ルル師のRPプレイ日記=俺の屍を越えてゆけ編(PSP版)=
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近代ゲームの語り部です。 PSソフト"俺屍"ブログ、リセット禁止でやってました。11/11/24より、PSP版俺屍プレイ日記始めました。今度は5年もかからなければいいな、と思います。
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終幕2(1026年 8月第11編)
 以蔵は再び暗闇の中にいた

 幾度となく味わった絶望の底である
 願っても、望んでも、どうしようもないことがあるのだ
 死力を尽くしても、叶わないことなど山ほどある
 それが、現実であり、世間なのだ
 壬生川と言えど、その掟から逃れられはしない




 母を救えず、仲間を救えず、
 友を救えず、子を救えず、
 昼子も救えず、夕子も救えず、
 人も救えず、仇も討てず、

 
 灼熱の自責に焼かれ、この身に残るものはなんであろうか
 憎しみか、怒りか、いや、この際なんであっても構わない

 
 茨城大将の何匹かが身じろぐ以蔵に気づく
 以蔵の眼光が真っ赤に染まっていた
以「力が手に入るなら……なんだって……
 それがどんなに浮世の理から逸脱したものであっても
 その正体が、正気を失わせ、死に至る呪いであっても
以「構わねえ……オレは、鬼を、斬る……
 以蔵の髪が揺らめく
 軋む肉が弾け飛ぶ
 男は再び鬼と化すのだ
 その結末がどうなったとしても、もう、獣となった以蔵には理解できないだろう
 鬼の屍の山の上で、永遠に戦い続け、そして果てるのなら僥倖だ
 
 戦場ヶ原に、生暖かい風が吹いていた
 そのとき、どこからか自分を呼ぶ声がした




<胎の間>


 同時刻――
 壬生川の希望、美月を奪われた虚空は、ひとり阿朱羅に立ち向かっていた
 虚空は健康度を燃やしつくし、最後の力を振り絞る
 それは寿命であり、魂であり、命そのものだ
 美月が、烈が、左京が倒れた今、戦えるのは虚空ただ一人であった
 だからこそ、虚空は阿朱羅を討たなければならない
虚「地獄に堕ちるのは、俺と貴様じゃ」
 虚空と阿朱羅の神気が交じり合い、地獄の底に風を呼び起こす





 そんな虚空の決意を、阿朱羅が嘲う
阿朱「今さら、勝てると思っているのか?
虚「どうじゃろうな」
 虚空は運命に抗う
虚「情けない真似はもう見せられん」
阿朱「意地で命を落とすなんて、くだらないねェ
 阿朱羅の腕を、地面を転がって避け、虚空は肩口に槍を刺す、効いている気がしない
虚「ぬしが言うことか、黙って眠っていればよかったのじゃ」
阿朱「無念を遺したくはないンだよ
虚「人のような言葉を抜かすな、貴様の進む先にはなにもない」
 阿朱羅の放つ青白い稲妻と、虚空が最後の力を振り絞って打ち出す紫の落雷撃が、空中で激突し、それぞれ反発して巨大な火花を散らす
 最後の一撃はわずかに虚空が勝る、だが、そこでもう虚空の健康度は底をついた
阿朱「虚無! 結構じゃないか、この世界の原初の姿に戻るだけサ、人も神も、またそこから始めればいい
虚「付き合ってられぬ、そんなものはひとりでやれ――」
 それから二合三合打ち合ったばかりで、虚空は膝をつく
 元々朱点童子の太刀筋は力任せの無茶苦茶なものであったが、今の阿朱羅はそれに増して原始的だった
 両腕を振り回してくるだけの攻撃は、竜子のように洗練された拳術とは打って変わって、軌道を読みやすかったが、傷ついた虚空はそれさえもかわしきることはできない
 未だに槍を握る手に力は戻らない
 粋がったところで、限界、という言葉が鬼のように虚空に囁く
 地上と地獄、それぞれの場所で、壬生川の新旧当主が終わりを迎えようとしているのであった
 阿朱羅が巨漢を揺らしながら迫り来る
阿朱「どんなに強がっても、ひとりでボクは倒せないよ
 そう、阿朱羅は正しい
 ひとりでは、阿朱羅を倒せない
 たったひとりでは、決して
 倒せない
 ただし、

 ひとりでは――だ

 
 ひとりなのか?

 
 虚空は己の指に目線を落とす
 自分の生きてきた意味 
 全ては、ひとつの線に集約してゆくようだった
虚「俺はひとりではない」
 昼子はなんと言っていただろうか
 どっちみち、打つ手はもう他にない
 諦めたり、自棄になる気はなかったが、虚空はゆっくりと右手を掲げた
虚「貴様にはわからぬか」
 阿朱羅は首を傾ける
阿朱「何が?
 虚空は大きく深呼吸をしてから、朝の日差しを眺めるような目で阿朱羅を見据えた
虚「俺の身体に流れる、壬生川の血が」
 虚空の右手が蛍のように輝く
 だから、虚空は握った右手の拳を阿朱羅に向ける 
虚「全ては、この日のためにあったのじゃな」
 白昼夢を見ているかのような虚空の態度に、阿朱羅は高圧的な口調へと変わってゆく
阿朱「なにを言っているンだ?
虚「阿朱羅――」
 
 虚空は右手の――
 当主の指輪を、突きつけた

虚「滅ぶのは、貴様じゃ」

 当主の指輪から光が溢れて――
 お輪が目を見開いた








<再び以蔵>



 生暖かい風が吹いていた

 
 「足りぬぞ、以蔵」
 
 反射的に顔をあげると、そこには幻があった

 以蔵はそれと同じものを、白骨城の夢残ヶ原で見た
 いや、夢の中でも、うなされるほどに見た
以「なんだってんだよ……」
 邪魔すんなよ、と以蔵は言いたかった
 茨城大将たちがなぜか遠巻きに自分たちを見ている
以「今さら、幻が、オレの決意を蝕むのか」
 以蔵はよろめきながら立ち上がる
 その以蔵に、薙刀が押し当てられる
 それはまるで、彼女を屠ったときと真逆の光景だ
 漆黒に銀糸が縫いこまれた着物を纏った彼女は、ゾッとするほどに美しい
 薄い光を放つ幻は、口の端を吊り上げる
 「鬼を殺すために鬼と成り果てるなど、無意味だ」
 疲れていた、以蔵はひどく疲れていたのだ
以「元はアンタの呪いだろ……」
 「俺が託したのは、壬生川の明日だ」
 そう言うや否やだ
 辺り一面だ
 見渡す限り、三十はいただろうか
 その茨城大将たちに、女は二陣の刃を放つ
以「え?」
 まさに光の閃きのような薙刀さばきであった
 それとともに少し遅れて、鬼たちが斜めに傾いてゆく
 神業どころの騒ぎではない
 一瞬で二桁の茨城大将を仕留めるなど、神にすら出来ぬ所行だ
 だが、以蔵にはその奥義に見覚えがあった
 創作者の名前とともに、あまりにもよく覚えている
 
 双光蘭斬――

 一面を血で埋め尽くしながら、肝が冷えるほどに妖美な女は振り返る

 「以蔵、今まで、よく頑張ったな」

 なんで
 鬼を斬ってんだ?
 幻がよ

 以蔵の声なき問いに、蘭は獅子が唸り声をあげるようにして笑う
以「……まさか、蘭姉、なのか……?」
 蘭は首を振る
 「違う」
 所持している薙刀や、見慣れぬ衣装などはともかく
 その緑色の髪や錆色の瞳、それに不遜な態度はまさに、記憶の中の――
 戸惑う以蔵に、目の前の彼女は吐き捨てるようにして言った
蘭「俺は、戦神壬生川だ」
 は?
 やはり疑問の声は喉で詰まってしまう
 一体なにを言っているのか、わからない
 ここが茨城大将に囲まれた中だということも忘れて、以蔵は蘭に見入った
 蘭はなぜだか決まり悪そうに咳払いをすると、改めて言った

蘭「久しいな、以蔵」
 
 その声は、確かに、紛れもなく共に大江山を討伐した蘭のものであり
 なぜだか、以蔵は全身から力が抜けてゆくのを感じる
以「マジかよ……信じらんねえ……」
 口調までも昔のように戻り、以蔵はその場に倒れこんでしまいそうだった
 懐かしさからか、あるいは、安らぎか、崩れ落ちそうな以蔵に、蘭が肩を貸した
 以蔵の手首を掴む蘭の手は、ひんやりとした感触だ
 冬場はずっと寒い寒いと言って、首を縮めていた蘭の仏頂面が目に裏に浮かんだ
以「なんだよ、もっと早く来てくれよ……」
蘭「助けてもらっておきながら、文句を言うな」
以「いや、あんまりこの状況、助かってねえ気がするんだけどよ……」
 今は鬼の姿は見えなくとも、地獄からすぐに増援がやってくる
 それに、昼子や夕子も動かなくなってしまった
蘭「心配するな、おい」
 蘭が空に向かって恫喝したその瞬間であった
 雲の切れ間から、光が降り注いでくる
 光点は明滅を繰り返しながら近づいてきて――
 そうして、地上に激突し、派手な音を立てて、粉塵を巻き上げた
 もうもうと舞う土煙の中から、むせ込みながらひとりの女が姿を現す
 どう見ても人間に見えたが、だが、違う
夢「ゲホゲホゲホ……うぅ~、初めて地上に降りてくるから、ユメ着地の方法がわかりませぇん~……ゲホゲホ」
以「夢姉ェ!!」
 以蔵の声が裏返った
 大声で呼ばれた女は、しばらく目を瞬かせていたが、着物の裾を払うと笑顔で手を挙げた
夢「あ、久しぶりですぅ~、いっくん~」
以「軽くね!?」
 以蔵は思わず怒鳴り声を出してしまって、それからすぐに頭を振る
以「違ぇ! わかんねーよ! 全然わからねえよ! どうなってんだよ!」
 地団駄を踏む
蘭「夢見、昼子と夕子の手当ては任せるぞ」
夢「はぁ~い」
 水色の髪をなびかせてパタパタと騒がしく走る夢見は、やはり壬生川の正装ではない着物をまとっていた
 それはまるで、言うなれば、神が見につける羽衣のようにも見えた
以「聞けよ、オレの話!」
蘭「俺は地獄の穴を塞ぐ、以蔵、悪いがもう一働きしてもらうぞ」
以「ぶん殴っぞ!」
蘭「今は時間が惜しい」
 軽くあしらわれて、以蔵は腹が立つのを通り越して、途方に暮れた
 こうなったら、昼子と夕子の回復を待つしかない
 しかし、たとえ神だとはいえ、死なないというだけの話だ
 喋れるようになるまで、相当な時間がかかるかもしれない
以「わかったよ、わかったよ……どうすりゃいいんだよ」
 以蔵は頭をかきながら、蘭に問う
蘭「決まっている、俺たちの役目は、地獄の鬼を殲滅することだ」
以「あーはいはい、そうかいそうかい」
 なぜだかやさぐれつつある以蔵に、蘭がつぶやく
蘭「約五年ぶりか、朱点討伐隊が揃うのは」
以「あ?」
 以蔵は記憶の断片を拾う
 蘭の言葉と照らし合わせ、辺りを見回しながら肩を竦める
以「ンだよ、ひとり足りねーじゃねえ……か……」
 声が枯れた
 無表情で、土の上に正座して、夢見とともに<円子>を唱えている少女がいた
 土の加護が色濃い髪の毛を後ろで縛ったその少女は、以蔵の視線に気づくと、上目遣いでこちらを見つめてきて、小さく頭を下げた
 鈴鹿だった
鈴「お久しぶりです、以蔵兄上」
 五年前とまったく変わらぬ澄ました顔で、瞳で、以蔵を見据えていた
 頭の中が、真っ白になる
以「……」
 鈴鹿の臨終の有様が、以蔵の頭に思い出される
 意味もなく、以蔵は叫びだしたい衝動にかられた
 
 う、うああああああああああああ

 身体が燃えるように熱い
以「お前、鈴鹿、お前……」
鈴「はい?」
以「お前、お前……」
鈴「何ですか?」

 何食わぬ顔で聞き返してくる鈴鹿は、まるで本物そのもので
 というか、偽者だと疑う発想すらなく
 混乱している以蔵は――

以「…………………………………………故障、直ったのか……」
 
 振り絞るようにして、そううめくことしかできなかった
 




<大江山付近>


 かつての都から、京へと侵入を果たすために、彼らは潜んでいた
 薄暗闇の森の中、鬼たちの鋭く紅い眼光がいくつも明滅する
 百か、千か、それとも万を越えるか
 おどろ大将の軍勢を率いて、一番槍を務め上げるものが、先頭に立ち、機を待つように瞑目している
 
 朱点軍の最高戦力のひとり――
 氷ノ皇子である
 
氷「ほお
 彼がゆっくりと開いた口から、真っ白な冷気が漏れた
氷「ぬしらが止めにきおったか
 壬生川を除く人間では、決して敵わないであろう彼に立ち向かうは、神々
 全身から燐光を放ちながら、男は道を塞ぐようにして立っていた
力「ずっと前から、てめえは気に食わなかったんだ」
 刀を腰に下げたまま、力斗は拳を構えて、地に根を張るようにして足を広げた
道「おい、力斗……なにをしているんだ、拳法家の真似事か」
力「ちげえよ、ああいうやつは、殴り飛ばしてやらねえと気が済まねえんだ」
貞「憂さ晴らしにお付き合いするために、下界に降りていたわけではありませんがな」
 力斗の後ろから、ふたりの神が現れる
 それぞれきらびやかな衣装を見につけており、非常に位の高い神であることが知れた
 氷ノ皇子か、それ以上か
力「後ろの奴らは、任せていいか」
道「元から、僕たちはそのために来たんだ」
貞「クククク……」
 緊迫する空気に水を差すかのように、底冷えするような笑い声が辺りに轟く
貞「天界で改良に改良に改良に改良に改良を重ねた……この大筒“禍津日”にて、撃ち滅ぼしてくれましょうぞ……クク……」
道「ま、またすごい禍々しい名前をつけるね、貞光、いや、ていうか、神様がカラクリ兵器で戦うのはどうなんだろうな……」
 おどろ大将たちに向けて照準を構える貞光の隣で、道明は首をひねる
 その一方で、氷ノ皇子と力斗は拳を交えている
 天界第一位の男神と互角に勝負を繰り広げる力斗は、一体どのようにしてその力を手に入れたのであろうか
力「天で話を聞いてりゃ、グダグダグダグダ抜かしやがってよォ!」
 力斗の身体は木々をすり抜け、緑色の光となって氷の皇子の腹に、横っ面に、次々と拳打を叩き込んでゆく
 氷ノ皇子ですら防戦に手一杯なほどの威力と勢いで
力「息子のため息子のためって、女々しいんだよテメエ!」
 力斗のその蹴りが氷の皇子の守りを破る
 樹木に背中を打ち付けられた氷ノ皇子は、そのままの態勢で冷凍攻撃を放つものの、力斗の手のひらに弾かれてしまう
氷「熱いな……おまえたちの心は……
力「あの朱点童子が間違った道に進むとわかってンなら、畏まってねえで、全力で止めろよ! それが――」
 嵐のように迫る力斗の無数の拳撃は、氷ノ皇子の手さばきを悠々と越え、氷塊を削るように氷の皇子の身体を刻んでゆく
 力斗の渾身の打突とともに、どんっ、と強烈な音を立てて氷ノ皇子が背にしている樹木が割れた
 氷ノ皇子の身体がくの字に折れる
氷「それこそが私の血、私の命……昔、私が人間に、くれてやったものよ……
 力斗は再び右腕を振りかぶり、怒鳴る
力「親父のやることじゃ、ねえのかよおおお――!」
 放った拳は、氷ノ皇子を叩き砕く
 水晶が割れるような音とともに、氷ノ皇子の身体は無数の破片となって、弾け飛んだ

氷「自らが与えた熱い血潮が、こんなカタチで、再び自身に戻り来るとはな……アハハハ…これでは、どちらが親か、わからぬではないか!

 氷ノ皇子はこうして、天界へと昇ってゆく

氷「アハハハ……ハハハ……愉快千万じゃ! 二百年ぶりに、腹の底から、笑ろうたわ!

氷「アハハハハハハ……
 
 氷ノ皇子の笑い声を背景に、ふぅ、と力斗は息を抜く
力「……ったくよ……親父なら、もっとしっかりしろっつーんだ」
道「悪かったな」
力「あん? なにだが?」
 ようやく刀を抜く力斗に、道明はため息をつく
道「娘というものは、難しいんだ」
力「ハッ、そういやお前んとこはまぁた喧嘩してたんだってな、うちの柚子はそんなことまったくねえぜ、俺の教育が良かったんだろうな!」
道「力斗に自慢されると、なぜだろうな、ふつふつと血が滾ってくるよ」
力「ハハッ、いいじゃねえか、これからひっさびさの戦だ、思う存分楽しめよ、なあ、貞光」
 肩を組む力斗と道明が貞光のほうを向くと、彼は地面に片膝をついて大筒を肩に担いでいた
 大筒の筒口に光が収束する
 すぐに大筒から、目も耳も聞こえなくなりそうなほどの光が溢れた
 爆風で、力斗や道明の前髪がめくれ上がる
 衝撃波が周囲の木々をなぎ倒し――そうして、全てが収まったときには景色は一変していた
貞「ククク……」
 大筒から発射された光の粒子は山の根元を抉り、地形すら変えて、おどろ大将の陣の一部を完全消滅せしめていた
 貞光はゆっくりと立ち上がると、満足そうにうなずく
貞「これも全て、ほたる殿のお力添えのおかげ……ククク、満足ゆく仕上がりになりましたな、おや?」
 その首根っこがふたりによって掴まれて、貞光は宙ぶらりんの態勢のまま振り返る
力「……貞光、地上はてめえの実験場じゃねえんだからな」
道「……とりあえず、その大筒はしまっておいてくれ、都が滅ぶ」
貞「……クククク」
 貞光は笑いながら、大筒を背負い直すのであった
 



<京の都上空>

 
 日暮れの空に一匹の獣の笑い声が響く

お夏「アハハハハ……み~んなみ~んな、焼けちまえッ! 焼けちまえッったら、焼けちまえーッ!!
 
 朱点童子・黄川人によって解放された鬼、赤猫お夏である
 お夏は心から楽しそうに空を翔る
 その後ろにはおびただしい数の、何百、何千といった天魔大将たちが群れを成していた
 猫は群れを作らない動物であったが、今回ばかりは違うようであり、それよりなにより、大勢の手下を率いたお夏の表情はやけくそ気味ではあったが、綻んでいた
 空から京を焼き尽くすのが、彼女らに与えられた役目である
 上空からの雷撃と発火を人間たちに防ぐ手立てはない
 
お夏「英明だか聡明だか知らないけどサッ、ごリッパな名前しちゃって! 人間のくせに神様を調伏できるとでも思ってンのかね!
 
 お供を連れて気を多くしたお夏の口は軽い
 眼下に都が一望できたところで、お夏は止まって両手に炎を宿す

お夏「あんな青びょうたんが護っている都なんて、ハッ、あたしの火種でみ~んなみ~んな――
 その刹那である
 空から落ちた一筋の光が、お夏に激突する
 お夏が驚く暇すらもなかった
 なにが起きたのかもわからず、お夏の身体は破裂した
 それが一振りの槌によって行われたということに気づいたとき、お夏の魂は天界に昇っていた
 
お夏「えっ、えっ、えっ……あぁ、ヤだヤだ! 退屈な天界に逆戻りするのは、イヤ、ニャアア~~!!
 
 お夏が解放される様を、身近で目撃していた少女は、ふっとため息をついた

柚「よかった……わたしにも、できた……」
 宙に浮かぶその女の頭が、後ろから小突かれる
柚「あうっ」
瑞「なぁに今さら、かわいこぶってんのよ……天を砕き、大地を砕き、海を砕く天下御免の破壊神が」
柚「わ、わたしそんなんじゃないよう~、守護星って言われているんだよぅ」
 腰に手を当ててため息をつく赤毛の女は、薙刀を背負ったまま、向かい合う天魔大将のおびただしいまでの数を眺めて、今一度ため息をつく
瑞「あーやだやだ、神様になってまで働かされるなんて……あたいは、早く帰って踊りと小唄のお稽古の続きしたいわね」
柚「そんなこといわないで……み、瑞穂、ってば、みんなの命がかかっているんだからね」
 照れながら口ごもる柚子に、瑞穂は怒声を返す
 ただし、その顔は真っ赤である
瑞「あ、あ、あんたね! 言うならもっとスッと言いなさいよ! 余計に恥ずかしいじゃないの!」
柚「みずほっ!」
瑞「なによ!」
 互いに頬を染めて睨みあう神の間に、穏やかな女性が割って入る
ほ「ああ、仲良きことは素晴らしきかな……ですが、うふふ、おふたりとも、じゃれあうのは上でもできますし」
瑞「下界に落とすわよほたる!」
ほ「まあまあ、瑞穂様、まあまあ」
 菩薩のような微笑を浮かべながら、ほたるは両手を振る
ほ「でもですね、ご先祖さまたちも頑張ってらっしゃることですし、私どもがサボっているわけにはいかないと思いますの」
瑞「うっ」
 瑞穂は痛いところを突かれたとばかりに勢いを失い、代わりに真剣味を帯びる
瑞「まあね、わかっているわよ、行きましょう、柚子」
柚「もちろんっ、瑞穂っ」
ほ「うふふふ、いいですのね、こういうの、懐かしい感じがしますの」
瑞「あんたはホンットに鬱陶しいほどマイペースね……」
柚「それが、ほ、ほたるの、いいところだよねっ」
ほ「きゃっ、なんだか恥ずかしいですの、あっ、幻灯屋さんを呼んで私たちの晴れ姿、納めてもらいたいですのね、ちょっと京へ参りましょうか?」
 嬉しそうに目を細めて頬を染めるほたるに、瑞穂が怒鳴る
瑞「あんたが一番不真面目なんじゃないのー!」
ほ「いやですの瑞穂様……そう仰られてしまいますと、私としても頷かざるをえないですのに……」
 笑みに影を落とすほたるに、柚子が拳を握りながら励ます
柚「み、認めちゃだめだよほたるっ、がんばっ」
瑞「だあもう、付き合ってられないわっ」
 叫び、瑞穂は薙刀を構え直す
 三柱の神は、圧倒的な物量を要する鬼たちに立ち向かってゆく
 そして、一向に引けを取らない

 夕焼けに照らされた三つの星が、空に瞬く
 その輝きとともに、人々は奇跡を仰ぎ見た
 




<都・大内裏>

 
 その頃、都の最大戦力にも等しい阿部晴明は宮城に呼び出されていた
 万を越える鬼の軍団が帝を狙って、京に行軍しているのだ
 都を守護する命を与えられていた晴明は、京を守る結界を縮め、帝の周辺、すなわち、大内裏に限定することにより、より結界を強固なものとして維持するのだと、宮仕えの大臣から指示されたのだ
 そのことに色々と思うところはあったが、とかく、晴明はその命令を承る
 恐らく、京に住む民は、守護隊ごと根絶やしにされるであろう
 だが、幼き帝は生き残れるかもしれない
 いくつか気になっていたのは、迷宮の奥深くに住まう神の成れの果てが動き出すかもしれないという話だった
 晴明四天王の総力を結集しても、さすがに神には力が及ばないであろう
 だから、もし本当に鬼の親玉が攻めてきたのなら――
 そのときは、人が滅びるときだと、晴明は確信していた
 離れの一室で一心不乱に呪を唱えていた晴明の元に来客が訪れる
 それは誰であろう、幼き帝だった
 さすがの晴明でも、帝を無下に扱うことはできない
 丁重にご用件をお尋ねすると、供をわずかに従えただけの無用心な帝は言った
「空が真昼のように明るい」と
 晴明は眉をひそめる
 すでに時刻は夕闇に差し掛かっている
 帝に促され、詰所を出た晴明は、空を見上げる
 
 そうして、それを見た――
 
 あれは、そう、いつだったか
 大江山に光が落ちて、悪鬼が鬼の身体に封じ込められた日と同じ光景だ――
 
 まるで星々が落ちてくるような絶景が広がっていた
 輝く天の川が、架け橋となって地上に降りている様は、光の虹のようだった
 その橋を渡って、威光を帯びた何柱もの神々が大地を目指して歩みを進めているのだ
 美しい女神も、雄雄しい男神も、皆が意思の強い瞳をして、定めを背負っているのだと容易に知れた
 見上げるだけで、晴明ですら、菩薩樹の根元に抱かれているかのような、絶対的な安堵を感じられたのだ

 帝が興奮気味に喋っているのを、晴明はどこか遠くに聞いていた
 京の人々もまた、その神たちについて、想いを馳せているのだろう
 だが――
 晴明が驚愕していたのは、それだけではない


 
 何者なのだ
 
 あの者たちは
 


 晴明は神たちの容貌に、誰一人として心当たりがなかった


 それもそのはずだ
 彼の耳には、京の人々の熱狂的とも呼べる歓声が聞こえていない
 地鳴りすらも引き起こすほどの興奮が届いていない 
 

 神の社から降りてきた神々の中から、三つの光が枝分かれし、こちらにやってくる
 鮮輝をまといながら現れた三柱の神は京の都の真上で停止した
 薄い慶雲に乗っているのは、全て女神だ、どれもやはり見たことがない

 長い髪の両の房を顔横で結んだ女神は、麗々と舞いながら、指先から碧の雫を京に降らせていた
 まるで色のついた慈雨のようであったが、その正体は<春菜>や<卑弥子>と同種の術である
 舞いながら彼女は、鬼に襲われた町人の傷をたちどころに癒している
 女神が打ち水のように手のひらから珠の水滴を振り撒くたびに、人々は欣喜した
 
 
 そこでようやく、晴明は彼らが紛うことなき救いの主であることを知った




 天つ宮から地上に降り注ぐ虹彩
 火と水と風と土に護られし、一騎当千にも等しき彼らの光輝なる名は






 

 壬生川氏神一族――
 




 
 玄輝自在父
 伊織観音母
 臥蛇丸大聖
 夏海御珠姫
 のの香勝利姫
 日之本幸四郎
 普賢ノ巻絵
 佐和天遊子
 初子大如来
 戦神蘭
 運命糸夢見
 清乙女鈴鹿
 門司大三元
 山ノ神伽子
 英雄晴天王
 翠白山天
 力斗降三世
 道明賢文聖
 摩多羅貞光
 守護星柚子
 高千穂瑞穂
 慈母胎ほたる
 

 以上、
 二十二柱の神々であった
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by RuLushi | 2009-09-15 09:13