ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年9月後編
 
 
 ~~ 


 相翼院に向かう道の途中。ひとり晴海だけが先頭を歩いていたときだった。
 晴海の横に浮遊していたのは、いつか見た朱点童子に魂を囚われた半透明の少年――黄川人である。風と共に現れた彼は、片手をあげて挨拶を交わす。
 
黄「やぁ、こんにちわッ…とね」
晴「君は……、えっと確か、黄川人、だったか?」
黄「覚えていてくれたなんて、嬉しいなァ」
晴「ええ、っと……てッ」

 晴海はこめかみを抑えた。そのときなぜか急に針で刺されたような頭痛が走ったのだ。痛みは一瞬のことで、すぐに去る。今までこんなことはなかったのに、と思いながらも、晴海は改めて黄川人を見返す。
 邪気のない笑顔が、綿毛のように風に揺られていた。
 
 晴海は、彼と面識があった。何度か会ったことがある。以前は父に連れられた白骨城で。最近もまた、白骨城だったような気がする。
 
晴「そういえば、こういうのどかな場所でお話するのは、初めてだな」
黄「そうだねェ。いやあ秋晴れ、きょうもいい天気だね。こんな日はのんびりと木陰にでも転がって、ごろりと寝転びたいもんだけどサ」
晴「……そう、だな」

 黄川人は自らの腕を枕にし、空中で仰向けに横になる。口元は微笑んでいるが、その目は高い空を見上げていた。
 彼は荒神橋一族と同じように、朱点童子によって呪いをかけられている。それは肉体を奪われる呪であった。今の彼は、まるで木っ端のような浮遊霊に過ぎないのだ。
 もしかしたら、生きていた頃を思い出しているのだろうか。今の晴海にはなぜか、その感傷が染み入った。
 
黄「こうして見ると、君やボクはただの子供みたいなのにさ。かたや君たちが朱点童子討伐の任を背負っているなんて、誰が思うだろうね」
晴「そういうものなのかな」
 
 まだ若い晴海には、世俗のことはよくわからない。そういったことは荒神橋家では福助の役目だった。
 
黄「本当に、物事っていうのは見る人によって何もかも違うと思わないかい? ある人にとってはただの童子であり、ある人にとっては京の都の懐刀。そして鬼にとっては、そうだね、猛毒であり、大敵だ」
 
 黄川人はなぜだか嬉しそうに顔を綻ばせた。
 彼は、自らの身体が開放される日をずっと心待ちにしていたのだろう。そして、それを実現できるであろう一族がようやく現れたのだ。今は荒神橋一族を見守るのが楽しくて仕方ないはずだ。
 
黄「というわけで、本日のボクが持ってきた情報は、相翼院の主の話だよ。奥の院に棲むのはね……なんとォ、怪鳥、あるいは天女、はたまた神にも見える鬼が潜んでいるそうなンだ」
晴「……なんだそれ」
黄「さて、なんだろうね。詳しくは知らないけどサ、それは会ってからのお楽しみ……っていうことなんじゃないかな。ハハ」

 その時、晴海の目の裏に情景が瞬く。光の中に、ひとりの女性が横たわっているのが見えた。再び、こめかみに痛みが走る。今度は少しだけ長かった。
 目を閉じて、落ち着いてゆく疼痛に耐えていると、ふいに強い風が吹いた。思わず「わっ」と声が出た。
 晴海が顔をあげて辺りを見渡せば、黄川人の姿はどこにもなくなっていた。

晴「お……?」
 
 残された晴海は、痛みの去ったこめかみを撫でながら、首を傾げてつぶやく。

晴「……あいつ、突風に飛ばされちまったのかな」
 
 
 ~~





<鬼子母の間>

 そこは異様な雰囲気を放っていた。
 床一面に広がるロウソクは、大小無数。合わせて千本以上はあるだろう。立ち上る熱気によって空気が歪んでいて、晴海はまるでこの広間こそが滅びゆく世界のひとつのような無常感を覚えてしまう。
 
晴「なんだ、ここ……?」
 
 近づこうとする晴海の足が止まる。誰かに肩を掴まれていた。福助だ。牽が己の役目を思い出したかのように、晴海の前に歩み出る。
 遅れて、晴海も気づいた。

晴「……あれは……」
 
 ロウソクに取り囲まれるようにして、なにか黒いものがうずくまっている。目を凝らす。あれは人だ。こんなところにたったひとりで潜んでいるものが、人のはずがないのに。
 鮮やかな彩色の衣をまとっている。その美装はまるでおとぎ話に出てくる天女のようだった。顔をあげた彼女の濡れた瞳が、晴海を射抜く。心臓の鼓動が跳ね上がった。
 
 自分はこの女性を知っているのではないだろうか。晴海はふいに襲われた既視感とともに、そんなことを思った。
 ――だが、福助は更に強く晴海を制止する。
 
福「なにを近づこうとしているんだ。無防備だ」
晴「いや、でも福、あれは……」
福「明らかに、どこからどう見ても鬼の姿をしている」
晴「えっ」

 福助に言われて、晴海は改めて天女を見た。しかし、その姿に変わったところはない。ただ悲しそうな目でこちらを見つめているだけだ。

晴「でも、あんなに綺麗なのに」
真「きれい……?」
 
 真琴は嫌悪感をにじませた。今にも弓を構えようとしている。

真「あんな鳥の化け物の、どこが気に入ったんですか。やばいですよ、晴海サン」
晴「え、今なんて」
牽「どうして納得できないみたいな顔をしているのさ、晴海ちゃん。そこにいるのは、どこからどう見ても怪鳥じゃないか」
 
 そこでようやく晴海は自分だけが違うものを見ているのだと気づく。三人には目の前の女性が天女ではなく、鬼に見えているのだ。
 福助が薙刀を構えると、天女はゆっくりと身を起こした。その目には先ほどまでの儚い輝きはなく、完全に光を失ってしまっている。虚無の目だ。
 牽が前に歩み出て、真琴が矢をつがえる。
 意味を求めるのは後だ。
 
晴「……行くぞ、みんな!」
 
 ただひとり天女の姿を見る少女が、戦いの号令を放った。 

 
 
 
 牽の刀が翻る。
 飛び立った直後の天女の身を、剣士が切り裂いた。まるで血のように、彼女の身体から黒色の霧が飛び散る。牽の先駆けは、こちらの攻撃が鬼に十分に通用することを物語っていた。
 福助が続く。
 彼が結んだ術は<花乱火>。それは白骨城で彼が使っていた<花連火>の更なる上級術だった。今現在、荒神橋家では福助がただひとりの使い手である。当主の指輪を身につけた晴海ですら未だ習得していないのだ。
 火球が天女を包み、花火のように空で弾けた。悲鳴が響く。
 
 天女の手番はまだ来ない。
 今はまだ回復の術を唱える必要のない晴海が紡ぐのは、こちらも新たなる術。
 
晴「闇衆ければ則ち烈日を喰らう……されど煌満つれば則ち<光無し>……!」
 
 呪言と共に晴海から広がる光は、周囲の色を奪い去ってゆく。床も壁も天井もなにかもを白く染め上げながら、その白光は白骨の五指のように天女を握り潰そうと迫る。
 だが鬼は翼の端々に<花乱火>の火を灯しながら縦横無尽に広間を飛び回る。這いまわる光はついぞ彼女を捉えることができなかった。いつの間にか術の効果は消えていて、晴海は膝をついた。
 
晴「ハァ、ハァ……せっかくの、お披露目だったんだけどな……!」
 
 息を切らしながらうめく。
 だがそれよりも、なぜ晴海は本番にその一手――相手の術法を封じ込める<光無し>を選択したのか。そこには予感めいたものがあったのだ。
 宙空で羽ばたく天女を中心に、猛烈な風の術力が高まってゆく。ロウソクから立ち上る煙が吸い上げられてゆき、空間には荒々しい気流が生まれた。

真「あれ、これなんかやばくないですか? やばくないですか?」
 
 真琴は身を丸めて防御する。そこに、天女の金切り声が響いた。
 翠色の竜が牙を剥いたように見えたのは、ほんの一瞬だった。
 全方位に放たれた旋風は、四人をまさに蹴散らしてゆく。荒れ狂う風は、高度な術によって引き起こされたものだった。

 術の去った後には、まるで見えない斬撃を全身に浴びたような荒神橋一族の姿があった。
 
福「ひどい味だ……」
牽「先月からこんな目に合ってばかりだろ。慣れろよ、福助」
福「無茶を言うな……」
 
 特に傷が深いのは、前衛に立つ双子だ。彼らの役目とはいえ、着物が赤く染まってゆくそのさまはむごたらしい。
 晴海はすでに<お雫>を唱え始めている。傷は癒えて、痛みだけが後を引くだろう。そして痛みならば、信ずることで耐えられるものだ。
 
 福助は再度<花乱火>を放ち、同時に牽もまた飛び上がって炎に紛れて太刀を振るう。ふたりの連撃は間違いなく天女に致命的な打撃を与えていた。
 その証拠に鬼は苦しみ、さらに全身を業火に包んでゆく。それは福助の術ではなく、鬼自身が内側から放つ炎だった。

真「わ、わ、な、なんですかあれ! こわくないですか!?」
 
 その姿はもはや晴海の目にも、天女の面影はない。だが、まさしく怪鳥に変貌し切った彼女は、自らの炎によって灼かれているのだ。
 なぜ、と問いかける言葉が喉の奥で詰まる。叫んでしまえば、<お雫>を詠むことができなくなる。真琴を背にかばう晴海に、緊張が走る。再び広間には気流が生まれていた。

 来る。
 来た。
 二度目となる、破壊的な竜巻の術だ。
 
 もはやこれが怪鳥の奥義であることは疑う余地もない。その証拠に、荒神橋一族はほぼ壊滅状態だ。被害は先月、白骨城を攻めた時と比べ物にならない。陣形はもはやばらばらで、それぞれが意識を保っているかどうかも怪しい。
 
 それでも、晴海は血を吐きながら術を唱え続けている。頭のどこかで思っていたのは、もしこれがお雫ではなく<円子>だったら、もっと彼らの負担を軽くすることができたろうにな、ということだった。
 
 真琴はひたすらに身を固めて耐えていた。だが生きている。牽も福助も立っていた。晴海は更に<お雫>の雨を降らせる。その一念も、恐らくは次なる風の術を凌ぎきることはできないだろう。
 そして怪鳥は術の詠唱に移っている。晴海は身を固くしてかつて天女だった女性を睨む。目は閉じていない。
 
晴(こんなところで、負けるわけには――) 
 
 先代当主であった父はもういない。
 今は自分が荒神橋一族の長だ。
 この手で、この手で朱点童子を倒すのだ。
 鼓舞によって、晴海は途切れそうになる意識を結び――
 
 ――三代目当主の前、ふたりの青年が構えを取っていた。
 
 どちらが声を出したわけではない。目を合わせている余裕もなかったはずだ。それでもふたりは同時に並び、等しく動いた。速い。怪鳥の目線が揺れる。それだけでもう、十分だった。
 福助の放つ火炎はきょう一番の出来栄えだった。吸い込まれるようにして鬼に着弾する。炎上する怪鳥は牽の姿を追っていた。だがもう地上にはいない。左右を見回していたから反応が遅れた。天地逆転した姿勢で、牽は天井に屈んでいた。そして飛ぶ。その刀は怪鳥の脳に突き刺さった。絶叫。刀を手放した牽が床に着地し、たたらを踏む。
 
 全てが一瞬の出来事だった。

 牽の刀が抜け落ちる。黒い霧となり消えてゆく鬼の姿を前に、晴海は張り詰めていたものが切れる音を聞いた。そのまま意識を失い、ゆっくりと前にのめりに倒れてゆく。
 牽と福助が駆け寄ってきて、晴海を介抱する。三人のうち誰が欠けても勝利を掴むことはできなかったであろう死闘だった。


福「こういう戦いが、あと何回続くんだろうな……」
牽「決まっているだろ。朱点童子を倒すまでだよ。それとも弱音か?」
福「正直キツイ」
牽「正直に言うなよな!」
晴「はは」
 
 はたで見ていた晴海も思わず笑う。意味を考えるのは後でいい。今は、相翼院の主を倒せた達成感に浸るときだ。



 互いに健闘をたたえ、回復の術を掛け合う荒神橋一族の中でただひとり、真琴だけが黙したままだった。
 
真(……こんなことって……)
 
 生まれて初めて味わう痛みは、真琴の心までも責め立てる。
 こんなことって、ない。
 
 
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by RuLushi | 2012-07-19 19:19 | 三代目当主・晴海