ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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1019年9月前編
 
 暦は秋に変わりつつも、残暑の厳しい道場である。
 身軽な戦着をまとう晴海は、胸の前に手を合わせ、術技を唱えていた。
 
晴「……~~……」
 
 小さな口から紡がれる朗々とした旋律は、道場の中を巡る。
 青い光の粒は、彼女の肌や髪からこぼれ落ち、晴海の姿を深海の水霊のように浮かび上がらせる。
 眉間にしわを寄せる晴海。彼女がこめかみから汗を流した直後である。すぐに微光はかき消えた。
 
晴「……ぷふぁ」
 
 水面に顔を出したかのように空気を求めてあえぐ。息苦しさと不快感から、晴海は額の汗を拭う。

晴「まだ、足りないか……」
 
 顔の前まで右手を掲げる。その人差し指には、当主の名の形。遺襲した指輪。三代目の証明。各種属性の技の力を強化する秘宝。
 だが、指輪あってもまだ届かない。

晴「……暑い、暑いぜ……」

 
 晴海は熱気の篭る道場の戸を開く。
 射しこむ陽光眩しい晴天。
 太陽は頂点に達しており、晴海は日差しを手のひらで遮る。
 
晴「ぬえー……きょうも、いい天気だなあ」
 
 こんな日は木陰で居眠りをするのが、気持ちいいに違いないのに。
 皮肉げにつぶやけば、どこからか声がする。
 
福「おーい! ……あ、晴海さん!」
晴「福? どうしたんだ、血相変えて」
福「牽のやつを見なかったか?」
晴「いいや、きょうはずっと道場に篭っていたからな、見てないぜ」
福「そうか……ったく、あいつまたふらふらとどこかに消えやがって、大体こっちにだって予定があるんだから、なにも言わずに出かけるなってあれほど……」
 
 腕組みをして愚痴る福助に、晴海が笑いかける。

晴「そうしていると、父ちゃんみたいだな、福」
福「やめてくれ……」
晴「なんでだよ、かっこいいぜ?」
福「荷が重い」
 
 風に当たって笑う晴海に、福助は大きなため息。
 
福「とにかく、牽が見つかったら教えてくれよな。きょうこそ叱ってやらないと……まったく、僕にだけ真琴さんを預けて……」
真「まあまあ、いいじゃないですかあ。福助サン、教え方も上手ですし」
福「うお」
 
 突如として脇から現れた真琴に、驚いて身を引く福助。
 晴海が見たことのないような笑顔をしている。
 真琴は猫のように軽やかな所作で、福助の腕を取る。
 
真「それに、当主サンに比べたら、やばいですよ。なんて優しいこと優しいこと……」
福「そうか、咲也兄さんはもっと厳しかったのか。それはいいことを聞いた」
真「な、なーんちゃってー!」
福「よし、それなら思う存分叩きこむことにしようか」
真「は、晴海サン、ちょっとなんか言ってくれませんか!」
晴「は、はは、がんばってくれよな、真琴ちゃん……」
真「あの悪夢を繰り返す日々は嫌ですからー!」
 
 叫びながら引っ張られてゆく真琴。
 晴海は彼女に乾いた笑みで手を振る。


 咲也が亡くなったものの、福助も真琴も変わりがない。
 不思議なものだ。心の臓にぽっかりと穴の空いたような気持ちすら、数日で消え去ってしまったのだから。
 晴海はひとりになり、胸に手を当てた。自分はどうだろう。以前となにか違いが出ただろうか。
 少しは責任感が生まれた、と思う。それ以外は、特に思いつかない。

晴「……それにしても、牽はどこに行ったのかな」
 
 その場にぼんやりと立ち止まりながら塀を眺めていると、ガサガサと木の葉が降ってきた。目を凝らす。人影だ。それも顔馴染みの。

牽「お、晴海ちゃん、どしたのこんなところで」
晴「……お、おう」
 
 頭に猫を乗せた牽が、塀の上にしゃがんでこちらに首をひねっていた。
 
 

 ~~



<夕食事時>
 
牽「というわけでね、迷い猫探しを手伝ってきたんだよね」
 
 からからと笑いながらご飯を頬張る牽に、冷たい視線が突き刺さる。

牽「これって意外と僕の特技かもしれないんだよねー。パッと見つけられるんだよ僕、すごくない? でさ、迷い猫なんてお腹が減ったら帰ってくるでしょ、って思ってたけどそうでもないらしくてさ、しかも今って京の都が結構物騒になっているから、心配してたらしくって」
福「……それは誰の話だよ」
牽「近所の家の人だよ。ねえ、イツ花さん」
イ「ええ、とっても助かっていたみたいですねェ」
 
 牽の付き出した茶碗を受け取って、米びつからご飯をよそうイツ花。
 ふたりのニコニコとしたやり取りに、苛立ちを募らせるのは福助だ。
 
福「そんなことをして何になるというんだ……」
牽「だって生皮剥がされちゃったり、下手したら食べられちゃうかもしれないんだよ。それってかわいそうじゃない?」
福「僕らが負けたら、猫どころか都の人間がそうなる」
牽「それはまあ、なんとかなるでしょ。今はとりあえず、生きている人たちの幸せを願ってさ」

 牽が笑い、福助が顔をしかめてご飯をかきこむ。
 そのふたりを諌めるのが、新当主たる晴海。

晴「まあまあほらほら、ふたりとも間違っているわけじゃないんだからな、そこまでそこまで」
福「……」
牽「ははは」
 
 福助は不満そうに黙りこみ、牽はまるで気にせず頭をかく。
 これも見慣れた光景であったが、きょうはそこに真琴が首を突っ込んだ。

真「いいや、父サンは間違ってます」
牽「ええっ?」

 一同が見れば、真琴はしたり顔で箸を動かしながらうなずいている。

真「人とけもの、どちらが大事かなどは火を見るより明らかです。それだというのに、ぶらぶらと外を歩き回って良い気になるなんて、器が知れてますね。やばいですよ」
晴「真琴ちゃんは、辛辣だな……」
 
 晴海が唸るも、真琴の口撃は止まない。

真「大体、迷い猫を見つけたところで、またすぐパッといなくなっちゃうに違いないですよ。そのたびに探しに行くんですか? 無駄ですよ、ねえ福助サン」
福「……そう、だな」
真「ですよ父サン! わかってるんですか!」
 
 と、勢いづいたところで、なにかが鳴いた。
 にゃー、と。
 
真「……?」
牽「あれ、庭からかな? なんで来ちゃったんだろ」
 
 牽が立ち上がり庭を向く。晴海も彼についてゆく。

晴「さっきの猫ちゃんか?」
牽「みたいだね。お礼でも言いに来てくれたのかな」
真「あ、晴海サン、父サン、お食事中ですよ……」
 
 その後に続いて、真琴が牽たちを追いかけてゆく。
 戸を開けて、庭を見たその時だった。


 「キャー!」

 
 黄色い歓声があがった。晴海と牽は同時に振り向く。
 なんてことのない、すまし顔で真琴が立っている。しかしその頬はわずかに赤い。
 
牽「今、真琴……」
真「え、なんですか? 何のことですか、何の話ですか」
晴「……叫んだ、よな?」
真「ふたりとも何を言っているんですか? ウチわかりません。やばいですよ、年ですか?」
 
 小さな三毛猫は、手持ち無沙汰のように前足を嘗めている。
 牽が抱き上げようとすると、逃げる素振りもなくそれに従った。

牽「ほら、真琴」
真「う、うっわー! なにこれやばい! まじやばいわ! かわいすぎ! なんなのこれ、やばいんだけど! やばーい! ちょーやばい! やばすぎってかんじ! かわいー!」
牽「ま、真琴……?」
真「ハッ」
 
 我に返った真琴は、瞬きを繰り返す。牽と晴海と真琴がそれぞれまったく同じ、面食らったような表情をしていた。
 
晴「猫……好き、なんだな。可愛いところもあるじゃないか」
真「え、いや、違いますし?」
牽「ほら」
真「……」
 
 牽が猫を近づけると、真琴はふらふらと指を伸ばしてくる。
 柔らかいその毛に触れた瞬間、まるで電撃を浴びたように真琴が震える。

真「ひょわああああああ!」
晴「な、なに!?」
真「柔らかくないですか!? やばい!」
牽「そ、そりゃまだ小さい猫だからね」
真「た、たまりませんですねえ!」
 
 息を荒らげた真琴が、猫を撫でくりまわす。嫌そうに顔を背けながらも居心地が良いのか、猫は牽の腕の中から跳び出そうとはしない。
 真琴はもう恍惚の表情だ。

真「やばいですねこれ、やばいですね、いやあやばいですね、すごいやばいです、くー、やばいです!」
牽「キミ、語彙少ないなー……」
晴「これがいまどきの若い子か……」
福「……元気でいいことじゃないか」

 やばいやばいと連呼する真琴はもう、他の人の目も気にしていないようだ。
 牽は真琴に猫を預けて、屋敷の中に戻る。晴海もそれに続いた。

イ「ふたりとも、ちゃんとまた手を洗ってくるんですよォ」
牽&晴「はーい」

 後ろから真琴の奇声が響いてくるのを聞きながら、牽と晴海は若者との間に言いようのない溝のようなものを感じてしまっていたのだった。
  
 
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by RuLushi | 2012-02-24 00:23 | 三代目当主・晴海