ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年11月第4編
 
 
 仁王門をくぐり抜けたところには、かつて人々が住んでいたであろう町が広がっていた。
 人の歴史から隠されたその都を、大江京と呼ぶ。
 
福「……」
 
 立ち並ぶ民家の老朽化は激しく、まるで辺り一面が廃墟のようだ。

牽「この都が攻め滅ぼされたのは、何十年も前ではないって話だったけど……その割には、どっこもボロボロだね」
真「ひっ」
 
 歩いていた真琴が短い悲鳴をあげて、足を引き寄せていた。鬼にでも襲われたのかと皆が注目すると、真琴は地面を指差す。

真「ひ、人の骨……」

 そんなものはとうに白骨城で見慣れていた。だが、その量が場違いなほどに多い。中にはまるで骨塚のように積み上げられているところもあった。

福「……ずいぶん、あるね」
牽「そりゃあ大きな戦があったらしいからねえ。なんでもすごいよ。十万もの武士が出陣したって話じゃないか。海をも越えて徴兵されたっていうし、よっぽど大勢が死んだんだろうなあ」
真「うう、やばいやばい……」

 牽の声はまるで物語を読むようだった。真琴が眉をひそめて自分の体を抱く。
 
晴「……」
 
 晴海はまるでなにかを思い出すように、辺りを見回していた。
 雪の降る中、家屋はその爪痕を隠すかのようにひっそりと埋もれている。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。無意識に骸骨を数えながら、なぜだか胸の奥に針で刺すような痛みが収まらなかった。
 
 その時、翼の羽ばたきが聞こえた。
 牽と福助が弾かれたように前を見る。遅れて真琴が弓を構えて、最後に晴海が拳を握り固めた。
 そこにいたのは、これまで数百の鬼を絶ってきた荒神橋一家といえども、脅威に値するであろう大鬼。
 
晴「――崇奈鳥大将」
 
 鎧という名の貝殻に包まれた人間の魂を漁(すなど)る鬼――
 目と目が合った次の瞬間、彼らの表情は歓喜に満ちていた。新たな獲物だ。そのあまりの殺意に、晴海の体が身震いした。こめかみから汗が流れ落ちる。
 鬼たちは屍肉に群がる烏のように、荒神橋一族の周囲を飛び回っていた。この数を避けて通ることは難しいだろう。
 交戦だ。

牽「押し通るよ、真琴」
真「わかってます……!」

 晴海を支えるように、福助がそばに立つ。

福「末通るよ、晴海さん」
晴「もちろんだぜ……!」

 大江京朱雀大路に、一陣の風が吹く。
 まるで刃のように鋭く、不吉な風だ。
 

 ~
 

 人の世には“戦”がある。
 人間と鬼が争うのではなく、人同士が殺し合うのだ。
 それは領土のためであったり、食料の問題であったり、名誉のためであったり、あるいは我欲のためであった。かつて大江山で行なわれた戦は、一体何のためだったのか。
 ここまで人が死んだのだ。それはそれはやむを得ない事由があってほしいものだった。
 しかし――

福(おかしいな)
 
 福助は不穏なものを感じていた。
 強敵、崇奈鳥大将と戦い、休みながらまた戦い、その繰り返しの最中だ。

 おびただしい数の白骨は、家屋の中にも転がっている。それはどう見ても、武士のものではない。
 人の歴史を福助はほとんど知らない。今の帝のことも、なぜ京に都があるのかも知らない。だが、物事の道理なら理解している。
“戦”とは、武士と武士。あるいは貴族と貴族の間で起こるものだ。戦う気のないものを殺すのは、それはただの“虐殺”だ。
 
福(ひとつの都が滅ぼされるっていうのは、どれほどのことなんだ? 同じ人間をこれだけの数、殺すことが許されるってのは、一体どんなことだ……?)
 
 辺りに漂う雰囲気。あるいは疲労感からか、福助は自分の気持ちが沈み込んでいくのを感じた。
 福助は今はまだ人ではない。だが、人になろうと願うものだ。だからこそ、哀しい。人の行ないを俯瞰視点で観測している神の気分だった。
 
真「父サンは気楽そうですけどね」
福「え?」
 
 福助はまるで思考が読まれたのかと思った。だが、座り込んだ真琴は膝の上に手を組んで、そこに顎を乗せながら廃屋を眺めていた。

真「どうして前に攻め込んだときは十万人もいた武士のヒトが、今回は百人にも満たないんでしょうね。千分の一以下て」
福「それは……色んな理由が考えられるだろうな」
真「……」
福「昔はもっといたのだけれど、ほとんどが妖怪にやられてしまっただとか。妖怪は人の手に負えるものではないから、手練だけを送り込んできたのだとか。あとは、そう、招集に応じなかったとか……」
 
 話題に興味があったわけではないのだろう。真琴は相槌すらも返さずに、ぼんやりとしていた。

福「……あるいは、迷宮化した大江山に大勢で挑んでも、はぐれて役に立たないからだとか……」
 
 それならばわかる。数で圧倒することができないのなら、質を揃えるしかない。
 だが、福助にはなにかが引っかかっていた。
 真琴はまだ白昼夢を見ているような顔をしていた。休憩を挟んだことにより、張り詰めているものがぷっつりと途切れたのかもしれなかった。


牽「そろそろ行こうぜ。残りの火が徐々に消えていっている」
福「ん、ああ」
 
 火時計を片手に、牽が近くにやってきた。彼も疲れているのだろう。目の下には大きなクマができている。体感時間はまだ一日も経っていないのに。
 
福「牽、もしかしたら僕たちは、面倒なことに巻き込まれることになるかもしれない」
牽「またいつもの心配性かぁ?」
福「そういうことにしてもらってもいい。この都の惨状には、腑に落ちない点が多すぎる」
牽「といっても、僕たちのやることは変わらないだろ? 朱点童子を倒さなきゃ、呪いが解けないんだ。それからのことは、戻ってから考えようよ」
福「そう、だな……」
 
 牽は正しい。といっても、考えずにはいられない福助の性質が変わるわけでもない。
 四人は路地を出て、再び朱雀大路を行く。



晴「なんだか、さっきより妖怪の数が減ったような気がするぜ」
 
 有寿ノ宝鏡を持つ晴海がつぶやく。

牽「もしかしたら、もう少しで全滅させられたりして」
福「どこかに潜んで一斉攻撃の機会を待っているのかもしれない」
 
 牽と福助が正反対の言葉を口にする。真琴は黙って三人の後をついてきていた。
 牽は斜め上に視点を転じて。

牽「……もう一回、呪いが解けたらやりたいこと合戦でもする?」
福「いや、さすがにもういいだろ」
真「うざいです」
 
 きっぱりと言い切られて、さすがに牽も肩を落とす。
 
晴「いや、待って、みんな」
牽「ほら、僕の提案を快く理解してくれる人だって」
晴「そんなのどうでもいいけど、どうやら生きている人がいるみたいだぞ!」
 
 さらによろめく牽を置いて、三人は足早に歩く。決してそれは牽と距離を取りたかったわけではないはずだ。
 


○「荒神橋一族!」
○「……生きていたのね」
 
 そこは比較的原型を保っている屋敷を借りた、仮の陣地のようだった。門番を務めていたふたりの男女が四人を見て声をあげる。
 男は浅黒の肌をした短髪の剣士。女は打って変わって雪のような色の線の細い薙刀士だった。どちらもまるで元服したばかりの少年のように若い。
 
○「良かった。高辻殿はキミらのことをずっと心配してたんだよ。どうやら、無事みたいだ」
 
 男はホッとした笑顔を見せた。胸元には包帯が巻かれていて、そこに血が滲んでいる。どことなく雰囲気が牽に似ていると、晴海は思った。
 
○「俺は六波羅直哉(ろくはら なおや)。こっちの白いのは、七条絹(しちじょう きぬ)だ。出陣前は名乗る暇がなかったから、改めてよろしくな」
絹「あなたに比べたら、たいていの人は白い方だと思うけれど、まあよろしくね」
晴「荒神橋晴海だぜ。今は、三代目瑠璃を名乗っている」
 
 荒神橋の当主はふたりと握手を交わす。

晴「いや、こっちこそ、みんなの姿が見えなくなったから、どうしたものかと思ってたんだ。生きて会えて、良かったぜ」
絹「……そうね。こんな場所で命を落とすなんて、まっぴらだもの。少しは希望が生まれた、ってことなのかしらね」
 
 絹は薄く微笑む。彼女もまた、手傷を負っているようだ。
 屋敷の中には、まだまだ武士が待機しているようだ。鏡を見れば、それは突入した全軍の四半数にも及ぶ。彼らに声をかけようとしたところで、福助に制止された。

福「……中は見ないほうがいい」
晴「え?」
 
 表情は変わらないが、福助の顔色は急変していた。青白い。
 そうだ。中から聞こえてくるのは、大人たちのうめき声なのだ。
 血の匂いを感じなかったのは、自分たちもまた、血にまみれているからだった。そう思いついて、ゾッとする。
 福助は真琴に少し休むことを薦めてから、直哉に問う。

福「手ひどくやられた、みたいだね」
直「ハハッ、ここまでとは思わなかったよ。合流できたのはこれで全部さ」
福「手当の手伝いをしよう。僕たちは多少なりとも、回復の術が使えるから――」
 
 屋敷に入ろうとした福助を、直哉が止める。

直「いいや、そこまでしてもらっちゃあ、俺が高辻殿にぶっ飛ばされちまうよ。キミたちにはキミたちの役目があるんだろ」
福「それは、違いないが……」
 
 食い下がる福助に、絹が言い放つ。

絹「大丈夫。全員、命に別条はないわ。とりあえず、今はね。長引けばそれもわからないけれど」
晴「そっか……」
 
 晴海は納得できなかったものの、身を引く。絹の目に意思と覚悟が表れていたからだ。彼女が荒神橋一族に求めているものは、そんなことではない。
 
牽「しっかし、あの両仁王を越えてきたのか?」
直「仁王……? もしかして、仁王門のことか? あそこを守る鬼はとてもじゃないが敵わないから、俺たちは別の道を取ってきたんだけど……」
牽「それなら、邪魔だったからぶった切ってきたよ」
直「すげー……」
 
 今度こそ直哉は言葉を失ったようだった。絹は直哉を促す。

絹「ごめんなさいね。武功を自慢し合うより、今はあなたたちに頼みたいことがあるの。急ぎの用よ。ほら、直哉くん」
直「わかってるって。ちょっとは絹子も俺のことを信じてだね……」
絹「高辻殿は、動けないものたちをここに置いて、たったの四人で朱点童子を討ちに行ったの」
 
 絹は自ら語り出す。薙刀を握る手がわずかに震えていた。

絹「きっと、このままじゃあの四人はみんな死んでしまうわ。だから、お願い。これ以上犠牲が出る前に」
直「こんな戦いに参加したんだ、きっと死も覚悟の上に違いないよ」
絹「直哉くん」
直「俺だって、絹子だってそうだ。本当は戦って散ったって構わない。でも、高辻殿は俺たちに『生きろ』って言ったんだ。そんなのまるで、死ぬ奴の言うことみたいじゃないか」
 
 晴海は息を呑む。それから、彼にうなずいた。

晴「わかる」
福「……晴海さん」
晴「そんなのは、残される側の気持ちを考えていない。大馬鹿だ」
牽「晴海ちゃん……」
晴「高辻勲は、晴海たちが連れ帰る。だから、ここで待っててくれ」

 晴海も遺されたものだ。いや、違う。荒神橋一族は皆、同じだ。 
 その思いが伝わったのだろうか。直哉と絹は顔を見合わせて、それから晴海に頭を下げた。

直「高辻殿のこと、頼みました。もしかしたらあの人は、最初からこの山で死ぬつもりかもしれなかったんだ」
絹「最初から、わたしたちも気づいていれば良かったのに……だから、よろしくお願いします」
 
 改めて、晴海はふたりを見返した。純粋な眼差しだ。

晴「任せてくれ」
 
 端で見ていた牽も福助も、まさか彼女が一才にも満たないとは思えなかった。
 晴海はすでに、当主の器としても不足ないほどの少女だ。それほどの貫禄だった。
 


 別れ際に、福助が彼らに「ここでなにがあったか、知っているか?」と尋ねていた。それほど大事な質問のようには思えなかったが、ふたりは答えてくれた。結果、いいえ、だ。
 でも、と絹が付言した。

絹「でも、わたしの父……七条の先代は、とてもひどい戦だったと言ってたわ。あんなのはもうごめんだ、って。それがどうかしたの?」

 福助は「いや」と首を振った。

福「ありがとう。僕たちも十分に休憩できた。先に進むよ」

 わずかな間だが人心地がついて、荒神橋一族の気力は上向いていた。守るべき人たちの姿を目視し、すべきことを為すのだ。



 
 崇奈鳥大将たちを追い返しながら、四人は再び先に進む。
 鬼を避けながら裏通りをゆく彼らは、その“碑”に気づくことはなかった。
 
 憎悪と怒りに満ちた血文字には、禍々しい力が宿る。
 それが鬼を引き寄せ、この地を魔京と化したであろうことは、疑いようもなかった。
 京の中心に屹立した碑石には、こうあった。 

 
復讐を遂げる日まで
 安らかに眠ることなかれ



 まるで呪のような朱文字であった。
 
  
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by RuLushi | 2012-08-10 05:22 | 三代目当主・晴海