ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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往来 Al right(完結)

 朱点童子・黄川人とともに光に包まれた虚空は、奇妙な浮遊感を味わっていた
 天も地もおぼろげで、自分の形が掴めなかった
虚「俺は死んだのか」
 つぶやきは、光に溶ける
虚「それともこれが、魂の世界か?」
 ならば退屈だな、と思う
 己の自我が残されたまま、こんなところを漂い続けなければならないのは、苦だ
虚「地獄の刑罰だと告げられても、信じられそうじゃな」
 真っ白な世界に、乾いた手を打つような安っぽい音とともに、新たな光が生まれた
 その途端、空間に上下の感覚が生まれて、虚空は落下した
虚「お、おおお……」
 身投げには十分すぎるほどのかなりの高度から落ちたらしいが、虚空の身体には傷ひとつない
 腰を押さえながら、そのとき己の体が確かにそこに存在していることを認めて、虚空は眉根を寄せる
 虚空は壬生川家の着物をまとって、座り込んでいた
虚「一体、俺をどうするつもりなのか」
 先ほど現れた光が、ふよふよと漂いながら空から降りてくる
 虚空の眼前で止まると、光は広がって人の形を作った
昼「悪いようにはしませんよォ」
虚「その胡散臭い声からも、性格の悪さが窺い知れるのじゃがな」
昼「壬生川の方は、誰も彼も酷い言い方をしますねェ……」
虚「ぬしにいいように利用された恨みが募っているのじゃろうて」
昼「誠心誠意お仕えした結果なんですけどねえ」
 太照天昼子は輪郭だけで首を捻ってみせる
虚「のう、昼子よ」
 虚空はこの退屈な世界の唯一の話相手に、つぶやく
虚「壬生川の皆は、どうなったのじゃ」
昼「助かりましたよ」
虚「そうか」
昼「命を失ったのは、十一代目おひとりでーす」
虚「それは良かった」
 虚空は心よりの言葉を吐く
虚「ならば、特に思い残すこともないな、あとは朱点童子の呪いを解くだけか」
 魂が砕け散る
 それはすなわち、この世界から消滅するということだ
昼「それなんですけどォ」
虚「ん」
昼「ここにやってきたのはですね、わたしのお力で、十一代目のお命を生まれ変わらせることができますよォ、とお伝えするためだったンですね」
 揉み手をしている姿すら輪郭から想像ができる
 虚空は顎に手を当てた
虚「輪廻か」
昼「といっても、わたしの力じゃ、いくら頑張っても千年後になっちゃいますけどォ……」
虚「遠いの」
 思わず笑ってしまう
虚「俺に決断しろ、と言うのか?」
昼「いえいえ、転生させていただくことはもう決定しておりますから」
虚「進言ではなく定言か」
 両手を振って、昼子は朗らかに笑う
昼「最後までお手伝いくださいました、十一代目へのお土産です」
虚「安っぽい和菓子より薄い贈呈品じゃの」
昼「えー、こっちだってすっごく疲れるんですよォ」
 あぐらをかく虚空に、昼子は心外そうに両手を振る
昼「なんたって、神の位が今の十分の一……下手したら、百分の一くらい下がっちゃうんですからねェ」
虚「ほう」
 その割には悲観の色がないな、と思う
虚「まことか偽りかは、わからぬな」
昼「あはは、ですよねェ」
 昼子は枝葉を切り取った幹のようにさっぱりと笑い、手を打つ
昼「でも、良いんですよ、これからは主神の位も代替わりです、わたしのお役目は済みましたから、これからはまた家政婦として過ごします」
虚「壬生川家に仕え続けるのか」
昼「ええ、だって皆様、ほとんど炊事洗濯、それに子育てなんて、したことないでしょう、わたしがやらなきゃ、誰がやるんですか」
虚「子育て……?」
 昼子の言葉に引っかかりを覚えて彼女を見上げる
 すると、いつのまにか、昼子は光の線でできた腕に、小さな赤子を抱いていた
 赤ん坊は寝息を立てて、おとなしくしている
昼「なんちゃって、ホントは壬生川の皆さんのご機嫌を取るための、貢物みたいなものなんですけどネ」
 その赤ん坊の頭に、うっすらと緑色の髪が生えているのを見て、虚空は思わず息を呑む
 もしかして、昼子の身体が失われているのは、一時的に力を使い果たしたからなのだろうか
 氷ノ皇子の全身が凍りついたように、昼子は肉を手放したのだろうか
 赤子を救うために
虚「ぬしは……」
昼「壬生川の皆さんには、もちろん感謝していますけれど、だからってお仕置きされるのは嫌ですからね、えへへ」
 だから、先に自分で自分を粛清しておく
虚「最後まで、したたかな女を演じきったな、昼子よ」
昼「上に立つと、しんどいんですよォ……だから、これからは思いっきり楽をしますよ、毎日ずーっと遊んで暮らして、懲りずに天女と人間の恋物語なんかに首を突っ込んだりするんですから」
 わずかにグチっぽく言ってから、昼子は赤子の頬をくすぐる
昼「ね、竜子ちゃん」
 抱き上げる仕草は手馴れたものだ
 もう八年も続けてきたのだから
 赤子となった竜子はむずがゆそうに揺れて、再び寝息を立てる
虚「九代目当主のもとに戻るか……竜子……良かったな、まことに……」
 ふたりの朱点童子は、そこからやり直せばいいのだ
 もういいのだ、これで、みんなチャラだ
昼「それでは、十一代目……そろそろ、わたしも疲れてきちゃいましたので、よろしいですか?」
虚「ああ」
 虚空は今さらもがくことなどないとばかりに、落ち着き払っていた




 立ち上がり、昼子を正面に据えて、小さく頭を下げる
虚「ぬしも、よく頑張ったな、昼子」
昼「えッ」
 あまりにも驚いたらしい昼子は、思わず竜子を取り落とすところだった
 急に揺さぶられた竜子は目を覚まし、細い泣き声を発する
昼「あっ、ちょっと、竜子ちゃん……ご、ごめんなさいね、で、でも、急になにを言うんですかァ、十一代目~」
虚「おぬしの苦労をねぎらっただけじゃ、影の立役者じゃろう、おぬしは」
昼「そ、それはァ、終わってみたらそう思えるかもしれなかった、ってだけかもしれなくて、ええと……いや、そうじゃなくてですネ、あの、わたしってば罵られるのは慣れていますけれど、そう、情を向けられるのはあんまりィ……」
 わたわたと落ち着きをなくした昼子の表情はわからないが、きっと、照れているのだろう
昼「もっと、陰湿女とか黒幕とか、血も涙もないとか鬼殺しとか、非道とか独裁者とか……」
虚「言われたいのか?」
昼「う……それも、嫌ですねェ……」
 それはそうだろう
昼「と、とにかく、そろそろお時間ですからね!」
虚「ああ、頼む」
 昼子は聞いたことのない呪を唱え始める 
 千年の時が一体どれほどの闇となるのか、虚空には想像がつかなかった
 だが、それでも構わない
虚「世話になったな」
 美月や左京たちが、ひとりでしっかりと歩いて行ったのなら、自分のやるべきことはもないのだから
 虚空は信じている
 彼らなら、どんな悲しみだって、必ず越えてゆくのだと、そう信じているのだ
 まぶたを閉じ、そうしてゆっくりと開いたときだった
 光の向こうに、無事でいた美月の姿を見て、虚空は破顔一笑する

 まったく、なんて素敵な幻だ
 まったく、なんて良い人生だ
 
 なあ、月見よ、おぬしもそう思わぬか
 虚空は美月に大きく手を振り、告げた
 


虚「武運長久を祈る、では、おさらば!」


 壬生川 虚空 享年1才2ヶ月

 壬生川 竜子 奉神完了!
















「スタッフロールゥ、行ってみよォォォォォう!」
 


 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 馬鹿も お利口も
 一緒に 踊りゃ
 大人も 子供も
 一緒に 歌や

 泣いても 笑うても
 やって やられて
 男も 女も
 混ぜて 混ぜられ

 天国 地獄も
 刺して 刺されて
 雨でも 晴れでも
 食って 食われて

 下でも 上でも
 嘘も 本当も
 なんでも かんでも

 
 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!
 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!

 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!
 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!

 
 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 朝でも 夜でも
 鬼でも 人でも
 浮気も 本気も
 夏でも 冬でも

 針山 血の池
 元気も 病気も
 負けても 勝っても
 叫んで 黙って

 ゆっくり 急いで
 走って 止まって
 炎も 氷も
 明けても 暮れても


 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!
 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!

 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!
 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!

 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!
 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!

 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!
 殺して 生きて!
 産まれて 死んで!


 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!

 往来 Al right!
 往来 Al right!


 往来 Al right!

 往来 Al right!!!









「駒沢公園の皆さまァ! お騒がせいたしましたァァァァ!」















 千年後、

 約束は守られ、
 神と人の、血を引く子が
 再び地上に、生まれる

 しかし、壬生川虚空は
 いまだ、自分の真の力を知らず
 その使命にも目覚めてはいない…















<1036年 8月>

 
 夏が来ると、いつでも思い出す
 母や、父や、みんなと過ごした、一生のような4ヶ月の出来事
 




 お元気ですか、パパ
 美月です
 今年もお盆の季節がやってきましたね
 パパの性格では、きっといつも忙しそうにして、今年も帰ってきては下さらないんでしょうね
 そちらの加減はいかがですか?
 美月たちは、元気でやっています
 
 あれから十年が経ち、美月の年はなんと、十年と4ヶ月才になってしまいました
 中身はあんまり変わっていないんですけどね
 見た目は落ち着いて大人びたくせにな、とこないだ左京お兄ちゃんに言われてしまいました
 大きく違うのは、やっぱり、神様の力がなくなったことだと思います
 武芸や術の出来栄えはあの頃のままですが、世界の見え方が変わりましたね
 泉に棲む精を見ることもできなければ、七色に輝く朝もやも、木々の囁き声も、空を渡る翼の生えた女性を眺めることもなくなりました
 でも、それが人間の生だと知れば、とても居心地が良いものです
 できなくなったことも、できるようになったことも、どちらも趣がありますから

 烈くんは京都自警団の団長を立派に務めています
 相変わらず明るくて、格好良いままです
 なんといっても、もうすぐで二児の父親になるんですからね
 今では、烈くんみたいな武芸者を“侍”と呼ぶのが流行りのようです
 知っていましたか? パパ
 
 お兄ちゃんは、このたびめでたく就職が決まりました
 九年、家で遊び、眠り呆けていたあのお兄ちゃんが、なんと宮勤めですよ
 あの壬生川の血統を持つ者、ということで、陰陽師の一派に加えてくださるようです
 でも、たまに宮に呼び出されて、それで一祭事を終えたらあとは寝てばかり、というぐうたらな生活には変わりがないみたいですけど
 だけど働いてくださるだけで、美月はとても幸せです、肩の荷が下りたようです、なんて
 
 美月はというと、また縁談を断ってしまいました
 少し心苦しいですが、今度の方は、ちょっとすごかったんですよ
 十年前の夏に、壬生川家の神様がたくさん降りてきて、美月たちに力を貸してくださったという話は、もうしましたよね
 そのときに、幼かった帝が鮮烈な思い出として焼きつけていたそうでして、その天女の家系の美月を、どうしても妃に娶りたいと仰っていたそうなんです
 でも、仕方ないですよね
 だって美月は、まだ十才なんですから
 
 お盆が終われば、美月はまた旅に出ます
 まだまだ京は暑いから、今度はしばらく東北のほうに行ってみようかな
 この長い人生で、美月はなるべくたくさんの人と言葉を交わして、助けて助けられて生きていたいと思います
 ご先祖さまや、パパが助けた、この日ノ本の国の人々と
 




 
 筆を置くと、自分の指にはまった銀色の指輪が目に入った
 愛しそうに、それを反対側の手の人差し指で撫でると、温かな気持ちが胸の中に溢れてきた
 そのとき、美月さま、とどこかで自分を呼ぶ声がする
美「はーい」
 返事をして書斎を出ると、廊下の向こうから家政婦がやってくるのが見えた
 「もう、お食事の用意が整いましたって、何度言ってもお答えくださらないンですからァ」
 彼女の顔が、一瞬イツ花のそれに見えてしまい、美月は目をこすった
 先ほどまで、父親に挨拶をしていたからだと思いなおす
美「うふふ、ごめんね、ちょっと、お手紙をしたためていてね」
 「もう、美月さま、またお少ししかお屋敷にいてくださらないンですから、お食事くらいご一緒しましょうよう」
美「ふふ、そうだね」
 目鼻立ちの整った、小柄で明るい家政婦は、美月の腕を取る
 年よりも若く見える、詳しくは知らないが、しかし自分より若いということは間違いなくありえないだろう
 
 美月は中庭に薄茶色の光を見つけると、目を細めた
 菖蒲の花が、朝露に反射して、きらきらと輝いているのだ
 美月は思わず、口ずさむ
 父親たちと過ごした、夢のような4ヶ月の出来事を思い出しながら
 


「花……花、どんな、花……こころ、やさしく……ぅ」













































<時は流れ>


 君は雲ひとつない、原色の青空を見上げていた
 ここは学園の屋上である
 高いフェンスに囲まれた正方形のコンクリートのフィールドは、お世辞にも寝心地が良いとは言えない
 そうして、久しぶりの日本晴れがいかほど嬉しかったのか、ギラギラ輝く夏の太陽は手加減なしに照りつけてきていた
「なにをしているんですか、こんなところで」
 非難するような声色ではなく、むしろそれは疑問の味が強かった
 腕を枕にしていた君は、首を反らせて視線を傾け、「パンツを見ているんだ」とつぶやく
 蹴り起こされるのかとも思ったが、鉄扉の方からやってきた少女は風にひらめくスカートを押さえることもなく、横を通り過ぎていった
 ブレザーの紺のスカートに走った線の白の色から、彼女が同学年だと君は気づく
 金網の前で止まると、髪を押さえて、振り返りながら言って来る
「珍しいですね、屋上が解放されている高校なんて」
「知らないけど、多分、そうなんじゃないかとは思うな」
「最近、転校してきたばかりなんですけど、いいですね、天が近くて」
「ああ、どうりで」と言う君は、まるで同学年の一年生の顔を全て覚えているような口ぶりだったが、そういうわけではない
 長い髪を伸ばした金網の前に立つ少女は、一目見たら、ちょっとやそっとでは忘れられないような印象を持っていた
 単純に美少女だからというわけではない、健康的な肌を持っていながら、それでいて幻想的な変わった少女だ
「ところでこの学校では、その日の最後の授業には出なくてもいい、という決まりごとでもあるんですか?」
「さすがにそこまで珍しい学校ではないな」
「惜しいですね」
 なにが惜しいのかよくわからなかったが、彼女の表情はまるで富くじの当選番号が一等と数字ひとつずれていたような顔をしていた
 なんだか、おや? と思う
「なあ」
「はい? あ、呼びました?」
「俺とどこかで……会ったことが、なかったっけ」
 言ってみてからしまったな、と思った
「そんなに無粋なナンパの台詞もないですよねえ」
「千年前くらいの地層から掘り起こされた化石に刻まれてそうだよな」
「千年じゃ化石はできませんよォ」
 少女は眉をひそめたが、立ち直るように一本指を立てた
「でも、あながち間違いというわけでもありませんね」
「本当か、惜しいな」
「なにが惜しいのかよくわかりませんが」
 咳払いをして、少女は腰に手を当てた
 太陽に照らされて輝く白い足が、まぶしい
「あなたには特別に、ヒントを差し上げましょう」
「答えそのもののほうが嬉しいな」
「そこまでの特別視はできませんからね」
 そうして、糾弾するように指を差される
「あなたは、誰かを待たせていますね」
「え?」 と君はボタンを押されて発するように、反射的に声を出す
 しかし、「ああ」と、すぐに思い当たった
「そういえば、きょうの朝、友達と一緒に学校に来る約束をしていたな、あれを律儀に守っていたとするなら、七時間以上自動販売機の前で待ちぼうけしているんだろうな」
「この天気じゃ、こんがりと焼けてそうですね」
「水分補給には困らない」
 言い切る君に、彼女はまるで出来も素行も悪い生徒が持ってきたテストの点数を見た後のように首を振る
「更なるヒントをあげましょう」
「ふむ、重ね重ねありがたいが、果たしてすんなりと答えを教えてくれないやつは、気前が良いのか意地悪なのかわからないよな」
「神様ですからね、人間の心など知ったことではないのです」
「へえ」
 少女は己を、神様だ、と言い切った
「野球やサッカーがすごく巧かったりするのか」
「なんですかそれ? 偉いんですからね、すッごく」
「確かにどえらい話だな」
 少女は上履きを真新しく鳴らしながら、つかつかとこちらに向かってくる
 君は頭をかきながら、身を起こす、わずかに警戒する
「これ以上は言わない約束ですけどね、言いますよ」
「ひどい神様だな」
 足元からチャイムの音が響いてくる中、君はこれからは秘密の願い事も神頼みだけは止めておこうと誓う
「あなたの前世は、平安時代の武士です」
 それがまるでとてつもなく重大なことであるかのような、深刻な口ぶりであった
「ふむ……」
 君は顎に手を当てて、押し黙る、どう解釈すればいいのか、わからない
 運命的だ! と驚くのもわざとらしかった
「まあ、サメを騙した因幡の白兎も、神さまだって言われているしな」
「その話が今、どんな関係があるんですか?」
「いや、なんでもない、じゃあ俺が屋上で雲を見上げていたのも、平安時代の武士の生まれ変わりで、テレビもゲームもない世界で生きていたからか」
「そうですね、きっと、あなたのかつての名前に“空”という文字が含まれていましたので、そのゆかりかもしれませんね」
「すごいな神様」
「えへへ、なんでも知っていますからネ」
 照れて笑う少女は、岩の切れ目から姿を見せた太陽神のような輝きを持っていた
 君はなんとなく、これからこの少女と不思議な運命を共にするような縁を感じながら、空を見上げる
 エンジンの駆動し始めた自動車のように学校が騒がしくなってきたのは、もう放課後が訪れたからだろう
 そろそろこの憩いの場にも人がやってくる気がして、君は立ち上がる
「ま、なんでも知ってても、なるべく授業は出たほうがいいぞ、転校し立てならなおさらな」
「あなたも、武芸で身を立てることが難しい現代では、なるべく勉強に勤しんだほうがよろしいと思いますよォ、お目付け役ですけど、特別にそう忠告してあげますから」
「優しいな」
 立ち去ろうとして君は、そういえば、と振り返る
 なんでも知っているのなら、ひとつ聞いてみようか
「なあ神様、待たせた相手への謝罪ってのは、どんなのが良いんだろうな」
 


 
 






 教室に戻ろうとする帰路で、突然後頭部に衝撃を感じて、君は突っ伏しそうになる
 痛い、と口に出す暇もない、身体を引っ張られて、首根っこを掴まれる
「なに悠々自適と歩いているんですか!」
 眼前に、しょっちゅう見ている顔が出没する
「歩いているやつに怒気を覚える性格というのは、物凄く生き辛い世の中であるな」
「ごまかそうとしないでください! ぶちますよ!」
 頭から湯気を出す少女から目を逸らして、ごちる
「これくらいの言葉遊びも、相手にしてもらえないのか」
 達観して口をへの字に結ぶ
 それならまだ、先ほど屋上で会った娘のほうが、マシだったな、と思わないでもない
「普段ならともかくですね、きょうというきょうはついに許しませんよ!」
 怒りでその赤みがかった髪が逆立っているのを、君は見た
 それから、反射的に告げる
「すまん」
「えっ」
 胸元を掴まれた腕の力が緩んだ隙に、君は距離を取りながらもう一度頭を下げる
「熱射病は平気か、小銭は間に合ったか」
「なんだかひどい誤解を受けているような気もしますが!」
 生まれは4ヵ月しか違わないが、学年はひとつ上である
 廊下で怒鳴るよく通る声の彼女は、その器量の良い容姿も合わさって、とても目立っている
「なんで朝、来なかったんですか!」
「いやあ、わけがあるんだ」
「へえ……!」
 君は廊下をすれ違う生徒たちの視線を感じながら、正面の赤獅子をどう受け流すべきか考え、後頭部に手を当てる
「ちゃんと、家を出たときには覚えていたんだ」
「ふぅん……!」
「ただ、なんか、忘れている気がしてな」
「それボクのことじゃないんですかぁ!」
 その叫び声に、ピリピリと窓ガラスが揺れているようにも思える
 幼馴染が拳を固めているのを見て、君は若干の焦りを感じる
 なぜなら、化け物なのか神様かは知らないが、彼女の膂力は到底少女のそれではなく、たった一度の喧嘩でも彼女に勝てたことがないからだ
「いや、違う、お前のことは覚えていた」
「だから! だったらなんでぇ!」
 火に油どころか、業火に贄を投げ入れるような結果になってしまったと言わざるをえない
 とてつもなく強い彼女のまなじりに小さな涙が浮かんでいる
「どういえばいいのか……ううむ……あのな、空を見ていると、なぜだか、ここにいる俺が俺ではないような気がして、妙な気持ちになってな」
「ええい!」
 もはや君への返答は怒鳴り声ですらなかった
 ラリアットするように二の腕を叩きつけてくる
 うなって迫るそれを、身を屈んで避ける、なぜだか次の行動がわかるような気がしたのは、生まれたときからずっと一緒だったためだろうか
「あっ、こら、あなた避けちゃだめですよ!」
「無茶を言うな……」
 ともあれ、贄になるわけもいかず、ただ、待たせてしまったという罪悪感もあったため、君は複雑な表情で、制止するように彼女の顔の前に手を掲げた
「まあ、待て」
「なんですか……!」
 がるるるる……と唸り声をあげながらも、少女は妙に素直に従う
 ただ、背を見せたら、今にも飛び掛ってきそうではある
 やはり、ここは謝るしかない
 不穏な気配を感じてか、周囲から人気がなくなっているため、ひとつの死体も目撃者不明で処理されてしまいかねない
 なんといっても、待たせてしまったのは、自分のせいだ
 何分かはわからないが、もしかしたら始業時間ギリギリまで、粘っていたのかもしれない
 彼女は短気で精神的な強度が足りないくせに、意地だけは張るところがある
 ずっと、本当に、じっとして、待っていたのだろう
「すまん、俺が悪かった」
「……」
 彼女の尖った目は、やすやすとは丸みを帯びてくれそうにはないが
 その間、心細いをしていたのに違いないのだ、あとは誠意しかない
「長い間、待たせてしまった」
 屋上で会った神も言っていたではないか
“いくら、まってますから、できるだけゆっくり、きてくださいね、と言われたとはいえ、一日千秋の想いで待つ彼女を、あんなに待たせるなんて”と
 そんなに殊勝なタマではないだろうと言いたかったが、屋上の娘はまるで少女を知っているかのような口ぶりだった
 その粗暴さはもう、構内において沖縄のハブのように有名なのかもしれないと思いながら、君は再度頭を下げる
「すまんな」
 そうして、彼女を仰ぎ見て、表情には出さないが、驚いた
 豹変だ
 なぜ、彼女が大粒の涙を目の端から流しているのかわからず
 怒り心頭を通り越して悲しくさせてしまったのかと思い、悪いことをしたな、と君は普段以上に声色が柔らかくなる
「わかった、帰り道は一緒だ」
 彼女は握り固めた拳を下ろし、手の甲で、顔をごしごしとこすっていた
「……いえ、べつに、まってなんて……その……はい……」
 先ほどとは打って変わって、とてもおとなしくて、細い声だった
 放課後の校内に光が差し込み、彼女の落した涙がきらきらと輝いていた
「…………会えたから、その、いいですから……もう、だいじょうぶです……」
 そんなに不安な気持ちにさせる気はなかったのだが、やはり、待っても待っても来てくれないという気持ちは、底知れぬ心細さを生むのだろう
 君は手を伸ばし、この小さな、ひとつ年上の幼馴染の頭を、撫でる
「ふたりで、帰ろう」
 もう一度、待たせて悪かったな、と告げると、少女はこくりとうなずく
「はい」

 廊下の窓から見上げる空は、雲ひとつない、良い日和で
 きっと月の輝く、綺麗な夜になるだろう
 君はそう思う
 
 


 



 娘はまだ屋上にいて、空を見上げている
 これからのふたりが、再び過ちを犯すことのないように見守るのが、彼女の新たな勤めである
 だがもちろん、心配などしていない
 それどころか、これから始まる学園生活に胸がときめくようだった
「がんばってね、当主さま、あなたの歴史は、いつだって、あなたから始まるんだから」
 目を細めて、娘は彼らに告げるのだ
「明日をバーンとォ、信じましょ」




 千年の時を越えて
<2009年>のことである

 
 





 ひとりの天女が人の男に恋をした
 それが全ての、終わりだった。
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by RuLushi | 2009-10-06 00:02