ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年11月第5編
 
 
 雪の降り続ける呪殺の碑を抜けると、荒れ果てた朱雀大路にも終わりが見える。
 そこから先には、もう崇奈鳥大将や雑兵はいない。
 
 朱点閣去る橋。
 それは深い堀で囲まれた朱点閣へと続く、唯一の道だ。
 
福「あれは、人……?」
 
 見つけて、駆け寄る。
 橋の前に突っ伏して倒れている武士がひとり。その横に、廃屋にもたれかかってうなだれた武士がひとり。さらにうずくまって動かない武士がひとりいた。
 きっと勲とともに出陣した武士たちだ。たった四人で崇奈鳥大将の陣を抜けてきたのだ。人の身では並外れた強さに違いないだろうが、ここまでやってきて力尽きてしまったのだろう。
 かろうじて息はあるようだ。荒神橋の面々がそれぞれの男たちに回復術を施してゆく。
 
 少し離れた場所に、見覚えのある胴丸を身につけた男がひざまずいていた。足跡のように真紅の雫が垂れている。
 高辻勲だ。
 彼の元へと急ぎ、晴海は手を伸ばす。

晴「勲、生きていてくれたか」
勲「……これは」
 
 うっすらと目を開く勲。呼吸は荒い。<太刀風>にやられたのか、全身が刀傷だらけだった。
 血走っていて、濁った瞳で晴海を見つめる。そうして、驚きの表情を浮かべた。
 もしかしたら、こんな粉雪の舞う地獄のような場所で、女神が“迎え”に来たのかと思ったのかもしれない。
 勲はすぐに目の前の光景が現実だと気づいた。そうして、うめきながら身を起こす。

勲「荒神橋の瑠璃か……? よくぞ、ここまで……」
晴「じっとしててくれ。<お雫>を唱える」
 
 晴海が屈んで勲の傷口に手を当てる。淡い水色の光が浮かび上がった。雪に反射して、辺り一面が湖中のような揺らめきに包まれる。
 勲は自分や仲間たちが癒されている光景を、ぼんやりと眺めていた。
 その間、なにを思っていたのだろうか。


 手当を済ませた荒神橋一族は、勲の元に集まる。

晴「これで、しばらくしたら動けるようになるはずだ。直哉や絹が心配していたんだぜ。ここから先は、晴海たちに任せてくれよな」
勲「……あやつらが?」
晴「ああ、あんたが死ぬつもりだって言ってたぜ。実際のところはどうか知らないけど、命は粗末にするもんじゃない。あんたを待つ人は多いんだろう。だから――」
勲「――だから、だと」

 晴海の言葉が、勲を突き動かす。
 少女の手を、しがみつくようにして男が掴んだ。
 まるで執着のごとく。

勲「あのときも、源太とお輪はそう言っていた……そして、帰って来なかったのだ……!」
 
 晴海の細い腕を掴む勲の力は、深手を負っているとは思えないほど強い。
 健康度も相当下がっているはずだ。それでも、彼には進まなければならない理由があるのだ。

勲「俺は、ともに行くことができなかった! ならば、今こそ、あやつらの仇を……! それこそが、俺の使命だ! そこをどけ、荒神橋瑠璃! 俺の刀はまだ錆びてはいないぞ!」

 晴海には一瞬、勲の顔が修羅に見えた。
 
 その言葉に福助は強い反感を覚えていた。それはむざむざと命を投げ捨てる行為だ。だが、それは彼もわかっているのだろう。
 ならばどうすればいいのか。福助にはわからなかった。その気になれば、力づくで止めるしかないだろう。
 そのときだ。
 あれほど強く掴まれていたというのに、晴海は勲の腕を簡単に振り払った。ほんの些細な動きで、まるでホコリを払うように。
 勲の顔に衝撃が走ったのを、福助は見た。
 
晴「どこからどう見ても、あんたは限界だぜ。ここから先に進むのは、無駄死だ」

 支えを失った勲は、その場に尻もちをつく。
 それでもなお、猛りは止まぬ。

勲「だとしても、俺は……! せめて一太刀浴びせるまでは、死なぬ……!」
晴「そんな重体の体で、一撃で朱点童子を倒すのか? 朱点童子はそんなにヤワなやつじゃないだろ。悪いが、晴海は無理だと思う」
勲「手当をしてくれたことは、礼を言おう……だが、これは俺の意地だ! ようやくここまで来ることができたのだ!」

 よろめきながら立ち上がる勲。彼を見上げながら、晴海は告げる。

晴「意地、か。くだらないぜ。そんなのは犬にでも食わせてやれよ」
勲「小娘――」
 
 刹那、勲の体から威圧感が放たれる。それはとても半死半生の男のものとは思えなかった。事実、戦慣れした荒神橋の男たちですら身を竦めてしまったのだ。
 だが、晴海だけは微動だにしなかった。白く染まった前髪の房を揺らしながらも、彼女は超然としていた。
 
晴「勲。あんたはこの戦いに命を賭けているんだな」
勲「無論だ。俺の死に場所は、大江山だと決めていた。かつて、この都を攻め落とした時から、これが俺の定めであったのだ……!」
晴「そうか。なら、やっぱり譲れないぜ」
 
 晴海はうつむき、深く息を吸い込んだ。それから、勲を見つめる。
 
晴「あんたは命を賭けているかもしれない。だけどな、こっちは“人生賭けてる”んだ」
勲「! それは、」

 勲は二の句が継げない。
 齢一才未満の子供が放ったとは思えないほどの、その重み。
 
晴「復讐がくだらないなんてことは言わないさ。荒神橋には復讐しかない。晴海はそのために生み出されて、今ここにいる。あんたには、家族もいるだろう。仲間も、友だちも、慕ってくれる部下たちだっている。ご先祖さまとの思い出だってある。だけど、晴海にはなにもない。なにもないんだ」
 
 それは勲を言いくるめるための方便であったのだろうか。
 ただ、後ろでその言葉を聞いていた牽や福助が唖然としたのも、事実だった。
 まるで降り積もる雪のように淡々と、淡々と晴海は語る。

晴「ここで朱点童子を倒して、ようやく晴海たちは人間になれる。生まれ変わるんだ。晴海たちは生きるために、ここにやってきた。なあ、勲。無理にとは言えないけどさ、生きてくれないか? きょうは、荒神橋一族の記念日なんだ」

勲「……荒神橋、瑠璃」
 
 風に吹かれて、晴海の前髪が揺れる。純真な少女の瞳に、勲の顔が映った。
 彼の表情はまるで、娘に叱られている父親のようだった。
 
晴「それに、せっかく晴海たちのご先祖様を知っている勲と知り合うことができて、ここであんたを亡くしたら、今度は晴海たちが叱られちゃうぜ。そんなのは嫌だ。晴海は、瑠璃ちゃんと父ちゃんに、“よくやった”って褒めてほしいんだ。頼むよ、勲」

 ここにいる女は一体誰だろう、と。真琴はそんなことを考えてしまった。
 晴海はこんなことを言えるような娘ではなかったはずだ。少なくとも、出陣の前は自分はそう思っていた。

勲「瑠璃……いや、晴海殿」
晴「別に、呼び名はどっちでもいいぜ。瑠璃ちゃんの名前で呼ばれると、ちょっと気分がいいんだ」
 
 屈託なく笑う晴海に、勲は突然頭を下げた。あまりにも急だったため、倒れるのかと思って晴海が手を差し伸べたほどだ。

勲「源太を死なせてしまって、すまなかった。本当はもっと、早くに言うべきだった。初代の瑠璃殿が、逝ってしまう前に……」
 
 そのときの勲は、壮健な武士だった頃の面影もなく。崩れ落ちそうな、ただひとりの男だった。
 ずっと、ずっと口には出せなかったのだろう。
 晴海が彼の肩を叩き、頭を上げさせる。友人を迎えるような笑顔がそこにあった。
 
晴「いいさ。帰ってきたら一緒に、酒でも酌み交わそうぜ」
 
 その言葉に、しばらく勲はなにも言い返せず。
 やがて傷が癒えた武士たちが彼のもとに集ってきたところで、別れの言葉も口にせず背を向けて。
 それから、ようやく、発した。

勲「そうだな。そうしよう。それがいい」

 
 
 こうして、勲たちは橋の手前に残ることになった。
「後ろから崇奈鳥大将が迫ってきたのなら。一匹残らず叩ききってやる」との宣言とともに。
 彼らの姿が見えなくなってから、真琴がため息とともにつぶやく。

真「頼もしい限りですね、本当に」
牽「やかましいって」
真「いたっ」
 
 牽に頭をこづかれて、恨めしそうに睨む真琴。
 一方、福助は晴海を改めて敬する。

福「すごいな、きみは。僕だったらああはいかなかった」
晴「おう? 別にそんな、晴海はただ、思ったことを言っただけだぜ」
福「たまには、もう少し自覚してほしいと思うときがあるよ」
晴「なにがだ?」
 
 福助は肩を竦めて足を進める。
 一歩、さらに一歩。
 
 まるでそこに線引きがしてあったかのように。
 踏み越えてはいけない境界に足を踏み入れてしまったかのように。
 巨大な門が、ゆっくりと開いた。

牽「入ってこいっていうことかな」
福「その前に、出迎えがあるようだよ」
 
 暗がりから、まずは足が出てきた。
 そのあまりの巨大さに、冗談かと思う。仁王門の鬼より二回りは大きい。
 続いて、巨大な剣。長大な槍。さらに杖と、術法で作られたと思しき投輪が見える。現れたのは、四本の腕を持つ大猿の化け物だった。
 大陸のものに似た甲冑を装着した鬼は、元々は神格の高い神であったのかもしれない。だが今はその名残もなく、知性のない目には殺気が満ちていた。

晴「こいつ……」
 
 晴海には、やはり見覚えがある。
 いくつもの一族が戦い、あるいは敗れ、打ち倒して先へと進んでいった。
 奴の名は、石猿田衛門。
 ――朱点童子へと続く道を阻む、最後の障害だ。
 
真「う、わー……つ、強そう……」
 
 真琴は明らかにたじろいでいた。
 人を殺すための四種の得物を構えた鬼は、これまでにはない威圧感を放っている。
 憤怒の表情は、まさに鬼気迫る。
 今からこの相手と戦い、勝利をしなければならない。それでいてなお余力を残し、朱点童子を打倒するのだ。
 それがどれほど難しいことか、わからない。まだ実現できたものはいないのだ。
 それでも――

晴「ひとつひとつ邪魔なものを突破して、それでここまでやってきたんだ。あとたったひとつ。それなら、すぐだ。あと一歩なんだぜ」

 晴海は太陽を仰ぐような表情をしている。
 精気は満ちている。
 粉雪はもう止んでいた。

晴「ならむしろ、願ったり叶ったりじゃないかよ!」

 晴海は構える。
 牽や福助も同様に、真琴はおっかなびっくりと。

 橋の上の戦いが、今始まる。
 
 
 
 雪が止んだのは、荒神橋一族にとっては幸運である。
 火炎の術の威力が減衰せず、十割の威力を発揮できるようになったからだ。

福(<花乱火>の併せが通用しない敵には、真琴さんを出すしかないからな……)
 
“奥義”の威力は凄まじい。だがそれは、限界を越えた力である。使用者にとてつもない反動をもたらす。真琴の身では、とても連発には耐えられないだろう。
 せいぜい二発か三発。それ以上は命に関わる。そうでなくても、奥義を使わずに済むならそれに越したことはない。

晴「まずは試してみるぜ……<花連火>!」
 
 晴海が放った火の球は、猿鬼の腕に命中した。
 いくつかのダメージを与える結果に、晴海は手応えを感じる。<花乱火>の低級術にしては、十分な威力だ。
 続いて、真琴は迷った挙句、自らに<武人>をかける。

真「戦闘中には、ウチはなるべく自分の強化を……ですね」
 
 本当なら好ましくないことだが。攻撃力を高めて、機を待つのだ。
 次順は、牽。

牽「じゃあいくよ! <花乱火>詠唱、開始!」
福「よし、牽、併せるよ」
 
 すかさず福助が印を結ぶ。
 双子の詠唱が朗々と響いている中、ついに石猿が動いた。
 俊敏ではないが、歩幅が大きいため、あっという間に回りこまれてしまう。
 
福「なっ」
 
 ひとり前衛の福助が驚愕する。
 石猿の攻撃は後列を狙ったものだった。
 鬼の剣はひとかたまりとなっていた牽、晴海、真琴をまとめて薙ぎ払う。
 
牽「ぐっ」
晴「避け切れない!」
 
 牽と晴海は急所をかばいながらも、それぞれに裂傷を負う。この程度の攻撃では、戦闘継続に支障はない。
 ところが、だ。
 真琴ただひとり。彼女はたったの一太刀で、体力の半分以上を奪われていた。

真「いっ……たぁ…………」

 左腕を抑えて、真琴はその場にうずくまる。おびただしい血が流れていた。
 巨大な中華刀の一撃をまともに浴びた少女は、あまりの痛みに叫び声も出せなかった。
 
晴「真琴!」
 
 慌てて駆け寄り、晴海は<お雫>を唱えようとして気づく。
 真琴はすすり声をあげていた。
 泣いているのだ。
 気丈な真琴が、たったの一撃で。
 晴海はその有様に、ひどく衝撃を受けてしまった。
 
晴「ま、真琴……」
真「……うっ……ううっ……いたい……」
 
 これほどの威力の攻撃を受けたのは初めてだったのだ。一度の<お雫>で体力も万全には戻らないほどの深手だった。
 徐々に痛みが収まっても、しばらくの間、真琴は錯乱状態にあった。
 どうしてこんなところにいて、どうしてこんなにつらい目に合わなければならないのか。
 何度も「痛い」と口にしながら、真琴はただただ、己の運命を嘆いていた。

牽「やろう、よくも僕の娘を! 消し炭にしてやる!」
 
 距離を取った石猿に、ようやく<花乱火>の併せが放たれた。牽と福助の猛火は猿を焼き尽くす。辺りの雪が蒸発し、一瞬にして霧へと変わった。
 720ダメージ。半身の焼き爛れた石猿田衛門は一際高く鳴く。腕の何本かがまともに動かなくなったようだ。
 福助は再び併せに入る。
 仲間を守るためにも、一刻も早く、この猿鬼を始末しなければならない。気が急く。
 

 真琴は防御の態勢を取っている。
 同じだ。またお業のときと、同じ。ただ怯えているだけだ。
 決意したところで、この程度だ。このザマだ。
 流れる涙は、痛みか、悔しさか、怒りか、はたまた恐怖によるものか。

真(ウチは……――)
 
 彼女に、影が落ちる。誰かの疾呼が聞こえた気がした。
 顔を挙げる。眼前に石猿が肉薄していた。
 涙が止まる。
 大鬼の持つ槍の穂先はまっすぐにこちらに向かってきて。
 
真(――) 

 脳裏が真っ白になる。

 真琴は身を屈めて、祈った。
 祈ることしか、できなかった。
 
 
 
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by RuLushi | 2012-08-18 10:50 | 三代目当主・晴海