走り抜けた一瞬、柱の影から真琴の姿が見えた。彼女は今、全ての力を己の両腕に集めている。そこには牽と福助もいて、一心不乱に<武人>を唱え続けているだろう。
 
晴(とにかく、晴海が時間を稼ぐから――)
 
 気配を感じて振り返る。庭石のような大きさの瓦礫がこちらに飛ばされていた。朱点童子が蹴り上げたものだ。さすがに受け止めきれないだろう。晴海は右方の空間に飛び込んで避ける。
 誘い込まれた、と感じた。目の前には、朱点童子の拳。

朱点「いっちょ上がりィ!」
晴「――!」
 
 横腹に、めり込む。
 骨の砕ける嫌な音が、くの字に折れた体の内側から響いてきた。
 吹き飛んだ先で、かろうじて着地。だが、晴海の意識の縄が千切れ、“今”という感覚は雲散霧消してゆく。
 食いしばれ、と晴海の中の晴海が叫ぶ。
 今ここで眠ったら、きっともう起き上がれないことを、彼女は知っていたのだ。
 
 
 ~
 

<朱点閣>
 
  
 暗がりに青い炎が灯る。朱点童子と思しきものは、ねぐらに横になっていた。
 荒神橋一族に気づいて、鬼はあくびを噛み殺し、身を起こす。ぎょろりと開いた目は、まるで獣のようだった。
 
 でっぷりと太った腹を揺らし、朱点童子は寝具に腰掛けた。赤黒い肌は爬虫類のようにひび割れている。頭から突き出ているのは、正面と左右から牛のような角が三本。人のなりかけのような、人の成れの果てのようなその姿は、見るものに強い嫌悪感を抱かせるだろう。
 怪物。それが大鬼を見たときの最初の印象だった。
 朱点童子は頬杖をつきながら、人ひとり丸呑みにできそうな大口を開く。
 
朱点「おっとォ、下が騒がしいと思ったら、おまえらの仕業かい」
 
 その見た目に反して、粘りつくような喋り方だ。まるで人間の嫌な感情だけを煮詰めたような声をしていた。 
 
朱点「ククク、誰も俺を訪ねてくれねェから、みんな忘れてたのかと思ってたゼ……グヒヒヒ」
 
 福助や牽は、あのおぞましい鬼と言葉を交わす気はなかった。鬼に恨み言を述べるのは完全に無駄だろうとすぐに悟れたし、それよりは今すぐにでもその肉を叩き切りたいのが本音だ。
 しかし晴海はそうではないようだ。
 彼女は物言いたげに、じっと朱点童子を見つめている。白い息を吐いた。
 
晴「お前が、晴海たちのご先祖さまの仇なのか?」

 朱点童子は嬉しそうに片目を閉じた。餌を前にした豚のようだ。

朱点「ンン? その額の光は……まさか、あの時のガキかァ? まさか……ははあ、そういうことかァ、合点がいったゼ」
晴「……」
朱点「おめェらも俺と同じってこったよ、アハハハ!」
 
 牽は己の身体を見下ろす。怪訝そうな顔で、首をひねる。

牽「太ったかな、僕も」
真「そっくりです」
 
 きっぱりと真琴。牽は「えー!」と悲鳴をあげた。
 
 晴海は朱点童子を見据えたまま、一歩詰め寄る。
 すると鬼は、大仰に「ひい」と笑いながら叫んでみせた。
 
朱点「オイオイ、まさか俺を倒すつもりか? そいつはオススメしねェゼ。今よりもずっと辛い目に合いたくないんだったらな……グヒヒ。こいつはてめェらのためを思って言ってやっているんだからなァ?」
 
 なにがおかしいのか、鬼は無知な童子をコケにするように、げらげらと笑う。
 朱点童子が一体なにを言っているのか、わからない。
 だが所詮は、鬼の妄言だ。これ以上の会話に意味などない。
 
 福助が晴海の肩に手を置く。
 
福「もういいだろう、晴海さん。無駄だ」
 
 晴海はちらりと自らの右手に視線を落とす。当主の指輪を見てから、顔を上げた。わずかな苛立ちと、戸惑いが浮かんでいる。
 
晴「……ああ、そうだな」
 
 布陣は、当主晴海がひとり前列。そして三人が後列。剣を抜き、薙刀を構えて、拳を固める。真琴ひとりは大きく距離を取った。
 高ぶる殺意を感じ取ったのか、朱点童子は笑うのを止める。

朱点「来るかい? そう簡単には、俺も負けはしねェよ」

 朱点童子は腹を叩く。ぶよんと肉が揺れた。晴海は嫌忌の念を募らせる。

晴「晴海たちもだ。ここに来るまで、一年半もかかったんだ。もう誰も死なせるわけにはいかない」
朱点「なら決まってるよなァ? 俺はどんな手を使ってでも生き延びてやるゼ……たとえそれが、俺みてェなモンの命でもなァ!」
 
 朱点童子が立ち上がる。四股を踏むように大股を開き、腰を落として深く構える。口から漏れる吐息に、黄土色が混ざった。

 晴海もまた、掲げた拳を朱点童子に突きつけて、大呼する。
 
晴「荒神橋一族の力! 見せてやる!」
牽「ああ!」
福「無論だ」
 
 牽と福助が後に続いた。


  
 先手、大胆にも晴海は階段を駆け上り、朱点童子の懐に飛び込む。
 加減などしていられない。満身の力を振り絞るのだ。
 
朱点「細っこい嬢ちゃんだナ、握ったら思わず潰しちまいそうだゼ!」
 
 朱点童子は反射的に晴海を払いのけようとしてきた。迫る手に向かって、さらに加速する。背後を豪腕が通り抜ける中、晴海は朱点童子の腹に蹴りを入れた。ダメージなどない、牽制の一打だ。見上げれば、朱点童子はにたりと笑っていた。その笑みに、思わず根源的な恐怖が湧き上がる。
 まるで鬼ごっこのように、朱点童子は右から左から腕を伸ばしてくる。それらを晴海は悠々と、時には紙一重で避けてゆく。掴まれたら最後、の覚悟とともに。
 
晴「ふっ……はぁっ……」
 
 汗が飛び散る。朱点童子はまだまだ遊びのつもりだ。ふたりの動きはまるで、壇上で舞を踊っているようだった。
 晴海は飛び上がり、顔面に回し蹴りを叩きこむ。それも、ただ当てるだけだ。反動で後ろに跳ねると、朱点童子の腕が追いかけてきた。目と目が合い、晴海は理解する。鬼は最初から脚撃を食らうつもりで間合いを詰めてきたのだ。避け切れない。
 丹田に力を込めて、晴海は石畳を蹴り砕くような威力で踏み込む。同時に両手を前に付き出した。最速にして最小の動きによる、発勁だ。溢れ出た神気が、稲妻のような光を放つ。朱点童子の拳を晴海は迎え撃った。
 肩を撃ち抜かれたような勢いで手を弾かれて、朱点童子は態勢を崩した。さしもの鬼も身構えるが、荒神橋の拳法家は追撃せず呼吸を整えている。
 
朱点「ほーォ……やるじゃねェか、こいつァ、俺も燃えてきたぜェ!」
 
 朱点童子は目を細めて拳を固めた。今度こそ、殺すつもりで来る。
 晴海は半身に構えて、後方を見やる。牽と福助、真琴が一箇所に固まっていた。朱点童子は晴海の狙いに気づいているだろうか。今のところ、その様子はない。
 三人は今<武人>によって、力を高め続けている。彼らの準備が整うまで時間を稼ぐのが、晴海の役目だった。
 身軽さなら、誰にも負けない。牽や福助より体力だって高い。この役目にうってつけなのは、自分なのだ。そう信じている。
 だが――

晴(できると思ってたけど、あんまり持たないかもな……)
 
 先ほどの相打ち気味の発勁により、肘から先の感覚がなくなっていた。強い痺れがいまだに取れない。朱点童子の身体は見た目よりもずっと重い。一体なにが詰まっているのか。
 それならと、晴海はステップを刻み始めた。
 
晴「いいぜ、朱点童子……だったら足で勝負だ。この荒神橋当主、三代目瑠璃を捕まえてみろよ」
朱点「ククク、何考えているんだか知らねェが、ちょっとは付き合ってやろうじゃねェか。俺は慈悲深いからなァ! グヒヒヒ!」
 
 晴海は朱点童子の横から回り込むようにして、駆け出す。
 引き離さず、かといって追いつかれず、その死線を見極めなければならない。
 
晴(大丈夫だ、できる、できる……晴海には、この指輪が……瑠璃ちゃんと、父ちゃんが、ついているんだから……!)
 
 晴海の首筋を汗が流れ落ちた。
 
 
 ~
 
 
 晴海に朱点童子の巨大な拳がめり込む様を、離れた場所から見ていた。
 福助たちは術の詠唱中のため、その場から動けない。しかし、一刻も早く手当をしなければ、戦線が崩壊するだろう。
 いち早く<武人>を唱え終えたのは、牽。刀を抜いて朱点童子に迫る。続いて福助も駆け出し、真琴はその場に待機した。
 
 牽が前衛に躍り出て、朱点童子と切り結ぶ。一方、その間に福助は晴海の元に駆けつけた。
 晴海は半分意識を失いながらも、朱点童子の攻撃を避け続けていたためか、福助が近寄ると糸が切れたように動かなくなった。
 福助は<お雫>を唱え出す。しかし、その間の時間稼ぎが必要だった。
 牽はどうにかして耐えている。だが、晴海と違って彼は受け止めるか捌くかの剣士だ。朱点童子が相手なら、その強力な攻撃力の前にいつ崩れてもおかしくはない。
 当主と、父の危殆。
 そして、全滅の危機。
 
 
 となれば――
 
 
 遠く。
 真琴は矢を番える。
 
真(ウチがやるしかないって言うんでしょう……! やってやります、やってやりますとも……!)
 
 身体が勝手に動いていた。覚悟は後ほど決まる。
 あれほど泣き言を言っても、勝手に期待されて。
 それでもまだ無視を決め込めるほど、真琴は面の皮が厚くはなかった。

 真琴の身体を流れる尊き血の循環が加速してゆく。身体が熱くなり、その目が色濃い赤に染まった。
 魂の芯から、炎が湧き上がる。右腕から、吹き上がる。
 思うがままに、放つ。


 ――連弾弓――

 
真「ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
 
 その矢は翠の光をなびかせながら、空間を引き裂き、凄まじい速度で朱点童子に迫る。
 第一射が、朱点童子の側頭部に命中し、
 爆ぜた。
 
 
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by RuLushi | 2012-08-29 00:04 | 三代目当主・晴海