ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年9月中編
 
 34。足りない。
 
 夜更け。出陣前夜の自室である。
 晴海の“目”に見えているものは、螺旋状に絡まり合う四色の糸だ。
 赤青緑黄。
 鏡の中から睨み返してくる勝ち気そうな顔をした少女の背に、四光が陽炎のように浮かび上がっている。晴海はその正体を知っていた。
 それは晴海という人間の全てだ。筋力。知能。才能。そして、限界。あがこうとも、決して越えることのできない定めを表すものだ。
 当主の指輪を身に着けた晴海は、“数値化された己自身”というものを見ることができるようになっていた。なってしまっていたのだ。
 
晴「……父ちゃん、こんなことは一言も教えてくれなかったのにな……」
 
 今思えば、父や祖母には全てが見えていたのだと気づくこともあった。だが、それを尋ねられるべき人は、ここにはもういない。
 
晴「どうりで、うまくいかないはずだぜ……」
 
 晴海は胸の前に持ち上げた拳を何度も開き、繰り返し握り締める。

晴「“技の水”……それが、34足りないから、か……」
 
 努力ではどうにもならなかったのだ。

 
 古い神が作り人間に与えたものはふたつある、とされている。
 ひとつは『火』であり、それは人を人たらしめるためのものだ。人は火なくしては生きていくことができず、心の灯火が消え果てたものはいずれ鬼と化す。
 そしてもうひとつが『術』だ。

 術は什であり、呪であり、恤である。あるものは「人と獣をわけるための力が術だ」と言う。また誰かは「神が己に似せて人を作ったがために、そこに呪が生まれてしまった」と語る。「あまりにも弱く、脆い人間をあわれんだがため、『術/恤』を授けたのだ」と述べる男もいた。
 どれが真相かはわからない。だが少なくとも、人は生まれ持った才能により、術を扱うことのできる人間と、できない人間によって分けられていた。今の晴海には、その理由がはっきりとわかった。
 全ては血脈だったのだ。
 生まれながらに、人は定められていた。凡人。才人。天才。木偶。それらを隔てるものこそが、晴海の目に映る四色の螺旋形だ。
 
晴「能力の足りないものには、絶対に理解できない……踏み越えることのできない、最後の一線……そういうことだったんだ……」
 
 能力値――技。
 それは今の晴海の技量を数値化したものだった。洞察力。理解力。表現力。実行力。知性。加護。術に関するあらゆる素質を束ねて表したものだ。
 
晴「それが足りないってことは、つまり……今の晴海には、どうあがいても<円子>は使えないってことじゃないか……」
 
 あまりにも残酷だが、それが事実だ。
 悔しい。父や祖母が自分をそのときのために育ててくれたというのに、自分は期待に応えることができないでいるのだ。
 その“報い”は、二ヶ月後にやってくるのかもしれない。
 
 部屋でひとり。ひとりになった部屋で、晴海は思い煩っていた。

晴「……多分、あと三回か四回、成長することができたら、34は埋まると思う……その、多分だけど……」

 鏡の中の自分は、苦い顔をしていた。目を背けて、右手にはめた指輪を口元に添える。
 
晴「今月と来月、二ヶ月相翼院にこもって、悪羅大将を倒し続けたら……」
 
 しかし、晴海はもう9ヶ月才だ。もし来年のための布石とするのであれば、今のうちに交神の儀を執り行ったほうが良い。
 今月交神の儀を行ない、来月に出陣して真琴の修練とする。それならばどうだ。たった一ヶ月で<円子>を覚えるのは、至難の業だろうが。
 
晴「……どうすりゃいいんだろうな……」
 
 晴海は布団の上に座り直す。あぐらをかいて目を瞑る。尋ねたところで、答えてくれる人はどこにもいない。もういない。
 どちらも最善手のようで、どちらも大きな過ちである。そんな気がした。
 
 しばらくの間、晴海は瞑目し続けた。
 そして――目を開く。

晴「……最後の一瞬まで、ひたむきに。結局、そうするっきゃないんだよな、父ちゃん。短い人生なんだからさ」
 
 晴海の腹は決まった。
 






<出陣>


真「いたらないところも多々あると思いますが、どうぞよろしくお願いしまーす」
福「……真琴さん、ちゃんとした挨拶とか、できるんだな」
真「なんですかそれ。あんまりウチを見くびらないでくださいよ、福助サン。どれだけ、どれだけ当主サンにしごかれたと、し、しごかれたと思うんですかぁ……!」
福「わ、わかったわかった、僕が悪かったから……泣くな、泣かないでくれ……」

 そういうわけで、幼き真琴の初陣である。
 屋敷の前に立ち、真新しい小袖を着た真琴は、自分の身の丈ほどもある弓を提げていた。その出で立ちはまるで、熊狩りの武士に同行する道楽者の娘のようだ。

牽「弓使いかあ。肩を並べて戦うのは初めてだなあ」
福「相手の爪の届かないところから、一方的に攻撃ができるんだ。間違いなく戦の要となるだろうね」
牽「ははは、なんで僕たち、近接武器なんてやっているんだろうね」
福「今月牽の身になにかあったら、ついでに瑠璃さんに聞いてきてくれ」
牽「ははは、それ僕に死ねってことかな、死ねってことかな」
 
 睨み合う牽と福助。後頭部に手を当ててそのやり取りを暇そうに眺める真琴。
 少し遅れて、晴海が屋敷の中から追いついてくる。
 
晴「ごめんごめん、道具袋の選別に時間かかっちまってさ」
福「だから、僕が手伝うって」
 
 晴海は片手を挙げて、福助の言葉を制した。

晴「ありがとうな、でも当主になってから初めての出陣だから、自分でやりたくて、さ」
福「……それなら、まあ」

 福助は釈然としない顔のままで、うなずく。
 牽はあっけらかんと「晴海ちゃんは偉いなー」などと笑っていたりする。
 爪を見ていた真琴が、上目遣いにつぶやく。

真「当主サンも来たことですし、ホラホラ、行きましょう。帰りが遅くなっちゃいます」
牽「しっかし、真琴お前、初めての出陣だってのに緊張とかビビってたりしないのか? どれだけ肝据わってるんだよ」
真「えー、別にそういうわけじゃないですけど」
 
 真琴は討伐部隊の面々を順番に観察する。
 晴海は思いつめたような顔をしており、そばに立つ福助もそのせいでいつもより眉の間にしわを作っていた。牽も平静を装っているが、やはり自分のことが心配のようだ。
 アホらし、と。口には出さないがそう思う。

真「練習通り、普段通りやりますよ。練習以上のことはできませんし、それでいいじゃないですか?」
牽「最初からそれができるなら、苦労はしないんだけどな」

 真琴は苦笑いする父の言葉を聞き流し、小さく伸びをする。

 真琴が母――春野鈴女から教わったこと、そのいち。
『分相応であれ』
 できることはする。できないことはできない。それだけがわかっていればいいのだ。
 


イ「荒神橋一族の皆様、いってらっしゃいませェ~!」
 
 イツ花の見送りの声が、大きく響いた。
 
 



<相翼院>

 
 そつがない。
 初陣の真琴の評価を下すとしたら、その一言だ。
 機会を待ち、矢は外さず、瞳は淡々とし、肩から力が抜けている。
 
<速瀬>にて敵陣に突入した後、一同は矢継ぎ早に鬼と切り結んでいた。
 一ヶ月という期間を一瞬たりとも無駄にはしない。そういった覚悟が三代目当主からは伝わってきていた。
 
 晴海と牽、それに福助は次から次へと悪羅大将を葬り続けている。
 三人の息のあったコンビネーションはさすがであり、白骨城の黒スズ大将を狩り尽くした腕前はさらに切れ味を増していた。
 
真(これ、ウチ来なくても良かったんじゃないですか?)

 そんなことすら思ってしまう。
 思いとは裏腹に、真琴はみるみるうちにその実力を伸ばしてゆく。第三世代。彼女は晴海をも越える素質の持ち主である。本人の望む望まないに関わらず。
 
 真琴が戦場に来てから、その印象が変わったのは晴海だった。
 屋敷見ていた彼女は、暇があれば生真面目に鍛錬か勉学か、あるいは木陰や縁側で眠っているといういささか頼りないものだった。父や叔父の想われ人ということもあり、どうせきゃーきゃーと喚いてかばわれるのがオチだろうと真琴は思っていた。
 ところが戦いを始めた晴海は獰猛で、水を得た魚のように鬼たちを殴り倒してゆくのだ。
 そこに女らしさは微塵も感じられない。

真(やばいですねー、あの姿……あんなに裾をめくりあげて、あーあー、はしたないです……どっちが鬼かわかったもんじゃないですよ)
 
 正直、同性としては引いてしまう。さすがはあの咲也の娘、といったところか。

 
 
 一方、その晴海。
 彼女は焦っていた。
 
晴「くっ、まだまだ足りないのかよ……」
 
 白骨城に二ヶ月篭って戦い抜いてきたのだ。一ヶ月そこらで簡単に何度も成長できるはずもない。
 晴海には成長限界が近づいていたのだ。それはかつて瑠璃が体験したものと同じである。瑠璃の名を受け継いだ少女がまた、こうして苦しんでいる。血とは残酷なものだ。

 戦そのものは順調であった。牽と福助は盛りの1才。瑠璃は9ヶ月才。さすが瑠璃が計画を立てて、11月にピークを持ってきただけのことはある。2ヶ月才の真琴を除き、心身ともに充実している。

 いかずちの術を使い、悪羅大将とその配下を倒し続けること、数刻。
 
 ようやく、一度目の成長が訪れる。
 が――
 
 たったの1。
 技の水はそれしかあがらなかった。

晴(ふざけ――)
 
 視界が真っ赤に染まる。怒りか悔しさか憤りか、誰に向けることもできない感情が胸のうちで爆発しそうになる。
 大江山征伐に二ヶ月かけるために、11月までに必ず晴海は<円子>を覚えなければいけないというのに。
 そしてできることならこの一ヶ月で算段をつけ、来月は九重楼に行き、<くらら>と<お地母>を奪取したいのだ。
 何よりも、時間こそが足りない。
 相翼院、奥の院を晴海は更に奥へと向かう。
 
牽「晴海ちゃん?」
 
 牽の疑問に、晴海は振り返らずに告げた。
 
晴「……この迷宮の主を、討伐する」

 その声ににじむ焦燥感を、双子は感じ取っていた。だからか、なにも言わずに晴海の後を付き従う。


真「えっ?」
 
 そんな話は聞いてないですけど! と真琴が聞きとがめた。
 
 
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by RuLushi | 2012-07-18 07:01 | 三代目当主・晴海